ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.98より
偽りの豊かさを得るために、 本物の豊かさを踏みにじるな! ― 上関原発計画中止を求める100万人署名にご協力ください ― 三浦翠(原発いらん!山口ネットワーク) 左後方のクレーン船の接近を阻止する祝島の漁船団と、 仮桟橋上に座り込む祝島の人たち 上関原発予定地・田ノ浦(写真・那須圭子) ● 6月10日 祝島島民の会 中電をブロック 3年前、祝島の人たちと中国電力の大攻防戦の末、ついに田ノ浦の浜の一角に据え付けられてしまった仮桟橋を、中電が50m移設するというので阻止行動が行われた。 夜半からの大雨で、浜に降り立っても4km対岸の祝島の姿はすっかり雨霧の中。浜では焚き火をしながら見慣れた祝島の人たち60人。強い風のせいか大雨の中でも火が勢いよく燃えることに驚く。 8時過ぎに30人のガードマンが到着。ガードマンを浜に下ろすまいと道をふさいでにらみ合う。 そのうち、3年前と同じように戸津港を出たと思われる大型クレーン台船が、海上保安庁の船につきそわれて、雨霧の中に姿をあらわす。祝島の漁船30隻が、曳航する船の行く手をさえぎる。 その攻防が2時間も続くうちに、風が強くなり、姿を見せた祝島の頂上あたりに横長の雲がかかる。この雲は嵐の前触れだという。 「中電には勝てても自然には勝てんから」と、祝島の人たちは、あっというまに浜から山戸さんの「東海青」という浅い船に乗り、次々と沖の漁船に乗り移って島をめがけて荒波の中を帰っていった。 その直後、中電もその日の作業の中止と撤収を決めた。 3年前と違うのは、あの時写真を撮り続けたのは仲間の那須圭子さんただ一人だったが、今回は「ぶんぶん通信」と「祝の島」という2つの映画のカメラも回っていたことだ。 多くの人が、上関原発計画のばかばかしさ理不尽さ許しがたさを、早く知って、止める力になってほしいと強く願う。 ● 豊かな浜、豊かな海 上関原発の予定地田ノ浦の浜とその周辺は奇跡ではないかと思えるほどに生態系の豊かな場所である。 ヤシマイシン近似種という微小な貝は田ノ浦で発見された新種の巻貝であり、世界的にも貝類の進化の鍵を握る種として注目されている。ほかにもカサシャミセン(貝)、ナメクジウオなどの希少種や危急種が多数生息している。海藻の豊かさも国内では西表の海に並ぶという。とくにスギモクの群落は西日本最大級である。 このような小さな生き物や海藻の豊かさが、多くの魚を育て、それを餌にするスナメリの生息数が瀬戸内海で唯一増えており、ハヤブサのような猛禽類をふくむ生態系が丸ごと存在する貴重な海域になっている。 さらに最近になって、カンムリウミスズメという日本にしかいない天然記念物・絶滅危惧U類の海鳥も発見されている。 祝島の人たちは、万葉の昔から、この豊かな海を漁場として魚をとって暮らしてきた。 仮桟橋の下に座り込む祝島の人たち(写真・那須圭子) ● 祝島の闘い 祝島は、上関原発予定地田ノ浦の真正面4km沖合いに浮かぶ人口500人の島である。 上関原発計画が浮上してすでに27年。出稼ぎで原発内労働を体験した十数名の人たちから放射能汚染の恐ろしさを語り聞いていた島の人たちは、もし原発ができれば自分たちが毎日魚をとっている海が放射能に汚染されるとして、一貫して反対運動に身を挺してきた。 毎週月曜日の夜、島内の細い路地を「原発反対エイエイオー!」とねり歩く月曜デモは昨年1000回を超えた。 上関町の他の地区が中国電力の容赦ない買収工作によって、原発の金に頼る町作りを強いられるなか、祝島の人々は、誇り高く、島独自で原発の金に頼らない暮らしを目標に実績を積み上げてきた。 無農薬のびわ、びわの葉を加工したびわ茶、ひじき、干し大根、魚の干物、たこの燻製、塩辛、無農薬のみかんなど、いずれも品切れ続出の人気商品になっている。 数年前、北海道からUターンした氏本さんは荒田を利用して養豚を始め、高級ソーセイジも祝島の産物に加わった。 単に経済面だけではなく、伝統の華麗な海の祭り「神舞」も復活。島内で生涯を終えられるようにと島民同士で介護を可能にするとりくみも始まっている。 このような自立した島の人々の活き活きと明るい暮らしぶりは、多くの若者の心を捉え、祝島ファンが増えている。 ● 仕組まれた漁業権強奪 2000年4月、当時の107号共同漁業権管理委員会は、祝島を除く7漁協だけで、中国電力と125億円の漁業補償契約を締結。これによって、主に祝島漁協だけの漁場であった田ノ浦と祝島の間の海を、そこではほとんど漁をしない7漁協が、勝手に中国電力に売ってしまったのである。 本来、共同漁業権管理委員会は、互いにより良い漁をするための対等な話し合いの場であって、多数決でものを決めるような場ではなかった。まして、その内の一つの漁協の漁業権を奪うような決議など論外である。 ここには山口県の犯罪的な深い関与がある。共同漁業権管理委員会の漁業法は県条例であり、10年に1回更新される。1994年の更新の際、山口県は漁業法の条文の中にこっそりと「多数決で決める」という1項を忍び込ませていた。 この条文が、祝島を除く7漁協だけによる漁業補償契約の有効性を根拠づけ、裁判所もまたこの条文を盾に漁業補償契約を有効とした。 ● 祝島は負けない しかし、祝島はこの漁業補償契約を認めず、補償金の受け取りを拒否している。 7漁協だけによる漁業補償契約は違法であるとして起こした裁判で、一審の岩国地裁は、漁協としての漁業権は認めなかったが、個々人の自由漁業・許可漁業の権利を認めて、原発予定地周辺海域で祝島漁民が漁を続ける権利があるとした。二審の広島高裁はそれを認めなかったが、補償金を受け取らない祝島の人たちには、生存権としての漁業権があるはずだ。 一片の条文で祝島漁民をここまで追い込んでしまうような県の行政の方こそが今、裁かれるべきだと思う。 ● 埋め立て着手7月にも 中電は6月22日、絶滅危惧U類の海鳥カンムリウミスズメが「近海で繁殖している可能性なし」と勝手に調査の打ち切りを発表した。 専門家によれば、カンムリウミスズメは毎年繁殖するわけではなく、少なくとも5年間は観察しなければその生態をつかむことはできないという。カンムリウミスズメは日本にしかいない鳥だ。中電のような野蛮な企業に生息地を奪われてはたまらない。 この奇跡とも言えるすばらしい海を埋め立てることは決して許せない。祝島の人たちの生存権がかかっている海だ、埋め立ててはならない。 ● 原子力政策からの撤退を! 今、原発の新規立地を許すこと自体、とんでもない時代錯誤だ。 再処理工場の高レベル廃液はどうするのか。チェルノブイリ原発事故で放出された9倍もの放射能を含む廃液が活断層の上で手の施しようもなくプールに貯められたままだというのに。 原発からのフォールアウトが日本全土を被いつくして癌や白血病、先天性疾患に数え切れない人々が悩まされているというのに・・・・。原発を作るのでなく、減らす、なくすことこそ国全体の急務である。 世界が持続可能なエネルギーとして自然エネルギーの研究開発、利用拡大へと大きな努力をしている時に、日本は貴重な自然を壊して、こともあろうに原発を作ろうとしているのだ。 こんな馬鹿なことは市民の力でやめさせよう! ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.98もくじ (09年6月20日発行)B5版28ページ ●偽りの豊かさを得るために、本物の豊かさを踏みにじるな!(三浦翠) ●フィリピン・原発反対運動に警察と軍による弾圧! ●バタアン原発復活法案が国会本会議で可決か ●台湾・台東 核処分場計画の反対運動活発 ●10/3全国集会に ご賛同を! ご参加を!(松丸健二) ●MOX燃料の装荷は、「核のごみ捨て場」のはじまり(安楽知子) ●(米国下院議員による)南太平洋上における核燃料輸送を避難する特別声明 ●たんぽぽ舎20周年の集い(今井孝司) ●処分場問題の現場から 福井・九州・北海道【後】(横田信行) 見本誌を無料で送ります。ココをクリック 年6回発行です。購読料(年2000円) ************************************************ [目次へもどる] |