ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.92より

NNAF 2008 各国報告から
 
タイの原発計画と私たちの取り組み

   AEPS(持続可能性のためのオルタナティブ・エネルギー・プロジェクト)

● 背景

 1970年代初頭から、タイ政府は原発の導入を試みてきた。政府が原発の導入政策を発表するたびに、タイ民衆からは即座に反対の声が上げられてきた。

 現在、首都バンコクに2000kWの研究炉がある。1977年にアメリカ政府から提供されたものである。

 政府は1993年、ナコンナヨク県のオンカラックに1万kWの新しい研究炉を建設することを許可した。しかしこの計画は、1998年から2002年にかけて地域住民から激しい反対運動にあい、汚職の問題もあり、現在も操業に至っていない。

 人々へのキャンペーンの実施に際しては、1998年にタイで開催されたNNAF等から有益な情報を得ることができたことを感謝したい。

 しかしながら、オンカラックの計画は撤回されたわけではない。たぶんまもなく、商業炉稼動への準備計画を支えるという新しい目的を帯びて復活してくると思われる。

 過去30年間、タイの人々は原発に対して強い反対の意思を示してきた。しかし、燃料価格が高騰し、地球温暖化の問題がとり上げられ、国内において石炭火力発電所建設に反対する大規模な運動が闘われたことは、タイにおけるエネルギー消費に関する人々の不安を引き起こした。

 さらに、2006年9月19日のクーデターにより非民主的な政権が成立した。民主的ではない政治が行われることとなり、再び原発を実現したいと考える推進派が力を得てきた。

● 原発プロジェクトが許可された

 軍事政府は2007年初頭、新しい「PDP(電源開発計画)」を承認した。このPDPにおいては、今後15年にわたる国内の電源開発長期計画が立てられており、これによると原発を建設して2020〜21年までに計400万kWの総出力を見込むとしている。

 政府は、6つの委員会を任命し、法律、予定地、PA(パブリック・アクセプタンス)などいくつかの分野において、将来の原発導入へ道を開くとしている。政府は、原発建設計画の策定のための機関を設置して、18億バーツ(約60億円)を計上した。このうち6億バーツは3年間のPA活動に当てられるという。

 原発計画がタイにおいてこのように復活してきたことは、非民主的な政権が民衆の意見を聞き入れず参加を認めなかったことも一因であったと思われる。

 政府と関連機関は、タイのエネルギー事情に関して、一方的で混乱した情報を用いており、原発以外の発電方法はないと印象づけようとしている。

 もっとも不安なことは、民間セクターが原子力を支持して集中的に役割を表明し始めていることだ。

 さらに、マスコミの中には、これまで政府に批判的であったのに、原発問題に関して彼らの考え方を翻したものもある。

 2007年の終わりには、エネルギー大臣がマスコミの幹部たちを同行させてフィンランド、ドイツ、フランスを歴訪して石炭火力発電所と原発に関する視察を行った。隠された目的は、これらの執筆者たちが原発に関してさらに前向きな論調で記事を書いてくれるよう促すことであった。もっとも明らかなプロパガンダとしては、「フィンランドとフランスも原発を見直し始めている」というものだ。これらの国は、原発を新規建設している。

 さらに日本も、「世界で唯一核エネルギーの災厄と苦難を経験したにもかかわらず、日本人は原発を支持している」として言及されている。日本では最近建設された原発もある。

 この4月には、タイ銀行協会、タイ産業連合など多くの民間セクターが原発推進活動を開始し、政府に対して予定より早く原発建設計画を進めるよう要請した。彼らは、13年後に原発が操業開始することを期待している。彼らは、ベトナムとインドネシアも原発導入を計画していることから、東南アジアでの将来の競争におけるエネルギーコストについて主張している。

 政府は立地可能性調査をしているだけだと表明しているが、政府が2014年から原発を建設したいと考えていることは明白である。原発を2020年までに操業させるために、政府は4期に分けた行動計画を策定している。

 第1期 2008〜10年 PA活動。人々に原発を受け入れさせる
 第2期 2011〜13年 原発建設計画を策定
 第3期 2014〜19年 原発建設
 第4期 2020〜21年 原発稼動開始

 政府はまだ原発建設の予定地を明らかにしてはいないが、彼らが狙いを定めている地域はチュンポーン、ラノーン、スラーターニー、ナコンシータマラートなど南部の地域である。そういった地域の人々は原発について何も知らない。政府が予定地を明らかにしていないため、それらの地域の人々はまだこの問題について知らされていない。それらの地域では、原発に関する情報を提供している団体・NGOはない。

 興味深いことには、この3月にエネルギー大臣が記者会見を行い「いくつかの県の人々から原発を建設してほしいという手紙が届いているが、それらはみな中部の県からであり、そういった場所は原発の建設には適していない」と述べた。この現象は、原発に関して国が行っているプロパガンダに関して看過できない問題を反映している。

 より巧妙な手段も用いられている。たとえば、政府は補助金を提供するための法律を通過させた。この「地域開発基金」は、新しい発電所が建設される場合は、公的であれ民間であれ、責任機関が周辺地域に対して補助金を払うというものである。この補助金は発電された電力の売り上げが財源となる。

 多くの地域にとっては、金額があまりにも大きなものである。こういったことによって、将来的にはさらに地域の分断が生じると思われる。

● 私たちの取り組み

 過去数年の間、私たちはタイ持続可能エネルギー・ネットワーク(SENT)を結成して、タイのエネルギー政策の問題点についてキャンペーンを行ってきた。このネットワークは、AEPSやパランタイ、タイ消費者連盟などのNGOや知識人らが結集したものである。SENTはPDP(電源開発計画)の見直しや原発の問題点についてキャンペーンを行っている。

 原発計画を中止させる本当の力は、主要には、地域の人々が問題に目覚めて反対運動に立ち上がることによって実現される。私たちはそのことをよく理解している。しかし、私たちのような小さなNGOにとっては、上記の4つの県はあまりにも距離的に遠いことから、地域レベルで集中的なキャンペーンを行うには無数の障壁がある。
 
 私たちが早急に取り組もうとしている計画は、原発とそのもたらす結果に関するさまざまなパンフレットやビデオを製作することである。こういった資料を4つの県で広く配布し、さらには、10月か11月にはバンコクと4つの県で公開フォーラムを開催するつもりである。こうした活動によって、推進派によって行われているPA活動を跳ね返していきたい。

 アジア各国のNNAFのメンバーの皆さんたちをぜひ招待したいと思っている。10〜11月のフォーラムによって、タイ国内で原発反対の世論を喚起したい。

 タイの人々は、原発の本当の問題点について学ぶため、さらに多くの機会を必要としている。



ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.92もくじ

              
 (08年6月20日発行)B5版16ページ

● NNAF 2008 日程・各国参加者   
                  
● タイの原発計画と私たちの取り組み (AEPS)  
            
● 台湾における反原発運動の現状および展望 (高成炎) 
           
● 柏崎刈羽原発を廃炉へ! (金子貞男)    
               
● 柏崎刈羽原発の耐震補強は・・・ (高橋新一)    
             
● 全国の原発を廃炉に (小木曽茂子)

● 柏崎が教えてくれたこと (チェ・スーシン)

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