ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.90より
公開質問状


2人の総統候補者(謝長廷氏・馬英九氏)に問う

 「日本新潟県の地震からどんな教訓を得たか?」


     台湾環境保護連盟・郭金泉   (「Taiwan News」1月25日号より)

 3年前に起きた日本新潟中越地震の災害の傷痕がまだ残っていて、みなが恐怖を抱えているのに、2007年7月16日、新潟県でまた地震が発生した。震源は柏崎・刈羽沖深さ約15 kmの海底で、マグニチュード6.8の地震である。

 柏崎市、刈羽村、長岡市の観測では震度はともに6を超え、「新潟県中越沖地震」と呼ばれる。この地震により柏崎市と刈羽村で15人が死亡、186人が重傷、1804人が軽傷を負った。家屋全滅が1276棟、半壊が約5000棟、部分的損壊が約23000棟である。刈羽村では94%の住宅が損傷した。
 道路も寸断され、水道、ガス、電力、情報などライフラインも止まった。

 柏崎・刈羽には原発が7基あり、発電量は821万kWと、世界最大の原発である。そのうち6・7号機は進歩型沸騰水式原子炉で、台湾で建設中の第四原発と同一機種のものである。地震の際の原発の安全性が国際的に焦点となった。

 東京電力に属する柏崎刈羽原発は震源から23km(震央から16 km)。地震によって、柏崎刈羽原発の敷地の海側は120cm陥没し、敷地の中央は10cm隆起した。敷地内はいたるところで地層が陥没し、道路には波のようなうねりが現れ、段差が生じている。

 地震発生当時、柏崎刈羽原発7基のうち、1・5・6号機はちょうど定期検査中で運転していなかった。運転中の4機(3・4・7号機と起動中の2号機)は地震の揺れで緊急停止し、重大な災害が発生するのを免れた。不幸中の幸いといえる。

 3号機の変圧器に火災が発生し、黒い煙が立ち、火は2時間後にやっと消し止められた。

 国際原子力機関IAEAが8月6日から10日にかけて検査を行った。

 6号機の天井クレーンの駆動軸は破断し、一時貯蔵場としての使用済み核燃料プールは、周期的な振動が発生しプールの水が大幅に揺れ、放射能を含んだ水がプールの外にあふれ、さらに排水口から建築物の外に流れ出すといった事態になった。
7号機の排気塔からは放射能が測定された。
5号機では燃料棒が取り出せず、6号機と7号機では制御棒の正常な操作が行えない(引き抜けない)といった事態が発見された。

 地震が発生した際、1号機の原子炉の最下層で観測された東西方向の振動の強度は、振動の大きさを加速度で表す単位で680ガルで、施設の上方では1000ガルを超え、設計値の273ガルを大幅に超えている。タービン建屋の1階では1459ガルを記録した。

 全号機で地震設計の基準を超える記録を出している。
大小さまざまな損傷は3000件を超えている。

 地震発生当時瞬間的な揺れで、窓ガラスは破損し飛び交い、家具は散乱し、家屋の壁は傾き、停電、ガス管の漏れなどが起こった。その上、道路は隆起し、亀裂が入り、寸断され、地震発生当日は日本の祝日(海の日)で天気も良く、大多数の地元住民は外出していて偶然的に災難を免れた。しかし、新潟県の美しい海岸線の海水浴場と観光スポットは訪れる人もなく、毎年夏の休日には平均100万人が訪れるこの観光地は2000億円のビジネスチャンスを失ったことになる。

●今回の地震で何が問題か?

1、 原発の地盤問題と合法性

 柏崎刈羽原発は建築当時から地盤の弱さが疑われていた。1974年当時住民は「豆腐の上に建てる原発」と批判し、1号機の建設許可取り消しを要求して裁判となり、今も最高裁判所の審議中である。

 1981年に制定された日本原子力安全委員会の「耐震審査指針」では、原発などの重要建築物は岩盤の上に建設しなければならないと規定されている。

 日本政府は、原子炉施設を計画建設する際、用地とその周辺の陸地海域とも地質調査をしなければならず、活断層などがないか調べる必要があると規定している。建築物の耐震強度は、地震の規模ではM6.5、震源の深さを10 kmとしている。

 東京電力は1980年代に2・3・4・5号機の建設許可を申請する際、海底の断層調査を行ったが、当時は「(考慮すべき)活断層はない」と発表していた。

 今回原発の建築物内で測定された振動強度は設計時の予測を2.5倍も上回り、事後の調査でも、活断層が原発の真下にあることを確認している。そのため原発は違法建築である。

 2003年に東京電力が行った再調査では7つの活断層が確認され、国に報告もされているが、国家の高層関係部門は秘密にして何も言わず、事件後に東京電力が地元住民に配布した資料は2003年以前の地図を使用し、このように公共部門と企業がぐるになって悪事を働く態度は、被害者にとっては耐え難いこととなっている。

2、地震後の原発設備の安全性について


 東京大学金属材料科学名誉教授の井野博満氏は、「金属は、弾力性変形性の特性を持っているが、弾性限界を超える力が加わると硬化し、もとに戻らない塑性変形を発生し、きわめて危険である」と述べている。

 柏崎刈羽原発1号機はすでに運転20年である。一番新しい7号機も10年の歴史がある。日夜長期にわたっての運転による老朽化も含めて考えると、再使用すべきではない。

 柏崎刈羽原発は、日本海東縁の変動帯(ひずみ集中帯)に位置し、地殻活動度の高い信越褶曲帯の真ん中にある。活断層も多い。柏崎刈羽原発が再び大地震に見舞われる可能性を否定できない。今回の地震では、大災害には至らなかったのが、奇跡といえ、運が良かったとも言える。

 外観的には亀裂がなく損傷も見られなくても、潜在的に損傷を持った柏崎刈羽原発。補強をしたとしても、その原発を運転し続けて我々は安心できるのか? もし将来、重大事故が発生した場合、古傷に加えての新たな傷では連鎖反応を起こし、災害は収拾のつかないものとなる恐れがある。

 そのとき、道路は地震により寸断され、交通も遮断され、情報も止まり、同時に家屋も崩壊し、住民は室内に避難することさえできず、放射線を浴び続けなければならず、火災や津波などが襲い、お年寄りや体の不自由な住民の避難もままならず、外から打つ手もなく、救援物資も送れず、救済活動も及ばず、住民は座って死ぬのを待つだけの状態になる恐れがある。

 柏崎市長の会田洋氏は07年7月18日、消防法に基づいて東京電力に運転停止を命令した。9月9日、新潟県民は「さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト」を発起し、全国署名運動を展開している。また、同月新潟県の泉田裕彦知事は原発が廃止になる可能性を発表した。現在柏崎刈羽原発のすべての施設は運転を停止しており、運転再開のめども立っていない。
 
 同じ環太平洋地震地帯に属する台湾でも、今年原発老朽化30周年を迎える。原発周囲に活断層も存在している。台湾の原発の耐震設計は、300〜400ガルと、日本(*浜岡)が新たに規定を修正しようとしている値の1000ガルよりもはるかに低い。台湾は土地も狭く人口密度も高い。一度原発事故が起これば取り返しがつかない状態になる。

 選挙を目前に控えた台湾の両党の総統候補者は、口々に人民の声に耳を傾けると言っているが、日本の新潟中越沖地震からどんな教訓を得たのか? 台湾はどのような原発震災対策を採るのか?


              左から郭金泉さん、伴英幸さん、呉文通さん (呉さん宅で)

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