ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.89より

台湾に柏崎刈羽原発の真実を伝えよう


                緑色公民行動連盟 チェ・スーシン

 新潟中越沖地震の直撃により、世界最大級の原発が止まってしまった。柏崎刈羽原発はこのまま閉鎖を迎えるかもしれない。

 しかし、台湾のマスメディアがこの事故に関心を持たず、人々は情報不足のため、この事故の深刻さを認識していなかった。

 緑色公民行動連盟は現地の正確な情報を知るべく、9月に新潟へ向った。ノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパンおよび現地の多くの市民団体の協力を得て、たくさんの驚がくの情報を手に入れ、無事に取材を終えることができた。ここにお礼を申し上げる。

 9月5日。私たちは柏崎市にいた。高速道路を降りた後、黄金一色の畑が目の前に広がったが、集落に入ると、屋根にブルーシートを張っている家屋があちこちにあった。「ここは地震の影響が最も深刻な地域だ。損傷した屋根にブルーシートを張って天井代わりに使っている」。今回の案内人 ― 金子貞男さんが私たちに説明した。地震から2ヶ月、町はまだ傷だらけのままだった。地震の爪痕は次々と私たちの目に映った。


                     撮影:緑色公民行動連盟(以下も)

 金子さんは被災状況がひどいと言われる閻魔通りの商店街も案内してくれた。ここは柏崎市の一番にぎやかな商店街だったらしいが、今は人通りが少なくなった。「危険」を意味するピンク色の通知を貼られた建物がいたる所にあり、全壊の建物もいくつかあった。

 修復工事にとりかかっている大工さんを見て、町は少しずつ元の姿に戻ろうとしているのがわかった。

 しかし、地元住民にとって、町が回復できても、あの地震に見舞われた原発が存在している限り、安心できる生活は手に入らないのだろう。


                         近藤ゆき子さんの家の前で

 最初に私たちの取材に応じくれた近藤ゆき子さん。彼女の家もピンク色の危険通知が貼られていた。「最初町内放送で原発が無事に止まったと知った時はほっとしたけれど、その後の報道を見て原発は極めて危険な状態にあったとわかった時、唖然とした」。地震発生後から翌日の朝方まで、炉心がずっと高温のままだった原子炉もある。電力会社は「放射能漏れは確認されていない」と言ったが、後に「確かに漏れていた」と開き直った。これこそ台湾ではまったく知らされていない真実だ。

 小木曽茂子さんはこう言った。「原発事故が起きた時、放射能が入らない建物の中にいるべきだが、地震も起きていたらとても建物の中にはいられない。道路もずたずたで逃げ道がない。原発震災の時は本当にどうしようもないわ」。


                            インタビューを受ける小木曽さん

 高桑千恵さんと田村栄子さんは、「そもそも、どうして地震国にこんなに大きな原発を作らないといけないのか」と問題の本質を見抜いた。

 長年原発近辺の地盤を研究し、地盤の問題で30数年間、電力会社相手に訴訟を起こしてきた武本和幸さんは、「敷地内の道路が波打ち状態になり、その下の地盤が動いたことを立証した。地盤運動のある土地に原発は当然あってはならない。運転再開に向ける動きは許されない」「私の見解だと、柏崎刈羽原発は終わった!」と力強い発言をした。

 刈羽村会議員の伊藤範昭さんの住宅も半壊状態になっていた。被災者でもある伊藤さんは、「この地域は『地震空白帯』と言われてきた。地元の反原発団体が地震の危惧を訴えてきたが、理解してもらえなかった。今やその危惧が現実になってしまった」と。

 武本さんも言ったように、地震がどこでいつ起きるかは誰にもわからない。人間の力では把握できない危険性を無視し、原発を造るのはおかしい。台湾は日本の経験を覚え、再び原発の必要性を考え直すべきだ。柏崎刈羽原発が与えてくれたメッセージを台湾の人々に伝えるのが私たちの使命となった。

 柏崎市議会議員の矢部忠夫さんは強調した。「S2予想値の3倍以上の地震が起きて、発電所内の原発が一斉に止まったことは日本でも初めてだ。こんなに大きな衝撃を受けて、金属の外観にキズが見えなくても、内部の損傷や変形は十分あり得る。このような損傷原発の再運転は決して許されない。柏崎刈羽原発に残った道は廃炉だ。それ以外の道はない」。

 台湾は、ずっと日本を原発の模範生と見て、原発が引き起こした社会問題に目を向けず、電力会社のPRをばかり鵜呑みにしてきた。
今回の地震も台湾で大きく取り上げられることなく、まるでマスメディアの意図的な操作かのように、早くも人々に忘れられてしまった。柏崎刈羽原発は今もなお順調に稼動していると勘違いしている人も少なくない。
 台湾電力はさらに「日本の原発は耐震指針を越えた地震に遭っても大丈夫だ」とアピールした。このような非常識な発言は私たちに怒りを覚えさせた。

 そのことを伝えると、柏崎市議会議員の高橋新一さんは眉をひそめた。「この原発は元に戻れるかどうか、東京電力・国も含めて確信を持って保証できる人はいない。よその国のマスメディアや電力会社が勝手に解釈して、結論を出す資格はない」「原発は欧米など地震の少ない国から開発された技術。世界中どこの原発もこんなに大きな地震を予想して造られていない。最近、国は電力会社に耐震補強を求めているが、次に来る地震の震度は何級? 耐震補強はどこまでやったら安全? 誰も答えられない。現在、日本のほとんどの原発は新しい耐震基準を満たしていない。私たちは、いつかどこかで大事故が起きるのではないかと心配している」。

 台湾は日本と同じく環太平洋地震帯に位置するが、第一原発の耐震設計は300ガル。第二、第三原発および建設中の第四原発もわずか400ガル。日本は耐震指針を1000ガルにしようと叫んでいるのに対して、台湾当局が地震を非常に甘く見ている態度が大変心配である。

 本当に大事故が起きた時、責任を持てる政党はどこにあるのか? 安全値を満たす耐震補強を施すのに、またどれだけの予算を入れないといけないのか? 原発は本当に経済的なエネルギー生産方式だと言えるのか?

 今回の地震で反対派の主張が証明された。柏崎刈羽原発の閉鎖に向けて、地元市民団体の成功を祈る。

 帰国した後、私たちは取材内容を編集し、報告会を行った。より多くの人に柏崎刈羽原発の真実を知ってもらい、台湾の原発安全問題を考え直させるのが私たちの任務だ。

 新潟の市民団体を台湾に招き、貴重な経験を話してもらう場も設けたいと思っている。台湾社会の地震を軽んじる傾向を正すべく、電力会社のずさんな安全管理をもっと世間に訴える必要があるのだ。


                              5号機

柏崎・刈羽に行って

                   緑色公民行動連盟 チン・ウィジ

 2007年7月16日、月曜日。夜に仕事が終わって何気なくテレビをつけたら、ある恐ろしいニュースに驚き、仕事の疲れが吹っ飛んだ。いつものニュースが突然NHKの映像に切り替わり、「日本新潟県に地震が発生…」というテロップと共に、大量の黒い煙を上げている柏崎刈羽原発がそこにあった。

 私は、ノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパンの協力の下、2006年に「こんにちは、貢寮」の連続上映会で日本の九州、中国地方などを訪ねたことがあった。それまで日本の反原発運動家と面識はなかったが、やはり反原発に関わる者同士、すぐ打ち解けることができた。それ以来、日本の情報が気になるようになった。このニュース報道を見て、地震で原発が影響を受けたのか、住民の安全が脅かされたのではないかと大変心配になった。

 9月、私たちはノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパンの協力でようやく現地に行くことができた。台湾の公共テレビに借りた高価なテレビカメラを担ぎ(*)、私たちは反対派の住民の方数名と市議会、村議会議員に、地元の被災状況と原発の最新情報を聞いてまわった。(*台湾の公共テレビは「地震と原発」をテーマにする特集を作成すべく、緑色連盟に柏崎刈羽の取材を委託した。そのためテレビカメラを拝借した)。

 取材の進行につれ、私たちの知らなかった大変な事実が次々とわかった。

 地震の際、原発に火事が起きていたのに、住民のほとんどはその情報を知らず、他の地方にいる親戚などとのメールでやっとわかった。

 放射能物質の漏えいが発生した時、東京電力は、「放射能漏れは確認されていない」、後に「漏れたが微量」、さらに数日後「発表した数値は実際より少なかった」などの発言をし、住民は何も知らない状態で放射能が飛び交う環境にいた。

 このような隠ぺい体質を表わした東電の対応を聞いて、地元住民の電力会社への不信感の高まりと不安をすぐ理解することができた。

 私たちは取材に応じてくれた方々からたくさん貴重な意見を頂いた。
「原発は欧米など地震のない地域に生まれた技術なので、地震国は保有すべきではない」
「最近は地球温暖化云々と言っているが、原発の危険性はそういうレベルではない。温暖化対策という口実で原発を推進するな」
「国は、不適合の耐震基準に基づき原発の建設許可を下したわけだ。基準が甘いと認識した以上、建設許可を撤回し、国民に謝罪すべきだ」

 武本和幸氏と、台湾第四原発を何度も訪ねてくれた矢部忠夫氏、高橋新一氏は、きっぱりした口調でおっしゃった。「原発は終わった」「私たちの使命は、台湾のような地震国にこういうことを訴えることだ」。

 その口調からは彼らがしっかりした信念を持って運動を進めているのを感じ取れた。

 反原発の意志の強い女性運動家たちの姿も大変印象に残った。

 新潟の反原発団体は長い間、原発と地震との関係で差し止めを求める訴訟を起こしていたが、今回の地震で反対派の主張が証明された。今後の動きに注目していきたい。

 新潟で大変お世話になった金子貞男氏にお礼を申し上げたい。金子氏のご案内でこの旅は大変有意義なものとなった。本当に感謝している。

 現在、台湾貢寮の第四原発の建設工事は約半分まで進んでいる。しかし反対運動は、近年政治界の混迷で勢いを失くした。近頃よく日本から、地震と原発の関係で電力会社相手に訴訟を起こしている情報をもらっている。それが私たちにヒントを与えてくれている。

 今回の取材でも何回か訴訟の話が話題になったが、矢部氏がおっしゃったように「裁判だけで原発が止まるとは限らない」。やはり、成功に導くカギは社会全体の意識にあると考える。

 帰国した後、私たちは休みを惜しまず取材のデータを整理し、10月18日に台北で1回目のシンポジウムを行い、台湾の環境保護団体や市民に、この旅で得た情報を報告した。

 次は、新潟の市民団体を台湾に招き、交流の場を設けられたらと思う。
日台の市民の力を合わせて、核のないアジアをめざし、がんばっていきたい。


                    左から、スーシン、ウィジ、矢部、高橋



ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.89もくじ

              
 (07年12月20日発行)B5版20ページ

● 新潟県中越沖地震と原発の安全性(小木曽茂子)             
●台湾に柏崎刈羽原発の真実を伝えよう(崔スーシン)              
●柏崎・刈羽に行って(陳威志)                     
  
●気候変動国際NGOフォーラム(in台湾)報告 (伴英幸)     
 
●原発は要らない、クリーンなエネルギーを!
                     (グリーンピース東南アジア) 

●タイで原発推進の動き       
                   
●韓国市民社会団体 高レベル核廃棄物問題共同声明             
●コリ1号機の寿命延長に反対する!                 
  
●国連総会で「ウラン兵器決議」初めて採択     
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