ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.88より

ムリア原発建設反対!


予定地バロン村から6000人がロングマーチ
 
● 住民たちがムリア原発反対のデモ

 8月31日の午後7時半、原発予定地のジュパラ県クンバン郡バロン村から、約6000人の住民たちが歩き始めた。

 35キロ先の目的地は、ジュパラ市街のナフダトゥール・ウラマ(イスラム団体)の建物だ。そこでは翌日、原発を導入することの利点と問題点について話し合う会合が開かれる。その会合には、クスマヤント・カディマン研究技術大臣、プルノモ・ユスギアントロ鉱物資源大臣、アブドラマン・ワヒド元大統領、環境と社会学の権威であるジョージ・アディチョンドロ、核の専門家であるクルニアワンらも出席する予定だ。

 小さな子供たちをも含む住民たちは、たいまつを掲げ、食べ物を持参して、原発反対の垂れ幕などを広げて歩いた。

 「原発が危険だというだけではない。この問題では、計画段階からまったく国民の声が反映されてこなかった」と、バロン村の「民衆と学生の行動連合(クラトン)」コーディネーターのダルル・ハシム氏は語った。

 警察による警備も厳重なものであった。バロン村からジュパラ市街の目的地までの道のりには、交差点ごとに警官が配備された。
 
● クスマヤント大臣との対話集会

 デモ隊は、翌9月1日午前10時ころ、ジュパラ県庁前に到達した。本来であれば、この数千人のデモ隊はナフダトゥール・ウラマの建物まで行進を続けて、そこで大臣と対話するはずだった。しかし警官隊が道路封鎖を行い、デモ隊を県議会の前で停止させた。ここから目的地まで、あと約1キロしか離れていない。

 デモ参加者らは、原発建設問題について直接対話するために大臣を待った。そして、とうとう県議会前庭で対話集会が行われた。

 対話集会では、屋外に設置された舞台で、クスマヤント大臣、ジュパラ県知事のヘンドロ・マルトヨ、「民衆と学生の行動連合」のダルル・ハシム氏らが発言、議論は白熱した。大臣への厳しい質問が飛び交い、その中ではPA活動のために用いられた5千万ルピアの予算についても厳しく追求された。

 クスマヤント大臣は、「他国の経験から学ぶと、原発は発電手段として、相対的に安いだけではなく、環境的にもクリーンである。比較的安価ではあるが環境を汚染する石炭と大きく異なる」と主張した。彼は、「政府はまだバロン村での原発建設問題で最終決定はしていない。原発建設に関して、地震学的にも需要の面からも最もよい場所を探しているところだ」「エネルギー危機に対応するため、さまざまな代替エネルギーについても検討している。最も恩恵が大きくダメージの少ない選択肢を選んでいく。それらの調査結果を私は大統領に提出し、大統領が最終的に決めることだ」「韓国と接触していることについては、これまでアメリカ、ロシア、オーストラリアと協働してきたので、新しい国からも勉強したかったからだ」などと述べた。

 ヘンドロ県知事は、「原発については、政府に再考をお願いしたい」と述べた。

 ヌルディン・アミン氏(7月に来日した:訳注)は、「ナフダトゥール・ウラマの指導者たちが、ジュパラの人々の思いに耳を傾け、たたかいに参加することを望む」と語った。

 核が専門のクルニアワン氏は、「放射性廃棄物の問題と放射能汚染の危険性が克服されていない」と指摘した。「ウランの採掘、核燃料の製造、原子炉の稼動、再処理にいたるまで、あらゆる工程で放射性廃棄物が生み出される。放射性廃棄物の根本的な処分方法は存在しない」

 しかし、インドネシア原子力庁のフディ・ハストウォは、「ジュパラに建設予定の原発は安全だ。技術はすでに進歩しているからだ。だからチェルノブイリの問題と混同してはならない。原子力の平和利用は国民の福祉と繁栄に貢献する。核技術は食料の安全保障や医療の分野でも利用できる」と反論した。

● 群集から大臣にボトルが投げつけられ、一時騒然

 ここで、クスマヤント大臣と、原発に反対する数千人の民衆との対話は、一時混乱した。クスマヤント大臣が、デモ隊からの声明文の受け取りを拒否して、突然県議会の建物の中に逃げ込んでしまったのだ。大臣が県議会の建物に入ろうとするとき、群衆から一本のペットボトルが大臣に向けて投げつけられ(命中しなかった)、群集と警備員の間でもみ合いとなり一時騒然となった。

 元大統領アブドラマン・ワヒドの娘のイエニー・ワヒドがトラックの上から参加者に呼びかけた。「皆さん、落ち着いて。私の父もバロン村の皆さんと同じ気持ちです。しかし、暴力はやめましょう」

 幸いなことに、この混乱の後もデモ参加者らが暴力などの行為に及ぶことはまったくなかった。

 デモ隊のリーダーのダルル氏は、「私たちは、話し合いの場所まで35キロの道のりを歩いてきて、ただ大臣に声明を渡したかっただけなのです。しかし大臣は、これを受け取ったら同意のサインをしなければならないと思い込んだようです。私たちは、直接大臣に私たちの思いを伝えたかっただけなのに。バロン村の人々は、現地の人々の苦しみに向き合うことができない大臣の幼稚なふるまいにたいそう失望しました」と語った。「これは民衆のたたかいです。口をふさがれ続けてきた人々の蓄積した思いが爆発したのです」
 
●「原発はハラム(イスラムで禁じられるもの)」の決定

 
 対話集会の後、引き続いて、中部ジャワ一円から集結したナフダトゥール・ウラマの聖職者たち100人によって、イスラムの教義に照らして原発建設が必要かどうかについて検討が行われた。

 討議は翌日にかけて行われ、ムリア原発を「ハラム」(イスラムで禁じられるもの)であると結論づけた。この結論は、9月2日の夕方、ナフダトゥール・ウラマのジュパラ県支部で発表された。公式決定の文書は、事務局長のアフマド・ロジキンによって読み上げられた。

 「原発はエネルギー問題とのみ関連があるのではなく、環境、社会、政治、経済などとも関連している。これらの問題を見渡すと、境界となるのは信徒にとっての利益と危険である」

 「多面的に検討した結果、私たちはムリア原発がイスラム教義に照らして禁じられるものと決定した。わずか2〜4%のエネルギーのために、放射性廃棄物はあまりにも危険である」

   (「インドネシア・メディア・モニタリング」 9月1日付、2日付より)




ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.88もくじ

              
 (07年10月20日発行)B5版28ページ

● ムリア原発建設反対!
        予定地バロン村から6000人がロングマーチ

●ムリア原発は「ハラム」であるという決定 (久保康之)
           
●インドネシアが立つ、核のつなわたり(エミー・チュウ)        
●南北エネルギー協力、
     「再生可能エネルギーを通した平和の時代へ」
     
●「対北朝鮮エネルギー支援国民運動本部」発足 声明書 
          
●韓国のフォトジャーナリスト、イ・シウさん釈放     
   
●ノーベル平和賞受賞の医師グループ、
                   米印原子力協力協定に反対
     
●台北県で使用済み核燃料乾式貯蔵施設の建設反対運動広がる

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