インドネシアへの原発輸出に関して・・・

       日本政府等への要請書 


経済産業大臣 甘利 明 様                 2007年7月5日

インドネシアの原発導入計画への支援に関する質問および
同計画への支援見直しを求める要請書


 経済産業省は、2006年8月に策定した「原子力立国計画」のなかで「我が国原子力産業の国際展開を・・・積極的に進めることが適切」と位置づけ、原子力メーカーなどの海外進出を支援している。同じく06年、インドネシアおよびベトナムにおける原子炉導入の可能性について、日本貿易振興機構(ジェトロ)に調査を委託している。

 インドネシアでは50年代末から原発導入計画が進められてきた。しかし住民の反対や経済危機、チェルノブイリ原発事故による影響などのために、商業炉の導入計画はたびたび頓挫してきた。ところが近年なって、ジャワ島ムリア半島などに原発を建設しようとの動きが再浮上し、日本をはじめいくつかの国々が売り込み活動を活発化させている。

 一方、住民のあいだでは原発導入に反対する声が、これまで以上に高まっている。貴省はこの問題について深い関わりがあることから、以下、質問するとともに、要請する。

 1)インドネシアの債務は公的・民間合計で1300億米ドルにものぼり、世界有数の債務国である。最大の債権国は日本で、全体の3分の2を占める。原子炉一基あたりの導入コストは数千億円と見込まれ、インフラ整備などを含む膨大なコストは、インドネシア経済にとってさらなる負担となるだろう。これはまた日本企業が原子炉等の移転にともなう投資を回収できないリスクも大きいことを意味する。貴省は、膨大な債務を抱えるインドネシアに原子炉等を輸出することは、同国並びに日本の経済にとって利益になると認識しているのかどうか、明らかにされたい。またそう認識している場合、その経済効果についての根拠を明らかにされたい。

 2)インドネシアは地震多発地帯に位置する。立地予定地の一つであるムリア半島は、05年に大地震が発生した中部ジャワに位置する。日本の原子炉の耐震性には深刻な疑念が呈されている。原発が地震の影響で大事故を起こしたなら、輸出国の責任は免れないだろう。貴省はこの点についてどのように認識しているのか、明らかにされたい。

 3)90年代に、日本のニュージェック社がムリア原発のフィージビリティスタディ(FS)を実施した。その際、インドネシアの自然環境や地質、地震の頻度・規模についてどのような調査がなされたのか、詳細を明らかにされたい。その後、計画が再浮上してから、以前のFSをもとにインドネシア政府がIAEAのレビューを受けたところ、地震・地質・火山活動に関する情報を追加するようにとの指摘があったとされる。貴省は、地震・地質・火山活動に関する情報を入手しているか。している場合、詳細を明らかにされたい。

 4)インドネシアでは、これまで以上に、原発反対運動が大きくなっている。さる6月にも中部ジャワで反対集会が開かれ数千人が参加した。原発導入計画は住民の意思を反映していないことは、これからも明らかである。貴省は、住民の反対を無視して、原発輸出支援を進めないことを確約すべきである。

 5)日本貿易振興機構(ジェトロ)がまとめた「原子炉導入可能性調査支援事業報告書」(2007年3月)によると、インドネシアのエネルギー利用効率は、GDP百万ドル当たり470TOE(石油換算トン)で、日本の5倍と極めて非効率とされる。また送電網が未整備であるとも指摘している。インドネシアは地熱や太陽光をはじめ自然エネルギー源が豊富である。自然エネルギーは環境負荷が小さく、導入コストや時間、送電線がない地域への電力アクセス提供、安全性などの面において優れている。エネルギー効率を高める技術と、自然エネルギー技術の移転を進めるほうが、インドネシアの住民にとって有益である。

 これらの自然エネルギー源の開発やエネルギー利用効率の向上に協力することについて、貴省の姿勢を問う。また、原子力以外のエネルギー支援策に関して具体的に進行していることがあれば併せて明らかにされたい。

 以上から、原子力産業の国際展開支援政策、とくにインドネシアにおける原子力発電導入支援政策の見直しを強く求める。

原子力資料情報室、原水爆禁止日本国民会議、グリーンピース・ジャパン、ノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパン、インドネシア民主化支援ネットワーク


外務大臣 麻生 太郎 殿                 2007年7月5日

インドネシアへの原子炉および関連資機材・技術移転に関する質問書

 日本政府は2006年8月に策定した「原子力立国計画」のなかで、「我が国原子力産業の国際展開を・・・積極的に進めることが適切」としている。原子炉を含む原子力関連の資機材・技術等の海外移転にあたっては、受領国の政情が安定し、テロ行為などのリスクが小さく、二国間協力協定の締結をはじめ、核拡散防止のための法的措置が整っていることが最低限の必要条件である。これらについては貴省との関わりが深いことから、以下質問する。

 1)日本とインドネシアは「原子力の平和利用に関する二国間協力協定」を結んでいない。今後、締結の予定はあるのか。ある場合、それはいつ頃と見込まれているのか。

 2)過去、インドネシアへ原子力関連資機材の移転はあったのか。あった場合、外務省はそれらを把握しているのか。把握している場合、それらをすべて文書にて明らかにされたい。

 3)経済産業省が日本貿易振興機構(ジェトロ)に委託した「原子炉導入可能性調査支援事業報告書」(2007年3月)の付録資料には、両国間における原子力協力に関する「覚書」の草案が掲載されていた。同覚書は調印されたのか。調印された場合、その全文を公開されたい。

 4)インドネシアはNPTに加盟し、IAEAとの包括的保障措置協定および追加議定書は発効している。しかし原子力供給グループ(NSG)には参加しておらず、包括的核実験禁止条約(CTBT)と放射性廃棄物等安全条約は未批准で、廃棄物等の投機による海洋汚染防止条約は締結していない。貴省は、日本がインドネシアへ原子力関連資機材を移転するにあたり、これらの条約および制度等の整備は必要条件と認識しているかどうか、明らかにされたい。

 5)少なくともこれらの必要条件が整うまでは、日本の民間企業によるインドネシアへの原子炉および原子力関連資機材・技術移転に係わる活動は、一切、認められるべきではない。貴省はこの点について、どのように認識しているか、明らかにされたい。

 6)インドネシアは、東南アジアのイスラーム・テロの拠点といわれており、米軍の支援を受け、大規模な対テロ作戦が展開されている。原子炉などの核施設や、使用済み核燃料、放射性廃棄物などの核物質は、テロの攻撃対象になる危険があるとして、強力な警備・警戒態勢が導入される可能性がある。インドネシアの対テロ作戦は、国連人権理事会においても、人権侵害を引き起こしていると批判されており、原発建設が新たな治安維持作戦と人権侵害につながる可能性も否定できない。さらに、このような基幹産業の警護は、インドネシア国軍・警察のビジネスの一つとなっており、アチェやパプアでは人権侵害を引き起こしたと国際的に批判されている。貴省はこれらのリスクをどう認識しているのか、明らかにされたい。

 以上について、貴省の誠意ある回答を望む。

原子力資料情報室、原水爆禁止日本国民会議、グリーンピース・ジャパン、ノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパン、インドネシア民主化支援ネットワーク

                     
三菱重工業(株)                       2007年7月4日
取締役社長 佃 和夫 様

インドネシアへの原子炉等輸出に関する要望書

 インドネシアでは50年代末から原発導入計画が進められてきました。しかし住民の反対や経済危機、チェルノブイリ原発事故による影響などのために、商業炉の導入計画はたびたび頓挫しています。ところが近年になって、97年に中断されたジャワ島ムリア半島における原発建設計画が再浮上し、日本をはじめいくつかの国々が売り込み活動を活発化させています。

 貴社は以前からインドネシアへの原発輸出に積極的でした。90年代にはムリア原発建設に関する事前調査のスポンサーにもなっています。同計画が再浮上したことから、貴社はその受注に強い関心を示していると聞いています。またアジア地域への支援内容を策定する「アジア原子力発電導入支援事業委員会」にも、貴社の担当者が名を連ねています。

 このたびインドネシア政府の原発導入計画に反対している住民2名が来日し、日本政府や国際協力銀行(JBIC)にたいし同計画への支援を進めないよう、申し入れます。私たちは貴社にたいし、彼らの声を真摯に受け止め、同国への原子炉輸出計画に参加しないよう、強く要請するとともに、以下、私たちの見解を述べます。

 1)貴社が、インドネシアのエネルギー供給と環境対策の支援をめざすのなら、原発ではなく、貴社が誇る自然エネルギー技術とエネルギー効率技術の移転を進めるべきである。ジェトロがまとめた「原子炉導入可能性調査支援事業報告書」(2007年3月)によると、インドネシアのエネルギー利用効率は、GDP百万ドル当たり470TOE(石油換算トン)で、日本の5倍と極めて非効率とされる。また送電網が未整備であるとも指摘している。インドネシアは地熱や太陽光をはじめ自然エネルギー源が豊富である。自然エネルギーは環境負荷が小さく、導入コストや時間、送電線がない地域への電力アクセス提供、安全性などの面において優れている。エネルギー効率を高める技術と、自然エネルギー技術の移転を進めるほうが、インドネシアの住民にとって有益である。

 2)インドネシアの債務は公的・民間合計で1300億米ドルにものぼり、世界有数の債務国である。最大の債権国は日本で、債務全体の3分の2を占める。原子炉一基あたりの導入コストは数千億円と見込まれ、インフラ整備などを含む膨大なコストは、インドネシア経済にとってさらなる負担となるだろう。これはまた原子炉等の移転にともなう投資を回収できないリスクも大きいことを意味し、貴社が不利益を被る可能性が高いと考えられうる。

 3)インドネシアは地震多発地帯に位置する。地震が頻繁に発生しているが、なかでも04年のスマトラ沖地震と津波による被害、そして05年の中部ジャワの大地震は記憶に新しい。貴社がインドネシアへ輸出した原子炉が、地震による影響で大事故を起こしたなら、その責任は免れえないだろう。それは貴社の企業イメージを損なう結果となるだろう。

 4)原子炉移転を計画するにあたっては地震リスクも、当然、評価されてなければならない。貴社はインドネシア、とくにムリア半島における地震リスクについて、いかなる調査を実施したのか。あるいは実施する予定はあるのか。

 5)インドネシアでは政府による原発建設計画が進む一方で、建設予定地付近の住民には、なんら公式の説明がないと聞いている。同国では原発に反対する声がますます大きくなっている。新聞報道では、さる6月にも反対集会が開かれ数千人が参加したという。原発導入は住民の意思を反映していないことは、これからも明らかである。企業の社会的責任を果たすうえでも、また貴社の企業イメージのためにも、住民の意思を尊重し、インドネシアの原発導入計画への参加は控えるべきである。

原子力資料情報室、原水爆禁止日本国民会議、グリーンピース・ジャパン、ノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパン、インドネシア民主化支援ネットワーク


国際協力銀行総裁 篠沢恭介様              2007年7月4日

インドネシアの原子力発電導入計画と国際協力銀行の原発支援における環境社会配慮ガイドラインに関する要望

  総合資源エネルギー調査会原子力部会報告書「原子力立国計画」(2006年8月)の中で、日本政府は、原子力産業の積極的な国際展開を基本方針とすることをうち出しており、その国際展開の際の御行の支援について言及されています。具体的には、同報告書の「第3節.原子力産業の国際展開支援施策」において、「資金調達がボトルネックとなる可能性が高いことから、民業圧迫にならない範囲で、貿易保険や国際協力銀行の融資等による公的支援も国際ルールに従いつつ、引き続き積極的に進めるべきである」とあります。

 一方、国際協力銀行(以下、御行)は、過去、インドネシアのムリア原発のフィージビリティースタディー、中国の秦山原発II期・III期、メキシコのラグナベルデ原発のタービン部分など、これまでも海外の原子力発電所に融資を実施していますが、上記の日本政府の基本方針を鑑みると、今後も、御行は原子力発電所への融資を継続、またはさらに増加していく可能性が高いと考えます。このような状況を背景に、以下の二点を要望致します。

● ムリア原発への支援について
 御行が1993年にフィージビリティースタディーを支援したインドネシアのムリア原発については、1990年代に原子力導入計画がインドネシアで進められていましたが、経済危機で中断されています。ところが、2002年には原子力計画が再燃し、現在ムリア半島に設備容量400万kW以上の原発建設が計画されています。このムリア原発に関して、日本企業が入札を検討していると考えられており、その際には御行に支援を要請する可能性が非常に高いと思われます。しかし、ムリア原発に対する御行の支援に関しては、別添に示したような問題点があるため、御行に対して事業者から資金的支援を求められた場合には、別添において指摘した問題点が解決されるまで支援をしないよう、要望致します。

●「環境社会配慮のための国際協力銀行ガイドライン」について
 上述したように、御行が今後海外の原子力発電所に関わっていく可能性が高まっている状況の中、現在の「環境社会配慮のための国際協力銀行ガイドライン」には原子力発電所についてなんら言及されておらず、原子力発電所が、環境社会配慮上他プロジェクトとは異なる性質をもつということが考慮されていません。OECDで今年6月に採択されたコモンアプローチの中でも、カテゴリAの例示として原子力発電所やその関連施設が挙げられていますが、御行が支援した過去の原子力発電所関連の案件は、カテゴリAとして分類されておらず、御行の現在の環境社会配慮ガイドラインは、コモンアプローチにも沿っていません。また、米国輸出入銀行は、原子力発電に関するガイドラインを有しており、そこでは、原子力発電に関する8つの環境原則(安全性、大気環境、水利用と水質、廃棄物管理、自然災害、生態系、非自発的移転と先住民族と文化財、騒音)を掲げてしています。従って、御行の環境社会配慮ガイドライン改訂の際には、これらの国際的な流れを踏まえたものにするよう、要望いたします。

原子力資料情報室、原水爆禁止日本国民会議、グリーンピース・ジャパン、FoE Japan、ノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパン、インドネシア民主化支援ネットワーク


別添:ムリア原発の問題点

1)インドネシアの債務
 インドネシアの債務は公的・民間合計で1300億米ドルにものぼり、世界有数の債務国ですが、最大の債権国は日本で、債務全体の3分の2を占めています。原子力発電所は設備投資が大きく、原子炉一基あたりの導入コストは数千億円と見込まれ、インフラ整備などを含む膨大なコストは、インドネシア経済にとってさらなる負担となるでしょう。このことはまた、日本が原子炉等の移転にともなう投資を回収できないリスクも大きいことを意味します。御行がプロジェクトの支援要請を受けた場合には、巨額の費用負担をおってまで、インドネシアにおいて原子力発電所を建設することがインドネシアにとって最良の選択肢であることを確認する必要があります。

2)原子力発電所の地震に対する脆弱性
 インドネシアは地震多発地帯に位置しています。インドネシア政府は日本を例にとり、原発は地震に耐えられると宣伝しているようですが、日本の原子炉の耐震性にも深刻な懸念が呈されています。立地予定地のムリア半島は、05年に大地震が発生した中部ジャワに位置しており、今後、巨大地震が発生する可能性は否定できません。

3)現地からの反対の声と現地住民の利益
 インドネシアの原発建設計画が進む一方で、原発予定地付近に住む人たちからは根強い反対があり、今年6月にも反対集会が開かれ数千人が参加しています。日本の支援によって、反対する住民の意志に反して原子力発電所が建設されることはあってはならないと考えます。御行がプロジェクトの支援要請を受けた場合には、プロジェクトに反対している現地の地域住民を含め、現地住民が不の影響を受けるのではなく、むしろ益することを確認することが必要であると考えます。

4)インドネシアの温暖化・エネルギー対策としての有効性
 御行が、インドネシアのエネルギー供給と環境対策の支援するのであれば、原発ではなく、自然エネルギー技術とエネルギー効率技術の移転を進めるべきです。これらの技術のほうが、原発よりも、環境負荷が小さく、導入コストや時間、送電線がない地域への電力アクセスの保障、安全性などの面からも有益です。これは平成19年3月の日本貿易振興機構による「平成18年度 原子炉導入可能性調査支援事業報告書」(2007年3月)からも明らかです。同報告書は以下のように指摘しています。

・地熱のポテンシャルは大きく、水力のポテンシャルもあるが、利用率は僅かである。
・インドネシアの輸送インフラ(パイプライン、送電網、鉄道等)は未整備である。
・ エネルギー利用効率は、GDP百万ドル当たり470TOE(石油換算トン)で、日本の5倍と極めて非効率である。

 従って、御行がプロジェクトの支援要請を受けた場合には、インドネシアにおいて、なぜ他のエネルギーではなくよりリスクの大きい原子力発電所が必要なのかを精査する必要があると考えます。

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