ノーニュークス・アジアフォーラム通信・号外より


「よみがえったインドネシアへの原発輸出問題!」

    -- 07年5月7日、大阪での講演より --    ファビー・トゥミア



● 原発建設計画の復活

 現在インドネシアに商業炉はありません。しかしバンドン、スルポン、そしてジョクジャカに研究炉があります。ジョクジャカルタにある研究炉は1970年代に稼動を開始しました。ですから原子力発電は、インドネシアにとってまったく初めての技術というわけではありません。

 1991〜96年に、原発建設のための立地可能性調査が日本の関西電力の子会社ニュージェックによって行われました。この調査では、3カ所の建設予定候補地が挙げられていました。すべて中部ジャワ州ジュパラ県のムリア半島に位置しています。昨年大地震があったジョクジャカルタはムリア半島からそれほど離れていません。

 90年代、スハルト軍事独裁下の厳しい状況でしたが、活発に反原発運動が行なわれました。96年には反原発全国ネットワークもできました。そして、経済危機が起こり、原発建設計画は延期されました。

 しかし2000年に、IAEAと海外協力銀行が出資して原子力庁(BATAN)にエネルギー需給に関する研究を委託しました。この研究では、「インドネシアはエネルギー需要が増大しているので、従来のような石炭や石油といったエネルギー源では追いつかない。原子力が必要だ」と結論づけました。この調査は2002年に終了し、当時のメガワティ統領に提出されました。大統領はこの研究結果を支持しました。

 この研究のほかに、IAEAと韓国水力原子力(株)などが共同で調査を行い、2001年にはBATANと一緒に研究をして、原子力による淡水化施設をマドゥラに作るという計画に関する覚書に署名がなされました。

 2003年、メガワティ政権下で、政府は2010年ころまでに原発建設を開始すると表明しました。メガワティはその後選挙で敗北しましたが、2010年に原発を建設するという考えだけは残り、その後も推進派の官僚たちによって保持されたのです。政府が発表したエネルギー供給の青写真の中では、400万kWの原発を2008年から2025年までの間に建設すると書かれていました。

 政府の計画によると、2008年に国際入札を行い、2010年には1基目を建設開始、12年には2基目を、16、17年に3、4基目を建設開始し、2025年までに計400万kWの発電量を確保するという計画です。

● やはり、ムリアが候補地

 2004年以来、原子力庁(BATAN)は積極的に技術面、資金面、社会的な影響などについて調査を行ってきましたが、それだけではなく、ジュパラ県の人々、ジュパラ県の地方議会、中部ジャワ州政府などに接近して、原発建設推進を訴えてきました。

 政府が原発建設を表明して以来、韓国企業が非常に関心を示しています。2004年には、韓国水力原子力(株)がスポンサーとなり、BATANが原発建設に関する初期調査を行うことになりました。

 2005年には韓国電力と韓国水力原子力(株)がインドネシア国営電力会社との間で覚書に署名を行いました。彼らも原発の技術面に関する調査を行いました。

 2006年には、BATANの幹部が「政府はすでに3カ所の予定地をムリア半島において選定した」と発言しました。その3カ所というのは、ウジュン・ルマアバン、ウジュン・ワトゥ、そしてウジュン・グレンゲンガンです。これらの地域は、ニュージェックの調査で挙げられた地域と同一のものでした。

 私の考えでは、これはとてもこっけいな話です。なぜかというと、予定地選定のための調査がまだ終わらないうちに、3カ所の予定地の名前が上がったからです。

 2006年の6月、政府機関や国会議員からなる15人のグループが韓国に視察に行きました。日本でもよくあることらしいですが、原発現地に行ったり、彼らの持つ施設を訪問してレクチャーを受けたり見学したりしました。韓国側の2社によって費用全額が賄われました。帰国した参加者に話を聞くと、「韓国の原発は最高だ」「韓国でも何の問題もない」と技術を賞賛しているという状態でした。ただの視察に行っただけのはずが、すでに商売人の片棒を担いでいるような状態の人もいました。

 三菱も、2006年の2月に原子力をPRするための一般向けセミナーのスポンサーとなりました。このセミナー自体は、インドネシア政府主催のセミナーでした。政府主催のセミナーでありながら、三菱という外国の私企業がスポンサーとなっていることが、非常に奇異な感じを与えました。

● 中部ジャワは地震の頻発地帯

 2006年には、省庁間にまたがってさまざまな部署から代表者を出して、原発建設の準備をするためのいくつかの小委員会が作られました。その中のひとつには、中途半端になっている建設予定地の選定に関する調査を完了させることを目的としたものもあります。これは、IAEAから「ニュージェックの調査は古いので、予定地選定について最新データに基づいて調査を完了させてほしい」と要請されたためです。

 小委員会のメンバーの中に、私たちに情報を提供してくれる人がいて、この予定地選定の最終調査の中には活断層についての情報が盛り込まれていないことがわかりました。

 ニュージェックの調査の中では、「ムリア半島が地震と無縁なので予定地となった」と書かれていました。しかし、1990年代はいざしらず、いまや中部ジャワは大地震が何度も起きています。地震の頻発地帯です。そのようなところが原発建設地になるということはとても危険なことだと思います。

● 原発は後の世代に負債を背負わす

 政府は、経済的な側面からの影響についても調査をしています。私もこの調査報告を読みましたが、公的な調査としての評価に耐えうるものとは言いがたい非常にお粗末なものでした。用いられている変数なども厳密ではなくて、原発が最も経済的であるという結論になっています。私はもちろんそれを信頼していません。

 BATANの人々は、原発で作る電気は安い、競争力が高いといっています。しかし私たちはそれを信じることはできません。私たちは調査ができるNGOですので、独自に、原発の経済性についての調査を行いました。すると、政府による調査のだいたい2倍以上にコストが膨れ上がるという結果になりました。

 このように、予算を低く見積もって原発を建設すれば、後の世代の政府や国民たちがその負債を背負っていかなければならなくなります。現在のインドネシアの経済的な状態を見ると、それはとんでもないことだと思います。

 昨年から、BATANと資源鉱物エネルギー庁は共同でキャンペーンを行っています。原子力は安くて、安全で、便利で、国の発展に大きく寄与するという内容の宣伝をテレビを通じてやったり、お金をかけてセミナーを行ったり、有名人や有力な人を使って原発賛成の世論を形成しようとしたりしています。

 しかしこれまでのところ、原発を導入するということについて政治的な統一見解、政治的なコンセンサスはまだないと考えられます。

 私がここまで説明してきたことは、いくつかの省庁や何人かの国会議員らからなる勢力によって進められてきたことです。しかし、国会全体で、または全国レベルで合意をみたという経過はありませんし、現在の大統領の口から原発建設がはっきり表明されたこともありません。

 推進勢力が確かに存在する一方で、私たちの活動に評価を寄せてくれる人々も政府内には見受けられます。去年の12月には、私は環境省の高官が行うミーティングに呼ばれて、原発の問題点や影響に関するレクチャーを行いました。

● 現地の状況

 以上が全国的な状況ですが、地元であるジュパラ県ではまた別の状況が見受けられます。現地の人々が置かれている状況や意見は90年代と比べると大きく変化しています。

 2004年以来BATANは、ものすごい勢いで現地でのPA活動を行ってきました。中部ジャワの大学やジュパラ県の地元大学の中で影響力を持ったり、イスラム教の強い地域なので、ウラマと呼ばれるイスラム教指導者たちを取り込んで、そこから現地の人々に強烈にアプローチを行ってきています。


                  現地の原子力庁(BATAN)事務所

 そのように強烈なキャンペーンが張られる中で、現地住民の中には「原発が建つことはよいことだ」と考える人も増えているし、地方政府も賛成の立場になってしまっています。

 キャンペーンの結果として賛成する人が増えたという側面もありますが、独裁体制が倒れて地方分権化が進められる中で、地域ごとに財政を確保していかなければならず、「原発が建設されれば、仕事が確保できるし、地域が財政的に発展するので、必要なのではないか」と考える人が増えているという面もあります。

● 反対運動は・・・・

 実は言うのもつらいことですが、推進側がキャンペーンをこれほどやっているにもかかわらず、反対側からそれに対抗する情報提供ができていないという反省点があります。

 90年代は原発問題にかかわる活動家が多かったのですが、現在は活発ではないというのが現状です。90年代には反原発の全国的なネットワークを組織しましたが、現在ではインターネット上で時おり情報交換する程度に限られてしまっています。

 原発反対運動をしてきた人たちが、現在はそれを中心課題にしていないということもありますし、また、地域の中での派閥関係やNGO同士の対立などいろいろな状況があって、推進側に対抗する一つの勢力としてまとまることが非常に難しいのです。

 中部ジャワのいくつかのグループ内でも、グループ間のもめ事があり、それらは非常に個人的なもめ事から始まっているものもあります。もともとは同じ目的を持った人々だったのに、小異を捨てて大同を取るということができていません。

 個人のレベルでは、いろいろ関心を寄せている人はいます。私のNGOは草の根で活動するというタイプのNGOではなく、調査、分析、提言を主眼にしています。私たちは、この3月に原発建設についての問題点を20ページ分の論文にまとめて大統領に送りました。その論文が大統領の目に留まりました。これまで推進側は原発建設のメリットのみを強調してきましたし、反対する側は「危険だ!」というばかりで説得力のある論を展開できていませんでした。私の論文は、さまざまな側面について科学的な視点から網羅的に言及したことで、これまでにはなかったまとまった情報として注目を浴びました。これをきっかけに、政府に呼ばれてプレゼンテーションをしたことがありました。これから、この論文に情報を追加して再度発信していきたいし、これをマスコミを通じて一般の人にも届けたいと思います。

● インドネシアをねらう原子力産業

 インドネシアの原発建設に関心を表明している会社にどのようなものがあるかをお話します。

 1番目は、三菱です。積極的に活動しており、高い関心を示しています。先ほど申し上げたようにセミナーのスポンサーなどをやっています。

 2番目は、韓国です。韓国電力と韓国水力原子力(株)が、三菱と競い合っています。その競い合い方も興味深いものがあります。

 3番目は、アメリカのGEです。先月GEはジャカルタでBATANとの共催で原発の展示会を行いました。最近になってこのプロジェクトに積極的に参入してきました。

 4番目は、フランスのアレヴァです。何ヶ月か前、アレヴァもインドネシア防衛省の原発に関するセミナーに資金提供しました。なぜ外国の企業が防衛省のセミナーに出資するのか、これもとても妙な話です。

 5番目は、ドイツのシーメンスです。シーメンスの場合は、プラント建設のために融資をしたいという立場です。

 6番目は、ロシアです。ロシアは、スラウェシ島のゴロンタロに浮遊型の原発を建設することを目指しています。この原発はまだ原型炉があるだけです。すでに地元の知事と覚書にサインがなされたとの報道がありますが、今のところこの型の原発はまだ実用化されてはいません。

● いまこそ反対運動が必要

 結論としては、2008年に国際入札をして2010年に建設を始めるという予定のとおりには事は運ばないと思われます。

 まず、調査が完了していない問題、国内的な手続き、IAEAの基準を満たす必要といった問題があります。

 また、第2に、資金不足の問題が解決されないと考えられます。

 第3は、安全性の問題です。安全基準を満たすほどの技術をインドネシアは持ちえていないのです。

 第4に、政治的なコンセンサスにいたるには、まだ障壁が大きいし、一般の人々の理解も得られていません。

 そのような時期ですので、逆に考えれば今は大きなチャンスです。推進側が出してくる一方的な情報だけではなく、いったい真実はどうなのかという公平な立場からの最も重要な情報を人々に流して、関係性を培っていくような活動が今こそ求められていると考えられます。

    ----中略----

 インドネシアには資金がありません。原発を建てるにしても技術を移転するにしても、全て、(日本または韓国から)お金を借りて、そのお金で導入するわけですから、インドネシアに残るのは借金と放射能だけということになってしまいます。

 日本は、市場を拡大することを必要としていると思います。原発の市場を広げるためにインドネシアが犠牲にされるということだと思います。

 日本の経済的繁栄というのは、ある意味で第三世界の人々の犠牲の上に成り立ってきたともいえます。これからも連絡をとり合いながらやっていけたらと思います。

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