ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.83より

「韓日反核フォーラム 2006」 報告

【日程】11月6〜10日
 6日 ソウル 討論会「東北アジア非核化のための韓日反核運動の課題」
 7日 プアン 懇談会「プアン闘争の経験を分かち合う」      
 8日 キョンジュ 集談会「住民投票から1年、核廃棄場問題」
 9日 ウルサン 懇談会「核電寿命延長と新規核電建設反対」
10日 ソウル 「共同宣言」発表

【参加】 
韓国:慶州核廃棄場反対市民対策委員会、グリーン・コリア、民主労働党環境委員会、プアン市民発電所、生態地平研究所、新コリ核電建設反対ウルサン市民対策委員会、青年環境センター、韓国社会党、環境運動連合、他

日本:井上年弘(原水禁事務局次長)、長田浩昭(原子力行政を問い直す宗教者の会)、金子貞男(原発のない住みよい巻町を作る会)、木次昭宏(和歌山県御坊市で核廃棄場計画に反対)、佐藤大介(NNAFJ事務局)、澤井正子(原子力資料情報室)、堂下健一(志賀町議員・能登原発差止め訴訟原告団団長)、横田信行(毎日新聞長崎支局記者)

◆ダイジェスト 

 国策として原子力が推進される韓日の反原発市民団体が情報交換と交流をする「韓日反核フォーラム2006」が11月6〜10日、韓国で開かれた。韓国で核廃棄物処分場の予定地が決まった住民投票から丸1年。核廃棄場計画を200日に及ぶ反対運動と住民投票などで撤回させたプアン郡。住民投票の力を逆手にとって国が介入した住民投票で、地域振興策と引き換えに処分場誘致を決めたキョンジュ市。市長、議会が反対しながら原発建設が決まったウルサン市。参加者は現地を訪ね交流を深めながら、住民投票がもたらしたのは何なのか、国策である原子力政策にどう住民の意見を反映させられるのか、反原発運動の将来を考えた。

 初日の6日はソウルで、北朝鮮の核実験について意見を交換した。韓国のさまざまな団体から参加、発言があり、日本からは井上年弘さんと金子貞男さんがスピーチした。

 平和運動と反核運動(反原発運動)ではそれぞれ韓日間の連結ネットワークが作られているが、平和運動と反核運動をあわせたより広い形態のネットワークを作るべきことなどが訴えられた。

 7日に訪れたのは全羅北道・プアン郡。03年7月の郡長の核廃棄場誘致表明以降、激しい反対運動が起きた。静かな街並みに当時の混乱の跡はうかがえなかった。

「誰が何万年も安全性を保証できるのか。ふるさとは、私たちだけなく、代々の子孫のもの。いくらお金を積まれても、ふるさと、未来は売れない」。運動の精神的支柱だった円仏教教務のキム・インギョンさんは言い切った。

 数千人規模の集会を200日間毎晩開き、高速道路の占拠、断食・断髪など抗議運動を展開。7万人の街に機動隊8000人が常駐。数百人が逮捕され、負傷した。

 混乱に終止符をうったのが住民投票だった。住民投票法発効(04年7月)前だったため、住民の自主管理で04年2月に実施。投票率72%、反対92%で混乱を終わらせた。運動を経て住民意識は変わり、06年には反対派の郡長を誕生させ、市民による行政監視団や独立新聞、住民出資で太陽光発電パネルを設置した市民発電所まで作った。

 プアン反核委員会の政策室長で、今は市民発電所長を務めるイ・ヒョンミンさんが発電パネルを指差して「再生可能エネルギー政策を発信し、次はエネルギー源選択の運動だ」と誇らしげに語ったのが印象的だった。

 前例のない挑戦を応援したのが、巻原発計画をめぐり自主管理住民投票や町長交代による白紙撤回を実現した新潟県巻町での運動だった。その一員だった金子貞男さんは3度目のプアン訪問。「ここまで成功するとは思わなかった。精神的にも戦術的にも連帯感がある」と感慨深げだった。

 交流は深夜まで続き、運動が残した住民の対立、感情的なしこりといった負の部分にも話題が及んだ。珠洲原発反対運動にかかわった長田浩昭さんは、計画を凍結させられた電力会社の社員が残した「お前たちの(対立という)溝は末代まで残るんだぞ」という捨てぜりふを紹介。住民対立を招きながら決して解消しようとしない行政や電力業界に怒りを新たにしていた。

 韓国での反核運動に光明を見た参加者だったが、8日に訪れた慶尚北道・キョンジュで厳しい現実を実感した。

 住民投票の威力を実感した政府は05年3月、処分場誘致地域支援特別法を成立させ、公募した予定地の絞り込みに住民投票を使った。巨額の地域支援金を目当てに名乗りをあげた4都市で同年11月、住民投票を実施。賛成率が90%と最も高かったキョンジュ市に決まった。投票では推進派の不正が横行。推進に偏った情報提供、反対派は活動が制約され、公務員による投票強要や代筆により不在者投票率38・1%。金銭や酒食の提供も黙認された。不正追及の法的手段はなく、マスコミも結果を追認し、賛成多数の民意という事実だけが残った。「住民投票は投票に至る過程が大切」と金子さん。

 反対運動をリードしてきた民主労働党関係者ら対策委との交流会では、イ・ジョンピョ市議を交え意見を交換した。

 キョンジュ側からは「住民が核の安全性に対し無関心だった」「反核運動の専門家養成が遅れた」といった運動の反省や「指導者が住民の生命・安全よりお金を優先したのが現実。誘致が決まった以上、安全性の確保と地域振興などの約束履行に運動の比重を置いていくしかない」などと条件闘争しか残されていない厳しい現状認識が示された。

 投票から1年たち、現地では新たな不満がくすぶり始めていた。処分場の安全性を保証するため国内の原発を管理する韓国水力原子力(株)の本社を処分場周辺に移転させることを約束していたが、いまだに返事はなく、経済効果3兆5000億ウォン、雇用効果4200人、陽子加速器立地に伴う数千の工場進出など、推進派の行政が住民投票前に出した地域振興策のほとんどが絵に描いた餅となりつつあるからだ。

 いらだちがつのる余り、原子力資料情報室の澤井正子さんに「どう戦えばいいんだ。役に立つ情報がほしい」と声を荒げる場面も。澤井さんは日本からの情報提供を約束し、「他人事にせず、一緒に痛みを分かち合いたい」とこたえるしかなかった。

 処分場予定地やウォルソン原発のPR施設を視察。処分場予定地近くに住む男性は「韓水原本社移転の約束が守られないなら、命をかけて抵抗する」と新たな反対運動も示唆した。3カ月間、計画推進が中断された場合は誘致が取り消されるが、その場合は地域支援金3000億ウォンを返還しなければならない。財政難の行政は後戻りできず、運動の方向性が見えなかった。

 9日、最後の訪問地となったのが現代グループの企業城下町の100万都市、ウルサン市。大多数の市民だけでなく、市長、市議会が反対したにもかかわらず、広域市内にある一つの郡長が国の説得を受け誘致を表明したことを理由に、新コリ原発建設が決まった。民主化後まだ20年足らずの韓国で国策の力をまざまざと見せつけられた。

 反対運動にとりくんだユン・ジョンオ市議らが迎えてくれたが、「150万の反対署名が集まったのに。反対運動が盛り上がったのに、建設が決まったことである種の無力感があり、運動の立て直しが急務」と無念さを隠さなかった。

 反原発の土地柄だけに、市議会の会議室で懇談会となり、日韓共通の課題となっている運転開始30年を経過した原子炉の老朽化問題なども話し合った。日本側は柏崎刈羽原発で実現した住民参加による情報開示のとりくみなども紹介。

 志賀原発2号機訴訟原告団長の堂下健一さんは、今年3月金沢地裁で「電力会社の想定を超えた地震で原発に事故が起こり、被ばくの可能性がある」として商業原発で初めて運転差し止めを認めた判決を勝ち取った経験を披露。粘り強いとりくみの重要性を説いた。

 韓国では、日本の住民運動で大きな武器となっている訴訟や直接請求、情報公開請求が機能していない。軍事独裁時代から民主化が進んで20年足らずで、住民にしみ込んだ「権力には逆らえない」という意識も、日本に比べて色濃く残る。そのうえ、保守的な「東」と反権力的な「西」で対立も残り地域連携は遅れている。もちろん、韓国には日本が失いつつある熱気と住民パワーがあった。

 日本側の参加者は、こうした違いに戸惑いながらも交流を通し、住民がどうやれば原子力政策に物が言えるようになり、必要な情報を引き出すことができるかについて力を合わせていくことの大切さを確認した。

 最終日の10日には、フォーラムを総括し、▽北朝鮮の核実験と六ケ所再処理工場のプルトニウム生産、日本と韓国の右翼勢力の核武装論に対する糾弾 ▽韓国で実施された核廃棄物処分場をめぐる住民投票での不正に対する批判と再発防止 ▽原発の新増設への反対と原子力中心のエネルギー政策転換の要求 ▽原発の老朽化問題で一方的な原発の寿命延長を許さず、持続的な監視と寿命延長阻止の実現−−などを盛り込んだ宣言をまとめ、持続的な連帯と交流活動を通じて核なき世界の実現のため努力することを確認した。

 今回最大の成果は「自分たちは一人でたたかっているわけではない。遠く離れていても同じ志を持った仲間がいる」という事実を実感できたことだろう。

 処分場でいえば、キョンジュは中・低レベルの処分場。日本でも低レベルの処分場は青森県六ケ所村に完成し埋設処分が始まっている。燃料ウランの100万倍の放射能があり、管理に1万年かかると言われる高レベル廃棄物の処分場は日韓両国とも候補地のメドがついていない。勝負はこれからだ。推進派は近年、韓国各地から毎年1000人を先進地・六ケ所村への視察に送り込んでいる。韓国での旅は「来年は我々も六ケ所村で会おう」で締めくくられた。(横田信行)



ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.83もくじ

No.83(06年12月20日発行)B5版34ページ   

● 「韓日反核フォーラム 2006」報告                
(横田信行、井上年弘、金子貞男、澤井正子、堂下健一) 

● 「韓日反核フォーラム 2006」共同宣言 
                 
● 東北アジアの核拡散と、韓日反核運動の課題(イ・ホンソク)
 
● 東北アジア平和共同体の要めを用意するために国際連帯を強化しよう(ノ・ヒョンギ)

● 北朝鮮の核実験と東北アジア核拡散の脅威(イ・サンフン) 
    
● 4年前の濃縮ウラン疑惑はどこへ行ったのか?(ソク・クァンフン) 
   
● 劣化ウラン兵器禁止を求める国際行動デー(稲月隆) 
         
● インドネシア・ゴロンタロ州に原発建設計画 
              
● 「第三回核兵器廃絶・地球市民集会ナガサキ」アピール
          
● 菊地洋一さんの台湾訪問(陳威志) 

*********************************************************
見本誌を無料で送ります。ココをクリック
年6回発行です。購読料(年2000円)
*********************************************************
[目次へもどる]