ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.77より

韓国では放射性廃棄物処分場の受け入れをめぐって、クンサン、ヨンドク、ポハン、キョンジュ(慶州)の4自治体で11月2日に住民投票が行われた。この中で、もっとも賛意が多いところに処分場を立地するというのだ。結果は、キョンジュが賛成89.5%(その多くは不在者投票)で最も高く、候補地として手続きがすすめられることになってしまった。

ここまできたら無効ではないか?
―11.2核廃棄場住民投票の不法事例


パク・ジェホン (韓国青年環境センター)

● 住民の40%が不在者だというのか

住民投票法第6条2項には、不在者を「投票日に本人自身が投票所で投票できない者」と明示している。一般的に考える「不在者」は他地に赴いていたり、軍隊にいたり、その他特別な事情があって投票所に行けない人であろう。どうして住民の20%から多くて40%に達する人々がすべて不在者として申告されているのであろうか?

ヨンドク郡で不在者投票申告した430人を無作為に抽出して確認した結果、本人意思により申告した人は 7.4%に過ぎず、不在者申告をしたのかどうか分からない人が15.1%であり、本人が直接申告をしなかったケースが26.3%であった。つまり、41.4%の人々が、申告したことがなかったり、申告の事実を認識せずにいた。

このような傾向は他の地域でも同じように見出すことができたが、慶州では村の里長が不在者投票封筒を100状余り所持していたかと思えば、里長が自分が持っている住民らの印鑑で代わりに不在者投票申告をしたケースもあった。

中央選管委は10月20日、4つの市・郡において、本人意思とは関係なく他の人間が申告した185枚の不在者投票申告書を確認、検察に捜査を依頼した。選管委は、この185枚と共に不法疑惑がもたれる622枚など合わせて807枚の申告書は無効処理としたが、この807枚中にはでたらめな名前の署名がされている申告書80枚、刑事処罰を受け投票権が回復しない人の申告書12枚、死亡した人間の申告書3枚も含まれていたことが明らかになった。(朝鮮日報10月21日付)

    〈11.2 核廃棄場住民投票 不在者投票申告人数〉  

           選挙人数  不在者申告人数  不在者比率(%)
クンサン市     197,122      77,581        39.4
ヨンドク郡      37,577      10,319        27.5
ポハン市      374,998      82,637        22.0
キョンジュ市    208,744      79,599        39.1

● 公務員を動員した投票運動

住民投票法 第21条(投票運動期間および投票運動をすることができない者)
@ 投票運動は、住民投票公示日から住民投票日の前日までに限ってすることができる。
A 次の各号の1つに該当する者は、投票運動をすることができない。
1. 住民投票権がない者
2. 公務員(その地方議会の議員を除外)
3. 各級 選挙管理委員会の委員

住民投票法上このように明示されているにもかかわらず、公務員らは「原電センター! 未来の希望です」というリボンを胸につけて通勤し、誘致委員会とともに地域を回って「サランバン座談会(客間座談会)」を実施して住民たちに酒と飲食を提供した。

住民たちを無理やり動員した大規模集会に市長が出席し誘致賛成を訴えたかと思えば、公務員らがタスキをかけて広報物を配布するなど、実質的に公務員が違法な投票運動を行っていた。

住民投票法第4条には、地方自治体の長は、客観的な判断と合理的な決定をすることができるよう、住民投票に関する各種情報と資料を提供すべきと規定されているものの、賛成側の見解だけを一方的に支援する広報を行った。

また公務員らの出身地を把握し「出身地別職員名簿」を作って、出身地を中心に賛成や不在者投票申告を誘導させた。公務員ごとに割当をしたうえで 「国策事業広報 出身地出張結果報告」と「3大国策事業 日々総合報告」などを作成して、実績をチェックした。

● 大部分が「在宅投票」

不在者投票が大部分「在宅投票」で行われたことも問題である。
「公職選挙法は、不在者投票の方法として、不在者投票所で投票する方式と在宅投票方式を規定しているが、原則的には不在者投票所で投票する方法をとり、身体に重大な障害があって動けない場合など、いくつかの例外的な場合に限って在宅投票を認めている」(10.26 民主弁護士会記者会見資料集)。

在宅投票方式は第三者の否定的影響を受け得るという危険性がある。

慶州のある集落では、住民が反対を記した投票用紙に、里長がさらに賛成を記入し、無効票を作った事例があった。

また不在者投票用紙は投票をした後、各個人が直接ポストに投函するようになっているが、里長が戸別訪問をしたり、不在者投票の封筒を集めたケースもあった。住民の便宜を配慮したものというが、操作の可能性を十分に疑うに足る事例である。

さらに社会福祉担当者が、障害者や生活保護受給者に不在者投票をそそのかすなど、個人の自主的選択を保障せず、拒絶することが難しい状況を悪用してきた事例などもあった。

● 「ここまできたら無効」と言えるか

公職者を選ぶ選挙で不正があった場合は当選が無効となり補欠選挙をすることになるケースを時折見ることがある。だが、そのような対象が明確でない住民投票の場合、住民投票自体を無効化することができるかどうかは未知数である。

選挙管理委員会は、明白な違法事例等に対してきちんとした処罰をしなかったし、結局、何人かの公務員を処罰する程度で終わらせられる可能性もある。

政府やマスコミは、「長きにわたった難題を民主的手続きを通じて解決した」として歓迎している。こういう雰囲気の中で今後進められる各種の無効訴訟がどのような結果になるのか気掛りだ。

「形式的な環境影響評価」のように、住民投票も大型国策事業に対する免罪符となりはしないか憂慮される。今回の住民投票が否定的な先例として残らないためには、不正投票に対する徹底した調査とともに、住民投票法を厳格に整備する必要がある。そして単に投票手続きだけでなく、事前に賛否両論が十分に論議され得る手順を作ることも必要であろう。

「ここまできたら無効だ」と宣言できる政府、選管委を期待するのは難しいのか・・・・。


声明 「核廃棄場住民投票」の結果に対する反核国民行動の立場

「11.2 核廃棄場住民投票」が終わった。数多くの法違反−不公正疑惑の中で実施された今回の住民投票は、地方自治体間の競争の過熱と公務員の露骨な住民動員のせいで、補欠選挙や他の住民投票に比べて高い投票率と高い賛成率という結果になった。この間、反核国民行動は、地方自治体と公務員の組織的な介入による事前投票運動、金権・官権投票運動、代理や虚偽の不在者投票申告、公開投票・代理投票、金品提供・接待、地域感情の助長などを指摘してきた。このような中で出された住民投票の結果に我々は遺憾を表さざるをえない。高い投票率と賛成率という結果が出てきたとはいえ、住民投票過程の問題点がそのまま闇に葬られるべきではない。

国策事業に対する最初の住民投票は、史上例のない最悪の不正投票として記録されるであろう。今回の住民投票は民主主義に逆行する過去の旧習が総動員された投票であった。今回の不正投票の責任は、地方自治体や公務員よりむしろ青瓦台と中央政府にある。今回の住民投票が不公正と違法で汚された根本原因は、候補地の安全性は後まわしのまま「住民受容性」中心に核廃棄場の敷地を選定しようという政府の誤った政策から始まった。住民投票を、住民の意見を聴取する手続きではなく国家の政策を決定する手続きへと変形させ、競争をあおり、賛成率を高めるために、核廃棄場誘致を「3000億ウォン+α」がかかった利権事業だと美しく飾り立てた。利権事業をつかみ取ろうという地方自治体は早々と中立の立場から逸脱し、違法と脱法を公然と行った。また青瓦台と中央政府は、事態が元に戻せない状況まで進むように放置した。分権と自治を強調してきた「参与政府」は、むしろ参加民主主義を後退させ葛藤と分裂を助長したという非難から逃れ得ないであろう。

反核国民行動は、今回の不正投票の真相糾明と責任者の処罰を要求する一方、各地の地域対策委とともに今回の住民投票の効力についての法的対応を進める考えだ。そして、慶州核廃棄場の安全性問題と文化都市慶州を守るための活動を市民社会団体らとともに続けてゆく考えである。 
                         2005. 11. 3 反核国民行動



ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.77もくじ

No77(05年12月20日発行)B5版34ページ

映画「こんにちは貢寮」日本上映
●「ひとりでも多くの日本の人に見てほしい」(チェ・スーシン)
       
●日本から貢寮の人たちへのメッセージ
                    
●反核だけではない(頼偉傑)

●上映会にかかわって(疋田真紀、富山洋子、松丸健二、
石山謙一郎、矢部忠夫、金子貞男、安渓遊地、山本由紀子)
       
●第四原発の圧力容器は自動溶接機の助力待ち
                
●韓国11.2核廃棄場住民投票の不法事例(パク・ジェホン)
            
●声明「核廃棄場住民投票」の結果に対する反核国民行動の立場
        
●我々の社会が体験したもう一つの悲劇(イ・ホンソク)
              
●パキスタン核問題専門家が指摘する
六ヶ所再処理の重大な意味−ジア・ミアン− 
 
●韓日市民の手で絶とう、
六ヶ所再処理工場運転が開く核拡散への道(野川温子)
 
●韓国67団体他の声名
「六ヶ所村核再処理工場の稼動計画を直ちに撤回せよ」
   
●北京自然エネルギー国際会議2005(大林ミカ)
  
●インド・ジャールカンドの新規ウラン鉱山反対運動    
               

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