【声明】参議院は原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)を承認するな!

  2014年11月13日、衆院本会議でCSCが賛成多数で可決されました。衆議院での議論は不十分かつ拙速なものであり、参議院はこれを可決すべきではありません。

 CSCの締約国はアメリカ、アルゼンチン、モロッコ、ルーマニア、UAEの5か国です。条約発効の要件は「締約国が5か国以上となり、締約国の原発の熱出力が計40万メガワットを上回ること」とされていますが、現在の締約国の熱出力量合計は30万メガワット強なので、本条約は未発効です。日本が加われば条約が発効することから、アメリカから早期加盟を求められていたと報じられています。

 CSCは原子力事故が発生した際に、補償額が事故発生国の責任限度額(約468億円)を超えた場合には加盟国からの拠出金で補完するとされています。日本弁護士連合会のCSCに関する意見書によると、東京電力福島原発事故の損害額は除染、賠償、廃炉費用など合計で11兆円を超えています。東電による損害賠償額も、今年の7月でもう4兆円になっています。過酷事故が起きれば、468億円などという金額ではまったく焼け石に水であることを、日本は世界で一番よく知っているはずです。

 また責任限度額の約468億円を超えた場合の拠出金については、2011年の試算によると、現在の加盟国に日本、中国、韓国が加わったとしても、拠出金の総額は211億円から296億円にしかならないとされています。むしろ日本は、こんな金額では過酷事故で被害を受けた人々に補償をすることは不可能だということを、世界に伝えなければならない立場にあるはずです。

 CSCでは損害項目が「死亡または身体の損害」「財産の滅失または毀損」「経済的損失」「回復措置費用」「防止措置費用」に限定されており、風評被害や精神的損害は含まれません。しかも「回復措置費用」と「防止措置費用」は「権限ある当局」が承認したものに限られるとなっているので、国が対策を怠ればそれは賠償の対象ではなくなる可能性があります。

 さらにこの条約では、事業者への責任集中の原則のもと、原発メーカーが免責されることになっています。福島事故でも原発メーカーの責任が問われていないのと同じ構造です。輸出された原発が大事故を起こして海外の人々に迷惑をかけても、原発メーカーの責任は問われないのです。政府はこれが本条約加盟の意義だと考えているようですが、輸出した原発で起きる事故の責任を免除されることをビジネスチャンスとみなすような原発企業が製造する製品は、もう買いたくありません。

 CSCでは、除斥期間が10年となっており、短すぎます。低線量被曝で晩発性の健康被害が出ることは科学的に妥当性があると分かっているのです。なぜ排斥期間が10年でよいのでしょうか。このような短い除斥期間は、被害者切り捨てにつながります。しかも、原発事故が発生した場合、裁判管轄権が事故発生国に集中すると定められているので、事故が起きたその国でしか裁判を起こすことができません。とすれば事故発生国での損害賠償法制が不十分であれば、救済がなされないことになります。

 CSCは、メーカーを免責することで原発輸出を促進しようとするのみならず、被害者を守るためのあらゆる手立てを周到に矮小化しているという点において許しがたい条約です。原発の過酷事故の現実を身に染みて理解しているはずの日本は、このような枠組みでは被害者を救済することができないと主張すべき立場にあるはずです。日本政府が、拙速にこの条約に加盟しようとしていることに抗議します。これを認めるなら、日本は原発が売れさえすれば外国の被害者が十分に救済されなくても構わないと考えている、と思われるでしょう。参議院は、原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)を承認しないでください。

2014年11月17日  
ノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパン


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