ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.129より

 インドの反原発運動は、1月26日の安倍首相来印時に、全国的な日印原子力協定反対キャンペーンを展開しました(本誌126号)。この運動を担ったクマール・スンダラム氏を迎えて、東京と大阪で「原発輸出反対国際連帯シンポジウム」を開催しました。彼は、さらに、官邸前抗議行動や、広島での集会・デモに参加、福島・福井の見学などを行いました。下記は、大阪集会(8月1日)と福島集会での彼のスピーチから構成したものです

大企業の利益を超えて、人々が連帯する関係を築くために

               クマール・スンダラム(CNDP/核軍縮と平和のための連合)



 日本とインドの原子力協定は、何をもたらすでしょうか。日本とインドの間で原子力協力が可能になって日本からインドへ原発が輸出されていくということだけにとどまりません。インドの核保有が正当化されることになります。また、安倍首相は両国のアジアにおける戦略的パートナーシップを掲げており、日印の軍事面での協力を拡大していく可能性があります。アメリカを背景として、中国の問題も抱えながら軍事化することが問題です。また、大企業による経済成長のみに焦点を当てた日印関係が作られることも問題です。

 私はこれに対して、日印両国の人々の連帯によって、より民主的かつ平和的で非暴力な連帯を作っていかなければならないと考えています。

● 日印原子力協定が締結されたら

 福島原発事故以降の世界で、インドは最も積極的に原発を推進している国の一つです。日印原子力協定が締結されれば、原発を次々と増設して経済を浮揚させようなどという時代錯誤なインドの政策がますます推進されることになります。

 また、この協定が締結されるならば、それはインドの核保有を正当化する役割をも果たしてしまいます。

 インドは、どの国にも核実験をする権利、核を保有する権利があるという主張を持っています。特定の国にだけ核保有を認める核不拡散条約(NPT)は不平等条約だという立場で、同条約に加盟していません。インドは1974年に核実験を行いました。その時に使われた燃料、核技術はアメリカが提供したものだったため、アメリカはインドの核実験強行に怒り、それ以後30年間インドは国際的な核の取引の枠外に置かれてきました。1998年にインドは2度目の核実験を行いました。日本を含めて欧米も経済制裁を行いました。

 しかし2000年代に子ブッシュがインドを有望な原発市場として「発見」し、第6番目の核保有国として例外的に認めたのです。アメリカは積極的に原子力の取引を進めてきました。

 日印原子力協定は、日本すらもがインドの核保有を是認することになってしまいます。

 日本がインドについて、NPTに入ってないけれども核保有国であるということを認めるということになれば、それは日本がNPTを放棄することを意味します。NPTは不完全な条約かもしれませんが、それを破壊する最後の一撃を日本が与えることになってしまうのです。

 この協定の問題性は、2国間の関係だけで捉えられるものではありません。世界の原子力産業を見ると、GEと日立、ウェスチングハウスと東芝、アレヴァと三菱重工が結びついています。インドでアメリカやフランスが原発計画を進めるにあたって、決定的に重要な機器や技術は日本から移転する必要があります。そのために、日印原子力協定が絶対に必要なのです。2国間の問題ではなく、国際的な影響をもつわけです。日本による技術や機器の提供を得て、インドという原発の一大市場を得ることとなれば、息も絶え絶えになっている世界の原子力産業が、この協定によって息を吹き返すということになるのです。

 インド政府は、常軌を逸した原発建設計画を持っています。現在は22基(そのうち2基がクダンクラム原発1・2号機だが、臨界に達したと報じられた1号機はまったく発電していないと指摘されている)の原発がありますが、総発電量の3%にすぎません。しかし50基の新規建設計画を持ち、2050年には、4700万kWに拡大しようとしています。



● インドの人々は

 インドでは、こうした原発推進政策に対して激しい反対運動が続いています。運動を担っているのは、予定地とその周辺の農民、漁民、女性たちなどです。数千人、数万人がの平和的な抗議行動が行われています。

 こうした反対運動の背景にあるのは、福島原発事故です。311の事故がどれほど世界に影響を与えているか、その一つの表れです。私は何度もクダンクラムを訪問していますが、なぜこんなに一生懸命運動するのかと聞くと、村人の一人は「テレビで見た福島の現状をクダンクラムで起こしてはいけないから今頑張っているのだ」と答えました。

 原発は人々の暮らしを破壊します。その土地の自然に寄り添って暮らしている人々にとって、農地を取り上げられる、海を汚染されるということは、暮らしを破壊されることを意味します。原発建設のための用地取得で立ち退きが強制されますが、農民や漁民、あまり教育を受けていない貧困層の人々にとって、それまで暮らしをたててきた場所から追い出されることは、つまり生きるすべを失うことになります。生活の場をなくすということは、職を失うということであり、そうした人々は移住させられた先で新たに暮らしを再建することが非常に困難です。

 安全性の問題も大きく、とくに福島原発事故後は、同じことが自分たちのふるさとで起こるのではないかと心配している人々がたくさんいます。クダンクラム原発1号機で試運転が行われた際に、プラントから大量の水蒸気が放出されました。それを見て、福島のような事故が起きたと思った住民もいました。また、きっと同じような爆発事故が起きるに違いないと確信した住民もいました。住民はそうした危機感を持っているのですが、政府は、避難に関して問われると「何かあったらとにかく逃げてください」という無責任な答えをくり返すばかりでした。

● 安全は

 安全性に関する懸念の内容は、それぞれの原発によって異なります。ロシア製のクダンクラム原発の場合は、ロシア国内で汚職が明らかになり、資材関連の業者が逮捕されています。どうやら、低品質の資材がクダンクラム原発に使われているようなのです。

 ジャイタプールの場合は、フランスのアレヴァ社の新型原子炉が採用される予定です。その原子炉はフィンランドにしか存在しません。しかも、安全基準に達していないとして、フィンランド政府はアレヴァに対して3000項目もの質問を提出し、裁判も行われています。

 計画されている内陸部のゴラクプール原発では、冷却水を灌漑用水路からとろうとしています。乾季になると干上がってしまうような水路の水が冷却水として十分であるはずもありませんし、その水はそもそも農業用の水なのですから、原発が農民から水を奪ってしまうことになります。

 インドでは、原発の安全管理をする原子力規制委員会と原子力開発の委員会が同じ省庁の中に置かれています。何の意味も持たない規制が行われているということです。

 世界中でそうなのかもしれませんが、原発が建てられる場所はどこも美しい場所ばかりです。そして、非常に繊細で重要な生態系が存在する場所である場合が多いのです。環境影響を評価する部局が、環境的な懸念から原発建設に懸念を表明することもありますが、建設の決定は生態系に配慮して科学的に行われるわけではありません。ジャイタプールの場合も環境的な問題が大きかったのですが、「サルコジ大統領が来るんだから、もういいじゃないか。進めよう」というような理由で決定がなされました。

 インドには原子力損害賠償法があり、外国の製造メーカーを訴えることが可能になっています。さまざまな国際核企業がインド市場を狙っていますが、この法律が足かせになっている部分もあります。この原子力損害賠償法を骨抜きにするために、諸外国から強い圧力がかかっています。一国の法律がそのようにして変えられようとすることについて、それはインドの民主主義を破壊するものなのではないかと疑問を呈する人々がたくさんいます。知識人や有力者で原子力政策に対して強く反対している人は多くありませんが、こうした核企業や政府の動きを見ることによって、それがインドの民主主義にとってプラスの意味を持たないのではないかと危機感を持っている人は多いと思います。

● 弾圧

 原発に反対する人々に対する、権力による暴力も大きな問題です。住民の平和的な行動に対して、発砲が行われることもあります。ジャイタプールでは1人、クダンクラムでは2人が亡くなりました。村を封鎖してしまうということもよく行われます。強制捜査で家をむちゃくちゃに荒らしたりするのです。また、警棒よりも長い樫の棒を使って殴りつけることもあります。警察が嫌疑をねつ造することもあり、逮捕・拘禁される人もいます。クダンクラムでは女性を中心にして数千人が収監されました。

 クダンクラムはインドの最南端にあり、地域の人たちは伝統的にアラブ諸国に出稼ぎに行くことが多いのです。出稼ぎに生かせないために、パスポートを取り上げるケースもあります。また、右派の政党を支持する若者たちなどを使っての襲撃も起きています。クダンクラムで運動を牽引してきたウダヤクマールさんが運営していた貧困層の子どもたちのための学校は、これらの人々によって完全に破壊されました。

 反原発運動の場合は、国家反逆罪や、国家に対して戦争をしかけた罪など、最悪の場合は死刑になるような罪名で起訴されることもあります。

● 6番目の核保有国、軍事大国

 日印原子力協定は、核軍縮の動きにも災難をもたらすでしょう。この協定が締結されて、インドが6番目の核兵器保有国として認知されるようになるということは、どういうことでしょうか。アメリカが「この国は核を持ってもいい、でもこの国は持ってはいけない」ということが起きてきます。気に入らない国には禁止や制裁を課していき、そうではない国には推進していく、そういうダブルスタンダードの中で、原発輸出が行われ、核拡散へとつながることとなります。

 インドはウラン資源に乏しい国です。もしも日印原子力協定が締結され、外国から購入した核燃料で原発が運転できることになれば、国内で生産されるウランはすべて核兵器の製造に回せるようになります。これまで原発と核兵器に振り向けてきた国内の乏しいウラン資源が、外国からも供給されるとなれば、それはインドの核増産に手を貸すことになります。インドはIAEAの査察を民生用施設でしか受け入れていません。どの施設が民生用でどれが軍事用かを決めるのはインド政府自身なのです。

 今年1月26日の共和国記念日に、主賓として安倍首相が招かれました。この日は、1950年にインド憲法が施行された記念日です。そのメインの一番重要なイベントが軍事パレードで、主賓とはそれを謁見することです。核弾頭を搭載できるミサイルがうやうやしく運ばれていくのを正面から見て、安倍首相は敬礼をしていました。

 南アジアでは、隣国のパキスタンも核兵器を持っています。パキスタンは、インドの核実験の2週間後に核実験を行いました。2つの核保有国が、核の拡張を競い合っている地域なのです。このような状況の中、インドは世界一の武器輸入国でもあり、非常に軍拡に積極的な国です。インドもパキスタンもそうなのですが、政府は「核兵器は威力が強大なので少し保有するだけで効果が絶大だから、大量の通常兵器だけを保有している場合よりも少ない予算ですむ」などと主張して、核兵器の保有が軍事予算の低減につながると宣伝してきました。しかし、核兵器が導入されて以来、両国の軍事予算は数倍に膨れ上がり続けています。

 こうした動きは、中国に対するけん制の意味もあります。インドは、インド洋の安全保障で主役に立とうとしており、海上自衛隊とインド海軍がインド洋やベンガル湾で合同演習を行っています。

 インドの軍事国化は、対外的な現象だけではありません。国内における様々な運動にも向けられています。とくにカシミールや北西辺境州などにおける民衆運動は、軍による弾圧が合法化されており、多大な被害が出ています。たとえばマニプル州では、軍が住民たちを虐殺する、少女たちを強姦する、といった行動を続けており、多くの人たちはこれに対して大きな怒りを持っています。

● インドと日本の関係は

 インドの人々は、日本の平和憲法をとても重要に考え、尊敬しています。世界の財産だと思いますので、インド国内でもさらに広げることが大事だと考えています。両国の軍事化に対抗して、憲法を大切にすることによる真の友好を目指したいです。

 インドと日本の経済関係についていうと、インドに進出している日本企業の現地工場では、ホンダやスズキなどで大きな労働争議が行われています。それに対して誠実な対応がなく、労働条件や待遇だけではなく、さまざまな側面から労働者の批判の的になっています。インド政府は、そうした労働者の運動をも力で抑えようとしています。経済関係を強めると言っても、大企業や権力者が民衆を搾取するようなありかたは許されません。

 日本とインドは、軍事、原子力、核兵器容認、企業利益優先、そんな相互協力を進めるのではなく、人々による真の平和的な友好を進めていくべきだと強く訴えたいと思います。人間中心の、そして民主主義にのっとった透明性のある寛容な両国関係、世界状況を作っていきましょう。日印原子力協定に反対しましょう!

<質疑応答>

Q モディ首相はグジャラート州首相時代から日本の企業と関係が深いと聞きましたが。

A モディ首相は、インド人民党というヒンドゥー主義、つまり、インドをヒンドゥー主義の国家にしよう、イスラム教徒は追いやっていこうという方針を持った政党の人です。グジャラート州で2002年、電車が放火される事件がありました。この放火事件がイスラム教徒によるものなのかはわからないのですが、怒ったヒンドゥー教徒によって2000人のイスラム教徒が殺されるという悲惨な事件がありました。このとき州首相だったモディ氏は、積極的に殺害を指揮したわけではありませんが、治安維持などすべての権限をもちながら、イスラム系住民たちを守るために何もしませんでした。虐殺を放置したのです。この事件は、国内にも国際的にも衝撃を与え、インドの経済界からも非難され、グジャラート州は見放された状態に置かれました。アメリカは、モディ氏に入国禁止の措置をしました。グジャラート州は、国内でも国際的にも孤立しました。

そんなときに、モディ氏を支えたのが日本企業でした。労働争議のない、トップダウンの即決のビジネスを目指す中で、モディ州首相と日本の経済界の利害が一致したのです。日本企業はモディの首相就任を歓迎しています。グジャラート州は発展しているのかもしれませんが、それがどちらを向いた発展かということについては、非常に疑問があります。モディ氏のやり方がインド全体に広がっていくことを懸念しています。

Q もし原発事故が起きたら、インド政府は巨額の損害賠償をする覚悟がありますか?

A ボパールでのアメリカ企業による毒ガス漏れ事故がありましたが、賠償や補償は未だに行われていません。原発事故が起きたら、もっと想像もできないほどの被害が起きると思われます。政府や経済界は汚職が多発していますし、インド政府が被害者にしっかりした賠償や補償をしていくという可能性はほぼないと考えています。

<福永正明さん>

 日印原子力協定の交渉はかなり大詰めを迎えており、8月末からのモディ新首相の来日で合意されるか、そのとき合意に至らなくても9月の国連総会のときにまとまるのではないかと指摘されています。

 スリランカとバングラデシュを安倍総理が9月に訪問予定です。スリランカは中国から、バングラデシュはロシアから原発受注がすでに決まっているのですが、その計画をひっくり返して日本が参入したいと思っているのではないかとの見方もあります。

 そもそも2010年に日印原子力協定の交渉が行き詰まる原因となったのは、「再び核実験をしたら協力を停止する」という文言を入れるという、岡田外相による核実験停止条項でした。最近の情報によると、この問題は決着がついたようです。決着と言っても、なにかうまい文言を入れるということで対応するようです。

 最近の報道では、インドに再処理を認めるのかどうかが問題となっているようです。

*************************************************************

ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.129 もくじ

                     (14年8月20日発行)B5版20ページ

● ストップ川内原発再稼働! (鳥原良子)
 
                  
● 大企業の利益を超えて、人々が連帯する関係を築くために (クマール・スンダラム)

● 原発を終わらせるために、開発主義をひっくり返す (洪申翰) 
        
● 美しいシノップを守りたい  (守田敏也)

● 原発でも、すべてが首相に従属 (ディレッキ・ゲディック)

● 不法と暴力にまみれたチョンド・サンピョン里高圧送電塔工事  (高野聡)

● LOOK BACK IN ANGER
    ~芦浜原発を止めた町、50年の歴史から知る事学ぶ事~ (小室豊) 
  
*************************************************************
年6回発行です。購読料(年2000円)
見本誌を無料で送ります。 事務局へ連絡ください →  sdaisuke?rice.ocn.ne.jp
                                   「?を@に変えてください」
[目次へもどる]