ノーニュークス・アジアフォーラム通信
No.123より

    
             6月22日、大阪集会より

トルコへの原発輸出と
反対運動の現状


「ことばが通じなくても、
原発のない未来のために
私たちは共に闘える」


アスリハン・テューマー
(グリーンピース・インターナショナル)




●「なぜ日本はトルコに原発を輸出するのか?」

 みなさん、お招きいただきありがとうございます。トルコへの原発輸出の問題と現地の反対運動の状況をお話ししたいと思います。

 「あれほどの原発事故を経験した日本が、この地に原発を建てようとしていることを思うと悲しくなる」。これは、シノップ環境プラットフォームの代表者の発言です。シノップというのは黒海沿岸の美しい町で、三菱とアレバが原発を建設しようとしている場所です。

 チェルノブイリ原発事故の影響は、トルコにも及びました。シノップも放射能の被害を受けています。そのような経験を持つシノップの人々にとっては、福島原発事故でたいへんな苦しみを経験した日本がトルコに原発を輸出しようとしていることが信じられないのです。

● 縮小し続ける原子力市場

 福島の事故以降、原子力に関する考え方は世界的に変わりました。

 チェルノブイリ事故のときは、「あれは古い原発で技術も不十分だったから起きた事故だ」などのいいわけがなされて、「同じようなことが別の原発で起こることは考えられない」と言われました。

 しかし、原発に関する技術が非常に進んでいて最先端の安全基準や安全文化を持っていると思われている日本でこのような事故が起きたことで、世界は驚愕しました。

 福島事故後、世界の原子力産業は安全対策のために追加的な投資を迫られました。原発大国フランスでは、その額は1基あたり1億7千万~2億6千万ユーロに上ると言われています。そして、老朽原発の運転延長期間も短縮され、保険費用も上昇し、賠償システムも厳格化の方向です。

 こうした状況を背景に、原発市場はさらに縮小化されることが明らかとなりました。

 福島原発の影響で、原発建設計画を撤回もしくは段階的廃止にすると決定したのはドイツ、イタリア、スイス、ベルギー、オランダ、ブルガリアです。日本の方向性は不透明です。計画縮小もしくは延期を決定したのは中国、インド、米国、カナダ、イギリス、フィンランド、東欧諸国などです。事故後も原発に関して全く政策を変えていない国は、アラブ首長国連邦、ブラジル、南アフリカ、韓国などです。

 中国では、2年間の一時停止措置、つまり新規原発建設の承認は当面しないという方針です。フランスでは、電力で原子力の占める割合を75%から50%まで下げようとしています。日本は、いったん「2030年代には原発を止める」と言いましたが、不透明な状況です。現在稼働中の原発はたった2基ですね。アメリカでは、原子力規制委員会が新規原発の許諾を一時停止していて、GEのCEOも「原発を正当化するのは非常に難しい」と発言しています。また既存のプロジェクトは予算超過や遅延が起こっており、パートナー企業は撤退していっています。

 もっとも印象的な決定をしたのはドイツでした。ドイツでは従来から非常に強力な反原発運動がありましたが、2022年までに原発を段階的に廃止するとしています。そして、シーメンスという巨大な企業が、原発部門から撤退しました。

 イタリアは、新規原発の建設中止を国民投票で決定しました。今回の国民投票は2011年の6月に実施が決まっていたのですが、福島事故が起きたためベルルスコーニ首相がどうにかして国民投票を中止しようとしました。国民が反対することが明らかだったからです。首相の抵抗に対して最高裁判所が予定通り国民投票を行うべきとの決定を下し、国民投票は予定通り行われることになりました。すると首相はメディアに対して、国民投票について報道しないようにと圧力をかけました。国民が投票に行かずに投票率が低ければ、投票自体が無効になるからです。国民投票前日、首相はテレビに出て「天気がいいから明日はみんなビーチに行って海水浴を楽しめばいい」と言ったのです。しかしそうした努力もむなしく、イタリアの国民の50%以上が投票に行き、94%が原子力からの撤退の道を選びました。

 スペインでは、脱原発が決まっていましたが、既存のガローナ原発の運転延長が計画されていました。しかしそれも中止となりました。ブルガリアでは、ベレーヌで2基の原発建設が予定されていましたが、コスト面の問題があり、投資の話もまとまらず、福島事故をきっかけにこの計画は中止されました。



● 世界に原発を売り込む安倍首相

 原発を導入したいと思う国が少なくなってきて、原子力産業は焦っています。原発企業のための市場がないのです。福島の事故以降、日本国内でも三菱、東芝、日立にはもう原発の市場がないことが明らかになりました。国内にはビジネスがないのです。

 そんな状況の中、日本の日立はなんとかリトアニアで原発建設の優先交渉権を獲得することができましたが、それだけでは日本の原子力産業のための市場には不十分です。これでは原子力部門が維持できなくなってしまうという状況の下で、安倍首相が国際的に原発のPRマンのようにふるまい始めました。

 先週、安倍首相がポーランドに行き、ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリーの首相たちと会談しました。

 チェコ、ハンガリー、スロバキアには、ソ連時代からの原発があります。60年間で、宗教にも匹敵するような原子力安全神話が蔓延しています。ソ連時代の考えを引き継いでいるのです。

 これらの国は、チェルノブイリ事故のときも放射能被害が拡大していることを知らされることはありませんでした。スウェーデンで放射能汚染が明らかとなり、国際的に事故の被害が知られるようになりましたが、これらの国では情報が隠ぺいされました。

 チェコで暮らす友人は、チェルノブイリ事故の後にはラジオでクラシック音楽しか流れなかったと言っていました。これらの国の反原発運動の人々は、「原発の放射能雲は国境でピタッと止まるんだよね」という冗談をよく言っていました。

 ポーランドは石炭が豊富なため原発を持ったことはありません。原発建設計画に対しては非常に強い反対運動があります。しかし、政府は反原発運動を弱体化させようとしており、反対派を裁判に訴えると脅しをかけたり、数百万ドルを使って原発推進教育を行っています。


● トルコの場合:アックユ原発計画

 安倍首相はトルコにも、訪問セールスしました。三菱の原発を売りつけようとしています。5月の初めに結んだ原子力協定は、福島事故後に初めて結ばれた原子力協定です。

 これまでトルコに原発が一基もないのにはいくつかの理由がありますが、非常に強い反原発運動があることも理由の一つです。

 トルコではいま、二カ所で原発建設計画があります。一つは、地中海沿岸のアックユというところで、約40年にわたって建設計画がくすぶっています。現在、ロシアが原発を作ろうとしています。もう一つは、黒海沿岸のシノップです。三菱とフランスのアレバが原発建設を計画しています。

 地中海沿岸のアックユには非常に繊細な海洋生態系があり、絶滅危惧種の地中海モンクアザラシも生息しています。アンタルヤという世界的なリゾート地からわずか100kmです。アックユに原発ができて事故が起これば、アンタルヤも汚染されてしまいます。アックユも、非常に景観が美しくて自然豊かなところです。しかし、観光開発は全く進みませんでした。原発予定地になってしまっていたからです。地元の大学の調査では、温排水が海に排出されれば、周辺の海洋の環境、生態系が全く変わってしまうということが指摘されています。


● アックユ原発計画をめぐる歴史

 トルコでの原発建設計画の歴史を話します。トルコのエネルギー省がIAEAにプレゼンテーションしたときの資料をもとにしています。1956年、トルコで原子力委員会(AEC)が設立されました。そして1965年になると、最初の原発計画に関する研究が開始されます。その後1976年になってやっとアックユ原発の建設許可が出ました。11年かかってやっと許認可を得ることができたものの、計画はそこで止まってしまっています。70年代から原発建設を試み続け、いまだに成功していません。もし建てられていたら、いま頃すでに廃炉の議論をしなければならない時期になっていたでしょう。

 これまでにアックユ原発建設が具体化しそうになったことが4回ありましたが、いずれも建設には至らず失敗に終わっています。時期としては1977~79年、1983~85年、1996~2000年、2008~2009年です。失敗が続いた背景には経済的な理由もあったと思いますが、もう一方には全国規模での強力な反原発運動があることも挙げられます。

 トルコの法律では、電力についての規制があって、国家が原発建設に対して直接的に資金面で応援することができないのです。それで、2国間のプロジェクトとして行うことがめざされ、2010年にトルコとロシアの間で政府間協定が結ばれました。ロシアをパートナーに選んで、ロスアトムに資金支援を依頼したのです。

 しかし、ロスアトムも財政面で問題を抱えており、さらにフランス電力公社(EDF)に助けを求めました。しかし、フランス政府が全面的に応援しているにもかかわらずEDFも財政状況が厳しいため、支援が受けられる可能性は低いと思います。

 そのような状況があるため、建設を予定通りに行うことが難しいので、この問題はまだ延々と続くのではないかと思います。

 地域の反対運動は非常に強力です。アックユからほど近いメルシンでも、活発で根強い反対運動があります。この写真のデモで掲げられているバナーには、「原子力は許さない」と書かれています。大規模な人間の鎖もとりくまれました。メルシンの町の中心部からアックユまで、なんと159kmの道のりを人間の鎖でつないだのです。メルシンからアックユまでの30か所の町で、仲間たちがとりくみを組織して成功させました。反対を叫ぶ大勢の人たちがアックユの建設予定地に集まり、中に入ろうとして警察に止められたりすることもあります。メルシンで開催されるはずだった環境アセスメントの公聴会は、政府が公聴会を開こうとしたけれど、活動家がそれを阻止することに成功しています。

 
予定地で

● シノップでの原発計画

 2カ所目の予定地とされた黒海沿岸のシノップでは、三菱とフランスのアレバが合同で原発を作ろうとしています。シノップも海が美しく、観光が盛んで、漁業が有名な場所です。ここは、チェルノブイリ事故によって非常に深刻な影響を受けたところです。

 アックユで政府間協定を利用したように、シノップでもトルコの国内法がないがしろにされるでしょう。

 ここで建設されるという「アトメア1」という原子炉の炉型がなぜ選ばれたのか。科学的に、または経済的にどういう理由でこの新型炉が建設されようとしているのか、トルコの国民は知らされていません。このプロセスは非常に不透明です。これまでトルコには原発がないため、原子力についての規制もありません。トルコへの原発輸出は非常に大きな問題です。



● 倫理なき原発輸出

 アックユは長い間原発反対運動が続いていますが、シノップは計画が浮上してからまだ日が浅いです。しかし、このわずか2年間で反対の動きが活発化しています。シノップがある黒海地域の人々というのは、頭に血が上りやすい性格の人が多いと言われています。なので、さらに反対が高まることを期待しています。あちこちでデモが行われていますが、「原子力はあの人たちのもの、シノップは私たちのもの」と書かれたバナーもありました。トルコ工学協会が発表した報告書は、「もしシノップに建設された原発で事故が起これば、黒海地域全体が脅かされる」と書きました。

 トルコは、これまでに世界最大級の原発事故を起こした2つの国、つまりロシアと日本と組んで原発を建てようとしているわけです。

 シノップの人々、またトルコの人々は、「日本国内では原発をやめていこうという話をしているのに、そんな危険な技術を外国に輸出しようとするのは、非常に非倫理的なことなのではないか?」と感じています。

 トルコの反原発運動はとても強く、国民の64%が原発に反対しています。予定地に行けば、反対は80%まで跳ね上がります。

 原発建設阻止は、トルコの環境運動にとって最大の課題です。トルコでは何度も原発が建設されようとしたけれどそのたびに勝利してきました。トルコで環境を大切にしている人たちは、絶対に原発を建てさせない運動を次の世代へと引き継いでいこうと考えています。


● 手を取りあって原発を止めよう

 トルコの市民社会の中では、はっきりと原発反対を掲げて運動していなくても、これからのよい社会のために原発を建てるべきではないと考えている人々がたくさんいます。弁護士会、医師会、工学者協会などが公式に反対を表明しています。

 それ以外にも反対はいろいろなところに及んでいます。とても人気のあるサッカーチームの25周年記念試合のときには、グリーンピースが依頼を受けて原発反対の巨大なバナーをスタジアムに掲げたことがあります。スタジアムにいた5万人と、試合の中継を見た2千万人がそのバナーを目にすることになりました。そしてバナーに対して応援のメッセージがたくさん届き、私たちはとても誇りに思いました。

 反原発のアーティストもいます。「原発反対の頭巾をかぶった女の子」という名前のガールズバンドで、とても人気があります。なぜこういうバンド名にしたのかというと、バンド名を口にするたびにみんなに原発反対のことを思い出してほしかったからだそうです。

 黒海地域出身のある歌手がこんな言葉を残しています。「お互いに理解し合うためには、同じ言語を話す必要はない。話す言葉が違っても、人はわかりあえる」と。残念ながら彼はがんでもう亡くなったのですが、このことばは今日のこの場所にぴったりなのではないでしょうか。ここにはトルコ、インド、日本の人々が集っています。私たちはそれぞれ違うことばを話すけれども、心を一つにして一緒に原発を止めていこうとしているからです。みなさんとお会いできて本当にうれしいです。ありがとうございます。

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ノーニュークス・アジアフォーラム通信
No.123 もくじ

  (13年8月20日発行)B5版28ページ

● トルコへの原発輸出と反対運動の現状
 
(アスリハン・テューマー)

● 中東への原発輸出という危機
 
(役重善洋)  

● ブラジルへの原発輸出を許すな
 
(印鑰智哉)  

● 脱原発を日韓の市民運動の連帯で
 
(川瀬俊治) 

● 原発メーカー訴訟:あなたも原告になりませんか 
     
● DAYS JAPN、
インド・ベトナム・トルコに意見広告

● 「原発反対全インド民衆大会」                         
● 原子力エネルギーに関する
インド民衆憲章2013                 
● 「原発反対全インド民衆大会」への
日本からの連帯アピール           

● ダン・ギンリンくんを悼む 

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