ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.121より

東京電力・国の刑事責任を問うたたかいと、
                  福島の人々のいま


                            3.16大阪講演より抜粋

            佐藤和良(福島原発告訴団副団長・いわき市会議員)



 おばんでございます。福島原発震災から2年がたち、全国的に見ると原発震災の風化が進んでいると感じます。福島の被災地と被災者は、はっきりいえば疲弊して、心が折れそうな状態です。自死する方もおられます。その一方で、原発の過酷事故を起こした張本人たちが一切責任も取らずにのうのうと暮らしています。

 福島原発事故は、すべて起こるべくして起こったことです。原発の安全神話の崩壊です。私自身は第二原発の立地町である楢葉町の生まれで、1988年から脱原発福島ネットワークで、脱原発運動をずっとやってきました。2010年6月17日に、第一原発の2号機で全電源喪失事故が起こり、いつかたいへんな事故が起こると感じていました。そして今回の事故に至り、私としては本当に慙愧の念に堪えません。

 いわき市の沿岸部は、津波で壊滅的な被害を受けました。そして3月15日に放射性ヨウ素が来ました。情報が隠されていましたが、実はいわき側のほうが、放射性ヨウ素による大量の初期被曝がありました。

 私たちは、国は福島県民を見捨てたのだと思っています。原発政策は、ずっと安全軽視、効率優先で推進されてきました。分断と差別の構造の中に立地地域があり、命よりもカネが大事だというのが日本の国是ではないかと思います。

● 困難を極める収束作業


 2年がたちましたが、菅総理が出した原子力緊急事態宣言は今も解除されていません。東京電力の発表でも、1〜3号機からは毎時1000万ベクレル、毎日2億4000万ベクレルの放射性物質が環境中に放出されています。

 循環させた汚染水の貯蔵タンクも増え続け、もともと林だったところを切り倒して、応急に貯蔵タンクをたくさん設置しています。これらも大地震が来たら危険だと言われています。

 4号機の燃料プールについては、取り出しカバーというのを作っています。取り出しは11月からの予定ですが、4号機付近に鉄骨で建屋をつくってクレーンを置き、クレーンでプールから燃料を取り出して金属のキャスクに入れて、隣にある共用プールに移すという計画です。

 共用プールには、6000体以上の燃料集合体が入っています。乾式の貯蔵庫を免震棟の近くに作り、共用プールから使用済み燃料を半分ほど取り出して、その乾式貯蔵庫に移して、共用プールの空いた部分に4号機からの1533体を入れるという計画です。

 今も頻繁にある福島県沖地震、そして東電と国が長さを短く見積もっている双葉断層もあります。東北大学のある先生は、原発直下の双葉断層に地震エネルギーがたまっていると指摘しています。本当に時間との競争です。

● いわき市の市民放射能測定室

 実害と風評被害の複合化で、福島の第一次産業はとても厳しいです。福島というだけで、野菜も米も売れない状況が続いています。

 私たちが立ち上げた、いわき放射能市民測定室「たらちね」で測定した総検体数は、開所した2011年の11月から今年の1月までで、3万8099件です。キノコ類やイノシシの肉が高く出ます。土壌検査は285件で、畑の土で一番高かったのが1万4525ベクレル/kgでした。稲わらや牛フンなどでは、2万1000ベクレルの検体がありました。

 また、ホールボディカウンターでの測定も行っています。これも2011年11月から今年の1月までで2533名が受けました。

● 福島県民の抵抗とたたかい

 福島では、郡山での集団疎開裁判があり、現在は仙台高裁で争っています。他にも多くのたたかいがありますが、私たちは原発事故被曝者援護法の制定も要求しています。

 年に2回程度の定期的な健康診断をすべての被災者が受けられるようにすること、なんらかの疾病が発見されたら医療費はすべて無料にすること、働けなくなれば生活を社会で保障していくこと、そのためにすべての被災者に健康管理手帳を発行すること、その手帳を持っていれば全国どこでもきちんとした医療を受けられることなどを求めて、いわき市が全国に先駆けて意見書を採択して国に送りました。

● 子ども被災者支援法について

 2012年6月に成立した子ども被災者支援法については、前述の援護法とは似て非なるものになっています。

 私たちはこの法律に関して、大きく二点を盛り込むよう求めていました。一つは、きちんと国家責任を明記することです。条文では、社会的責任と書かれていますが、あれは社会の責任ではないですよ。国家が原子力を推進したことによって起きたことです。国家賠償責任を盛り込むべきだというのが私たちの主張です。

 もう一つは、健康管理手帳の交付です。これが入っていないのでは、その後の健康診断や医療行為、生活保障につながりません。子ども被災者支援法には、その二つが抜け落ちていると私は思います。

 この法律は基本法、プログラム法ですので、実際の施策は担当官庁が基本方針を作り、その基本方針に基づいて実施計画を作らなければなりません。それは復興庁の役割です。

 しかし復興庁からは、これまでやってきた施策の寄せ集めのような「パッケージ」しか出てきていません。

 子ども被災者支援法が実のあるものとなっていくためには、基本方針の決定とそれに基づく施策展開、自主計画の作成ということを主張していくしかありません。全国的にみなさんと協力し合ってやっていけたらと思います。

● 告訴団について

 福島原発告訴団は、2012年3月16日にいわき市で結成しました。民事訴訟だと10年も20年もかかったり、負けたりします。また行政訴訟だと最初から門前払いになったりします。全国の反原発運動がそのような苦い経験をしてきました。そのようなことから、告訴をすることになり、150人の告訴団でスタートしました。

 6月11日、まずは県民だけで告訴をしようということで1324人が告訴しました。11月には、第二次告訴を全国の皆さんにお願いをしました。京都の佐伯さんに、関西の窓口になっていただきました。関西でも2000人近い方々が告訴人になってくださいました。現在は、告訴人が1万4716人になっています。

 強制捜査と起訴を求めて、2月22日に東京地検に上申書を出しました。皆さんにお願いした緊急署名は4万256筆を第一次で提出しました。この後、3月13日に第二次提出を、10万3464筆で提出しました。

● 私たちが求めることは

 一つは、中長期的な脱原発ではなく即時無条件の原発停止と廃止です。被曝をより少なくするために、命を守る健康管理をしなければなりません。それから、原発事故の刑事責任を追及して、告訴団の運動を推し進めて行きます。

 二つめは、命を守る健康管理です。放射能の恐怖から解放されて、自由で健康で文化的な生活を営む権利の保障です。この権利は福島県ばかりではなく、全国的に奪われているのだと思います。

 たらちねでは、広河隆一さんたちが沖縄の久米島に開設した保養施設の福島県での窓口になり、子どもたちを沖縄での保養へと送りだしています。

 保養は、恒久的な保養制度を国がきちんと制度化していかなければなりません。学校のカリキュラムの中に保養制度を組み入れさせるところまで実現しなければ、子ども被災者支援法の中身が空洞化してしまうと思います。

 そして甲状腺検査体制の確立です。小児甲状腺がんは、2011年度分で3人になり、疑いのある人は7人です。甲状腺検査で5ミリ以下の結節、20ミリ以下ののう胞がA2判定というものですが、そのA2が被験者の4割くらいになっています。年2回くらいは検査をやるべきです。山下先生はA2なら2年後にやればいい、と言っていますが、それでは「調査あって治療なし」になってしまうので、だめだと思います。自分たちの疫学調査のためにはそれでよいのでしょうが。

● 県民健康管理調査の欺瞞


 県民健康管理調査では、健康手帳を配っていません。いま、健康手帳を配っているのは浪江町だけなんです。自分の被曝量がどれくらいで、検査したときはこうだったということが手帳に記録され、データベース化され、自分が自分の健康を管理できるという態勢を作る必要があります。山下先生がやっている限りは、なかなか難しい。4月からは長崎大学に戻って学長候補だそうです。しかし、福島医大の副学長には非常勤でまだ残っているので、関与はし続けるのです。

 県民健康管理調査の不祥事がありました。検討委員会をやる前に、秘密会を開いていたのです。検討委員会のメンバーたちが正式の検討委員会の前に、別の場所で秘密会をやって、「がんが出たことや、のう胞や結節のパーセンテージが挙がっているのは、原発事故由来ではない」というふうに言いましょう、という口裏合わせをやっていたのです。責任ある立場としては許しがたいと思います。

 去年の秋、私たちも県に申し入れましたが、検討委員会に弁護士会と医師会からもメンバーを入れるので、それで勘弁してほしいと言われました。しかし、医師会と弁護士会は、秘密会をやって口裏合わせをするような会には入れないと言っています。ですからこの不祥事問題は棚上げ状態ですが、山下さんは居座り続けています。

● 巻き返しを図る推進勢力

 チェルノブイリの場合は小児甲状腺がんの多発が確認されたのは4年後からだから、福島で1年目に出たがんは原発由来ではない、との主張があります。

 しかしご承知の通り、チェルノブイリの場合は国が正式に調査を始めたのが4年後であっただけなのです。グラスノスチがあって、チェルノブイリ法ができたのが4年後なんです。現場の医者からは、1年後から病気の増加は報告されていたのです。こんな子どもだましのようなことをまことしやかに言っています。

 IAEAは、去年の暮れに福島で閣僚会議をやりました。今後は県内2カ所に出先機関ができて、そこにIAEAから何人か常駐するそうです。国際的な原子力マフィア、これがやはり大きな背景にあるということはここでも見えてきます。かなり根っこは深いということです。

● 被曝労働者の命を守るために

 被曝労働者の方たちの被曝管理が、非常にずさんな状態です。いままで福島原発で働いてきて、収束作業にあたってくださっている方々は、本当に一生懸命やってくださっています。その人たちこそ、先頭をきって線量の高いところに行き、あっという間に線量限度を超して働けなくなってしまいます。そこに外国人労働者、若年労働者、経験のない労働者がどんどん入っていくという状況です。30年、40年、50年と続く廃炉作業の中で、本当に人材が確保できるのかも大きな問題です。そして、その間の被曝管理というのは可能なのでしょうか。

 2011年の3〜5月の段階では、青手帳、放射線管理手帳の発行ができませんでした。線量管理が3月から5月まではきちんとできていません。しかしあの頃は、緊急時だからということで、250ミリまで線量限度を上げたのです。

 作業員の皆さんの命を守るためにも、子ども被災者支援法と別に被曝労働者の保護法が必要です。

● 告訴団と福島のこれから

 告訴団としては、4月27日に総会と全国交流会を予定しています。新聞記事では、今回の被曝を業務上過失致死傷と認定させるのはハードルが高いとの論調です。こうした記事は、地検あるいは検察側の意向を踏まえて出されていると思われます。

 実際に関連死で亡くなった方はたくさんおられますし、サイト内で亡くなった方もいます。そのようにおびただしい犠牲者の中で今日を迎えているわけなのですから、業務上過失致死傷が当たらないなど、許しがたいことです。

 原子力ムラはどこも傷ついていません。彼らはむしろ焼け太りです。脱原発は盛り上がりましたが、被曝と命の問題という点で、もう一度つながらなければ、この体制を突き崩して前に進むことはできません。

 日本国民は、また自民党を選択して政権与党に据えてしまいました。再稼働の話にもなっています。次の原発震災がどこになるかはわかりませんが、それはそんなに遠くないと思います。私たちが、本当の意味でつながり合っていかなければならないときだと思います。



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ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.121もくじ

                        (13年4月20日発行)B5版28ページ

● インド・クダンクラム原発反対運動(10)

● ミティビルディでも進む原発建設計画

● 台湾、原発反対デモに20万人が参加

● ありのままのベトナムを見なければ原発輸出も止められない (伊藤正子)

● 東京電力・国の刑事責任を問うたたかいと、福島の人々のいま (佐藤和良)

● 原発にもメーカー責任を、被害者保護のための原賠法改正へ (鈴木かずえ

● 公的資金が投入されたエネルギー開発の問題点 (玉山ともよ)

● アジアで原発新設100基、20年で50兆円市場

● 宮嶋信夫さんを偲ぶ (佐藤大介)

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