ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.120より
                              インド・クダンクラム原発反対運動(9)

収監されている母親たちを解放せよ!

スンダリとシャヴィエランマとセルヴィは
ティルチラパッリの牢獄にいる
彼女らは犯罪者ではない
誰も殺していないし
誰からも何も盗んでいない
誰からも何も強奪していない
誰も傷つけていないし
人にひどい仕打ちをしたこともない
ちがう!
シャヴィエランマとスンダリとセルヴィは
犯罪者ではない!
それは犯罪か?
自分たちには、死の恐怖におびえず
暮らす権利があると言うことが
それは犯罪か?
自分たちを永劫に育んでくれる
母なる海を守る義務があると言うことが
それは犯罪か?
海と砂浜が焼き尽くされて
灰になるのを防ごうとすることが
自分たちを根付かせてくれた
ひとすくいの土に
すべての命の渇きをいやしてくれる
一杯の水に
都会の人間が決して持つことのない
感謝と畏敬の念を持つことが
犯罪だと言うのか?

スンダリとシャヴィエランマとセルヴィは
今も牢獄にいる
母鳥の心臓は永遠に鼓動し続ける
子どもたちのために
夫たちのために
愛する家族のために
どんな裁判官よりも
正義の心を持っている女性たち
どんな政治家よりも
すぐれた歴史観を持った女性たち
これまでの誰より
叡智を持った女性たち
世界のどんな真実より
正直さを秘めた女性たち
スンダリ、シャヴィエランマ、セルヴィは
今も牢獄にいる
野蛮な政府が彼女たちを捕まえて
偽りの罪状で牢獄に入れた

犯してもいない罪で彼女たちを逮捕した
どの法律書がその根拠なのか
私たちに説明してみなさい
どういう理屈でこんなことになったのか
私たちに説明しなければならない
あなたも私もこの国の市民なら
私たちはこの不当逮捕という犯罪に
責任があるのだ
不正義な政府が、この国のすべての人を
犯罪者にしてしまった

金輪際、母性をたたえる言葉を語るな
母親の責任も
祖先の文化の素晴らしさも
厳しい労働の尊さも
教科書に書かれたそれらを語るな

この女性たちは深く気づいている
命の根源に 色あせない正義に
地球の生きとし生けるものへの
究極的な責任に
彼女たちはこれらの価値観に
忠実に従って生きて
そして今、牢獄にいる

彼女らが牢獄で苦しんでいるときに
彼女らが猟師の網にかかった母鳥のように
すすり泣いているときに
私たちが無関心でいる権利はあるか?
私たちだけがこんな心地よい場所で
眠っていられる権利はあるか?

*クダンクラム原発反対運動で、国家に対して戦争を仕掛けた罪、治安妨害罪などの重罪で逮捕されたままの女性たちのために書かれた詩。原詩はマラヤラム語。





ウダヤクマールさん

私たちはなぜクダンクラムで闘い続けるのか

    ― 闘いをふり返る ―
      SPウダヤクマール


 私たちは、1980年代後半から、クダンクラム原発に反対する闘いを続けています。

 このロシア製原発建設計画は、ソビエト崩壊によっていったん凍結され、1997年に復活しました。インド政府とロシア政府は100万kW、2基の巨大な原発を建設しました。

 地元の人々への相談や説明は一切ありませんでした。私たちは、23年間に及ぶ長い闘いを経て、やっと時代遅れの古びた環境影響評価報告書を入手したにすぎません。インドの原発当局は、この計画に関するいかなる基本的な情報も、人々に公開してきませんでした。

 私たちはこれまで、さまざまな質問をしてきました。原発から日常的に排出される放射性物質や温排水について、放射性廃棄物の量と処分方法について、必要となる真水について、温排水が私たちの海や海産物に与える影響について、廃炉にかかる費用や影響について、ロシア側がどのような責任を負うかなど。

 しかし彼らが、私たちの質問に対してまともな回答をしたことはありません。私たちはこうしたことによって深く傷つきました。

 私たちは、2011年3月に起きたフクシマ原発事故を目の当たりにしました。人々は、テレビで爆発の映像を見て、原発事故がどれほどの威力を持ち、恐ろしいまでの爪痕を社会に残すものであるかを知りました。

 それからまもなく、7月1日のこと。クダンクラム原発1号機で「ホットラン」と呼ばれる試運転の実験が行なわれました。そのとき、驚くほどの轟音があがり、煙がもうもうと噴き出しました。

 さらに、当局は地元の人々に対して避難訓練を呼びかけ、緊急時には命を守るために、「鼻と口を覆って走って逃げるように」という指示を与えました。

 こうしたことから、クダンクラムとイディンタカライ村の人々は、このままではたいへんなことになると心を決め、8月11日に自発的に街頭に出て抗議の声をあげました。

 そして私たちみんなで考えて、イディンタカライ村で8月16日に1日のハンストを、そして17日から19日にかけて、3日間にわたるハンストを敢行しました。

それから数日後、当局は2011年9月に1号機が臨界に達する予定であることを発表しました。
 
 そこで私たちは、9月11日から無期限ハンストに突入しました。9月13日、仲間の女性たちは国道を数時間にわたって封鎖しました。中央政府も州政府も、私たちを無視し続けたからです。

 州首相が9月21日に私たちと話し合いを持ち、次の日には州議会を通じて「地域の人々の恐怖と懸念が払しょくされるまで、すべての工事を中断することを中央政府に求める」決議をあげてくれました。私たちはその日、22日にハンストを終えました。

 しかし、10月9日から新たなハンストに突入します。マンモハン・シン首相との話し合いが決裂したからです。

 そして、10月13日から、私たちはクダンクラム原発の前で道路封鎖を行ないました。工事をしないように求める決議を州議会がしたにもかかわらず、原発関係者がそれを無視して工事を続けていたからです。

 ハンストと道路封鎖は、10月16日にいったん終わりました。17日には地元自治体で選挙があったので、人々は投票に行かなければならなかったからです。

 2011年10月18日から今日まで、私たちはリレーハンストを継続しています。今日で480日目です。

 大規模なデモ、村でのキャンペーン、市民集会、セミナー、会議なども次々と行ないました。そして、頭髪を剃って抗議の意思を表す、街頭で料理をして人々に訴える、原発の模型を燃やすなどの行動も行なってきました。こうした行動は2011年の9月から続いており、今も人々は非常に高い士気を持っています。

 自分たちの命と生活の権利を守ろうとする人々のこの古典的な闘いは、いかなる外国や機関の資金とも関係ありません。漁民たち、農民たち、労働者、女性たちが少しずつ自発的にお金を出し合って、このガンジーの方法によるシンプルな闘いを支えています。私たちが提供するのは、ハンスト参加者や来訪者のための飲み水だけです。タミルナドゥ州のあちこちから、そして州外から人々が来るときは、交通費はすべて自己負担です。
 
 人々の真摯な感情を理解して要求を受け入れる代わりに、中央政府と州政府は運動のリーダーたちに対して、治安妨害罪、国家に対して戦争を仕掛けた罪、等の重い罪名で攻撃をかけています。私たちには、350もの訴訟が起こされています。

 警察による嫌がらせ、諜報機関によるストーカー行為、原発推進派のメディアでのでっち上げ報道、家族への嫌がらせ、脅迫メール、死の恐怖、私たちの所有物に対する警察の黙認のもとでの破壊行為、そして私たちに対する襲撃などがあります。
 
 インドは民主国家だと言われますが、中央政府は多国籍企業の利益を最優先し、ロシアやフランスやアメリカなど強国を喜ばせることばかり考えています。インドの普通の市民の福祉は、彼らの優先順位のリストには載っていないようです。

 中央政府と連立与党は、諸外国と結んだ秘密の原子力協定を重要視しており、私たちのことは、破滅的な開発へと向かう彼らの道に転がった邪魔な石ころのようにしか思っていません。
最大野党であるヒンズー至上主義のバラティア・ジャナタ党(インド人民党)は、インドを核の超大国にしたいと考えているので、核に関するすべてを愛しています。

 これらの腐りきった公共勢力が、核に関しては手を取り合って、民衆を敵視しているなんて、とても皮肉なことです。

 2012年1月31日のことです。リーダーたちと15人の女性たちは、ティルネルヴェリで、議会から差し向けられたごろつきと、ヒンズー至上主義のファシストによって襲撃されました。中央政府の専門家チームとの会合に出席するため、会場に入ろうとしたときでした。

 タミルナドゥ州政府は、4人の委員からなる専門家パネルを設置しました。そこには、インド核エネルギー委員会のメンバーが入っていました。彼らから「秘密の文書」を受け取ったタミルナドゥ州のジャヤラリタ州首相は、2月29日に私たちをごく短時間のミーティングへ呼びました。

 そして、州議会の下院選挙の結果をひとつの民意とみて、3月18日、タミルナドゥ州政府は、クダンクラム原発に対する優柔不断な立場を一変させ、クダンクラム原発を推進し始めました。それによる影響はたいへんなもので、数百人の市民が逮捕されたり、それぞれの村で数千人が拘束されたりしました。

 それから何度も無期限ハンストやキャンペーンを行ないましたが、無関心で反人民的な中央政府および州政府に対して大きなインパクトを与えることはできませんでした。

 核エネルギー省がクダンクラム原発1号機に燃料棒を装荷しようとした2012年9月9日、私たちはクダンクラム原発を海の側から包囲しました。3万人が参加しました。

 翌10日、タミルナドゥ州警察は、丸腰の、非暴力で平和的なデモ参加者に対して、棍棒で襲いかかり、催涙ガスを発射し、発砲まで行ないました。その日、警察の攻撃によって、沿岸のマナパッド村でアンソニー・ジョンさんが亡くなりました。もう一人の仲間であるサハヤム・フランシスさんは、沿岸警備隊の偵察機の異様なまでの低空飛行によって海に転落して亡くなりました。

 10月8日、ティルネルヴェリ、カニャクマリ、トゥトゥクディからあつまった数万人の漁民が大小さまざまな船で結集して、海上封鎖を行ないました。私たちに共鳴する政治政党の力を借りて、10月29日には州議会を包囲する行動も行ないました。

 いまタミルナドゥ州政府は、いつでもどこでもお構いなしに停電を起こしています。原発がなければ安定した電力供給はできない、と強引に信じさせようとしているのです。中央政府は、タミルナドゥ州政府が行なおうとするさまざまな代替電力プロジェクトへの支援を拒んでいます。両者は、反原発運動に対する怒りや批判を巻き起こすために共謀しているのです。

 しかし、こうした邪悪な戦略は、すでに彼らに十分なしっぺ返しをもたらしています。タミルナドゥ州の多くの人々は、政府の姑息なやり方を見抜いています。そして私たちは、ケララ州からも、それ以外のインド各地からも、支持と連帯のメッセージを受け取っています。

 つまり、これはダビデとゴリアテの闘いなのです。普通の市民である私たちが闘いを挑んでいるのは、インドの裕福な資本主義者、多国籍企業、帝国主義的な勢力、そして原子力マフィアたちのバックアップを受けた強大なインド政府です。

 彼らは、海外直接投資、原子力、開発、原爆、安全保障、超大国の地位などを約束します。私たちは、リスクの少ない電力、健康が脅かされない暮らし、汚染のない天然資源、持続可能な開発、命を傷つけない未来を求めています。

 推進側の人々は「ロシアの原発は安全だから、地震にも津波にも耐えられる」と主張しています。推進側の人々は、科学者の友人たちや、ビジネスパートナーとしか話しませんし、コミッションやキックバックしか見ていません。しかし私たちは、子どもたちや孫たち、私たちの子孫、動物や鳥たち、私たちの大地、水、海、空気、空のために闘っています。

 どうかあなたの祈り、瞑想、思考、会話の中で、私たちのことを忘れずにいてください。インドの南端の地で何が起きているのか、注目し続けてください。

 タミルナドゥ州のジャヤラリタ州首相に対して、危険な原発の稼働を中止するよう手紙を書いてください。マンモハン・シン首相に対しても手紙を書いてください。世界中が「火力と原子力の次」に向かって進んでいるときに、全く反対の方向にインドを引きずりこもうとするのをやめるよう訴えてください。

 子どもたちとその後に続く世代のために、核も原発もない未来を実現することを目指して、私たちみんなで共に闘いましょう

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