ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.117より

インド・クダンクラム原発反対運動(6)

 ウダヤクマールさんからのメール、PMANE(People's Movement Against Nuclear Energy)の現地報告などから

● ウダヤクマールさんからのメール (7月22日) 

 私とプシュパラヤンがイディンタカライ村に自主亡命してから、昨日で125日が過ぎた。私は、海沿いのこの村から4ヶ月以上ほとんど出たことがない。プシュパラヤンと私は半径250mほどの範囲内で生活している。南の端はベンガル湾、北の端はセントルーデス病院である。ほとんどの日、私たち二人は教区の神父のバンガローから、セントルーデス教会のポーチで行われているリレーハンストの現場まで、数十mしか歩かない。

 逮捕されていた多くの仲間たちは、釈放されて普段の生活に戻っている。警察に追跡され嫌がらせを受けていたムヒランとサティシュも今では解放された。しかし私たち二人は今もここにいる。私とプシュパラヤンに出されている逮捕状の容疑は270件を超えており、治安妨害罪や「国家に対して戦争を仕掛けた罪」などの重罪も含まれている。

 もし私たちがイディンタカライ村を出れば、私たちは逮捕されるだろう。さらに、権力によって私たちの闘争がつぶされてしまうかもしれない。

 2012年3月、タミルナドゥ州政府がクダンクラム原発についての態度を一変させて以来、私たちは人々によって守られてきた。その多くは、女性たち、子どもたちであった。彼らは数千人規模で、私たち二人が寝泊りしているバンガローの周囲で眠る。村の若者たちは村のはずれで寝ずの番をしてくれている。女性たちもバンガローの回りで常にパトロールをしてくれている。安全確保のためのこの仕事に、クダンクラムなど周辺の村々からも人々が訪れてくれる。

 この村の正直で勤勉な男性たち、女性たち、そして子どもたちの自発的な愛と思いやりは、どんな名誉や地位や肩書きよりも、ありがたく心打たれるものである。

 もちろん私もプシュパラヤンも家族に会いたいと願っている。早く家に帰り、以前のような素朴な生活に戻りたいと感じている。しかしここには、タミル人やそのほかのインド人の幸せのために闘っている何千という家族がいる。

 自然環境や生活や人々の未来を守るために多大な犠牲を払って闘い続ける人々のリーダーとなれたことは、この上ない幸せである。

 「普通の市民」がタミルナドゥとインドのために類まれな歴史を刻むであろうことを私は心から信じている。



● クダンクラム周辺の立ち入り禁止区域が半径7kmに拡大される
                                  (NDTVニュース 8月11日)

 「反社会的集団や反原発グループが、クダンクラム原発周辺に集まって平穏を乱す可能性がある」として、当局は立ち入り禁止区域を半径2kmから7kmへと拡大した。

 8月10日、原子力規制委員会は、インド原子力公社との最終的な検討会をムンバイで行い、1号機への燃料棒装荷にゴーサインを出した。1号機の運転開始は昨年12月の予定であったが、激しい反対運動の中で延期となっていた。

 クダンクラム原発を抱えるティルネルヴェリの地方長官事務所は、「反社会的集団や反原発活動家や暴徒が、原発周辺に集まり、騒ぎを起こして周辺の平穏を乱すという情報を得た」との声明を発表し、立ち入り禁止区域を半径2kmから7kmへと拡大することを決定した。 

 PMANEは、「燃料棒装荷が発表されてから、タミルナドゥ州政府は、クダンクラムとその周辺で警官の数を劇的に増加させている」と指摘している。

 多数の警官や警察車両がタミルナドゥ州のあちこちに「注ぎ込まれて」おり、立ち入り禁止令によって、その地域の人々の移動の自由が制限されるとともに、市民的な自由が脅かされている。

● クダンクラムの女性たちの闘いに支援を

                      ラリタ・ラムダス  (DiaNuke 8月12日)

 ここ数年間、私はクダンクラムを訪問し続けているが、現地を訪れるたびに、クダンクラム原発に対する闘いを土台から支えている女性たちの驚くべきパワーと奥深さに驚嘆させられる。

 平和的かつ非暴力の闘いがこれほどの長期間にわたって続けられていることは、近年世界的に見ても例のないことであり、だからこそこの闘いはもっと人々の注目と支援を集めるに値するものだと私は確信している。

 クダンクラムで起きていることは、人々の叫びが存在しないもののように扱われて無視され、民主的な自由が踏みにじられるという事例の縮図のようなものである。
 1号機への燃料棒装荷が、マドラス高等裁判所の裁定を待たずに強行されるとしたら、それは危険であるだけでなく、あらゆる規範の崩壊をも意味する。


                               2012年8月15日

● PMANEの反対運動が1周年を迎える
                               (DiaNuke 8月16日)

 PMANEによるクダンクラム原発反対運動が、8月16日で1周年を迎えた。リーダーらは、この原発プロジェクトが中止されるまでこの闘いは続くと語った。

 地域の住民や漁民、女性らからなるこの運動は、クダンクラム原発の安全性への懸念を表明し、昨年8月から続けられ、同年12月に予定されていた1号機の運転開始を押しとどめてきた。

 「私たちは、原子力エネルギーは危険以外の何ものをももたらさないと強く信じている。私たちの命が危機にさらされているのだということをこれまでずっと訴えてきた」とウダヤクマール氏は述べた。

 原子力規制委員会はつい最近になって、インド原子力公社に対して、100万kWの1号機への燃料棒装荷の許可を与えてしまった。インド原子力公社は、「1号機の工事は99%以上完了しており、今月には商業運転を見込んでいる」と語った。

● PMANEからタミルナドゥ州首相への書簡 (8月20日)

 私たちは、クダンクラム原発に反対する運動をまる一年続けてきました。そろそろ、あなたとも改めて対話を始めることができたらと願っています。

 ご存知のように、インド政府と核エネルギー省は、クダンクラム原発に関して、基本的な情報をまったく公開していません。中央情報委員会(CIC)が指導を行った後も、環境影響評価報告書や安全性分析報告書を公開していません。淡水の供給量が少ないこと、原子炉圧力容器の設計変更、液体および固体の放射性廃棄物についてなど、私たちが提起した意見や懸念について、彼らは全く無視しています。

 またインド政府は、クダンクラム原発の1号機および2号機に関して、ロシア政府やロシア企業から損害賠償の確約を得ていません。インド政府は、2008年にロシアと秘密裏に締結した「政府間合意」についても公開を拒んでいます。私たちは1号機と2号機に関して問題提起をしているのに、予定地周辺の人々やタミルナドゥ州の人々の思いを無視して、インド政府は3号機と4号機の建設に関する合意を公表する始末です。

 マドラスの高等裁判所で、クダンクラム原発に反対するいくつもの申し立てが審理されている途中であるというのに、原子力規制委員会は1号機への燃料棒装荷に許可を出しました。高等裁判所は、こうした原子力規制委員会と一部の大臣たちの態度と行いを非難しています。民衆がないがしろにされているだけでなく、司法さえもがこのように侮蔑的な扱いを受けているのを見ることは、あまりにも心が痛むものです。

 タミルナドゥ州公害規制委員会は、汚水をはじめ淡水化プラントや蒸気発生装置などから出される排水、固形の廃棄物などさまざまな廃棄物を海洋投棄することを認めています。化学物質や放射性物質も大気中に放出されます。海、海産物、穀物、乳製品、食べ物、健康、私たちと私たちの子どもと孫たちの幸せが脅かされることなど、誰も気にしていないようです。

 あなたが中央政府に対して、クダンクラム原発で発電する電力をすべてタミルナドゥ州で消費できるよう要請したことを、私たちは知っています。あなたが、3月と4月にも首相宛に書簡で要請したことも知っています。しかし、中央政府は全く何の返事もよこさない。これが、インドの一州の首相に対する扱いでしょうか。州の首相がこれだけないがしろにされるのだから、政府の人々がタミルナドゥ州の最貧層の人々に対して、どれほど無関心であるかは想像に難くありません。デリーのエリートたちには、タミルナドゥ州の漁民や女性やすべてのタミル人が、全く価値のないものと見えているに違いありません。

 私たちは心から、あなたがクダンクラム原発を断念して、人々に優しく、自然にも優しいプロジェクトへと転換することを願っています。タミルナドゥ州全体に太陽光発電の政策を掲げてプロジェクトを開始し、送電と配電の問題を解決し、タミル人の利益を守り、そして、先見の明に満ちたリーダーシップと人々への共感に満ちた開発という素晴らしい遺産を残してほしいのです。


                              2012年8月15日
****************************************************************

ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.117もくじ

                        (12年8月20日発行)B5版20ページ

● 危機的な状況に瀕したモンゴルを訪れて(崔勝久)               

● 2012年夏、モンゴルの核廃棄物処分場候補地マルダイに行ってきました
                                         (今岡良子)
● 台湾の原発は今(ダン・ギンリン)                  
    
● 韓国原発事故シミュレーション発表と反響(朴勝俊)  
            
● インド・クダンクラム原発反対運動(6) 

****************************************************************
年6回発行です。購読料(年2000円)
見本誌を無料で送ります。 事務局へ連絡 sdaisuke?rice.ocn.ne.jp
                    「?を@に変えてください」
****************************************************************
[目次へもどる]