ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.116より

インド・クダンクラム原発反対運動(5)

 ウダヤクマールさんからのメール、PMANE(People's Movement Against Nuclear Energy)の現地報告より

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 ウダヤクマールさん夫妻が運営する学校が3月に襲撃されたが、犯人は逮捕されていない。夫妻が州首相に対して送った書簡(4月30日付)より抜粋。


 私たちは、ナガルコイル郊外で学校を運営しています。自分たちの土地に、自分たちの資金で校舎を建てて学校を運営してきました。貧しい子どもたちを受け入れるための学校ですから、親から寄付金をもらったこともありませんし、この学校は金もうけのためではなく教育運動として運営しています。

 しかし、私たちの一人がクダンクラム原発反対運動に関わっていることから、地元のごろつきや反社会的勢力によって、私たちの学校が3月1〜2日と、19〜20日にかけて、二度にわたって襲撃されました。

 校舎の壁は完全に打ち崩され、学校の車は潰され、数えきれないほどの家具が破壊され、水道管も叩き割られ、コンピューターは盗まれました。そして最も悲しいことには、学校図書館が完全に廃墟と化してしまいました。ここは、設立当初から地元で貧困の中にあった学習者たちが心のよりどころとして学んできた場所でした。

 教育の意義を理解できない反民衆的な輩によって破壊されたのです。その反社会的勢力は、いま私たちを脅し続けています。

 私たちはすでにこの事件について、地元の警察に届け出をしましたが、逮捕された者はおろか、取り調べを受けた者すらいません。州首相と州政府が、犯罪者を野放しにし、私たちや私たちの生徒たち、教師たち、そして地域のコミュニティを懲らしめるのを平気で見ているようなことがないよう願います。

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5月2日 

 
 PMANEは、5月1日から第4次無期限ハンストをイディンタカライにおいて開始した。

 私たちは、現在行われているクダンクラム原発の工事を即時停止すること、中央情報委員会(CIC)による核エネルギー省(DAE)とインド原子力公社(NPCIL)への指導に従って安全分析報告と立地評価報告を公開すること、包括的な環境影響評価を行いそれをタミル語とマラヤラム語に翻訳して地元の人々とメディアに告知すること、など11項目を要求する。

 この無期限ハンストは5月4日から、近隣の村から数百人の女性たちが加わって拡大、強化される予定である。私たちは政府関係者との対話を歓迎する。しかし、その場合は、具体的な行動計画やそれが遂行される明確な時期を書面に残すことを要求する。

5月5日 「イディンタカライSOS」
 
 ハンストは5日目に入った。現在では35人の男性と302人の女性がハンスト中である。もっとずっと多くの女性たちがハンスト参加を希望しているのだが、スペースや寝台やトイレといったロジスティックスの問題ですべての希望者を受け入れることができずにいる。

 多くの参加者が体調を崩し、頭痛や脱水症状や貧血などに耐えている。私たちは地元の首長に依頼しているが、医療チームはまだ来ていない。

 人々はこの9ヶ月間、実に忍耐強く平和的に、非暴力で闘ってきた。人々は誰かを傷つけたりしていないし、公共物や個人の所有物を破壊した者もいない。しかし政府側は私たちに対して、「決して暴力的な運動をしないように」と警告している。世界中が、私たちの9か月の闘いが平和的なものであることを知っているにもかかわらずである。



5月6日 

 302人の女性たちの具合が悪くなってきており、ソーサイさん(55)、マンジュラさん(33)、サハヤムさん(45)、ジャクリーンさん(42)、パシリさん(36)、バマさん(40)が近隣の病院に搬送された。

 昨夜、地元政府の医療チームがやっと到着した。医師2人と看護師3人である。ハンスト参加者が多数いるのに、ごく小さなチームで来たため、最も体調の悪い人々しか健康チェックを受けることができなかった。到着が遅れた理由は、車の故障だと彼らは説明した。しかも、二つの血圧計のうち片方が壊れていた。こんなことで、原発事故に対応できるはずがないだろう。

 タミルナドゥ州では、風力発電設備が充実しつつあるので、電力供給量が増加している。停電も劇的に減った。風力発電の発電量は一日当たり250万kWである。風力発電企業は、さらに105万kWの発電が可能だとしている。しかしタミルナドゥ州の電力委員会は、それらの企業に対して発電量を減らすよう要請していることが報じられている。

5月7日 

 午後3時、闘争委員会と地域の長老たち、女性や若者たちがセントルーデス教会に近い会議場に集まって、これからの闘いについて話し合った。

 長い議論の末に、私たちは5月8日に投票カードを返納することを決めた。これは、インド政府およびタミルナドゥ州政府のふざけた態度に抗議の意を表明するためである。彼らがハンスト参加者の暮らしや幸福に興味がないというのであれば、私たちはそのような自己中心的で反民衆的な主流の政治家や政党に投票する気はない。私たちは、投票カードを地方行政窓口に返納するつもりだ。

 政府へ抗議の意思を表明し、私たちの闘いに連帯するため、タミルナドゥ州をはじめとするインドの仲間たちにも投票カードの返納を呼びかけたい。海外在住でも、インド大使館への返納が可能である。

 女性のハンスト参加者の健康は、日一日と悪化している。医師3名、看護師5名からなる医療チームが健康チェックに来たが、ハンスト参加者は衰弱する一方であり、人々はたいへん不安を募らせている。しかし政府はそんなことには関心がないようだ。彼らが気にかけているのは、ロシアやアメリカやフランスの核企業の利益であると見える。

5月9日 

 8日に今後の闘争に関するミーティングを行った直後に、この地域で夜間外出禁止令が出された。数千人の武装警官が、即座にクダンクラムの内外に投入された。

 信頼できる筋から、当局が今夜にも総攻撃をかけて反対派住民を制圧し、全員を逮捕する可能性があるとの情報がもたらされた。夜明け前にそのような行動が行われれば、たぶん流血の惨事となる。イディンタカライの教会周辺には、いくつもの村から集まってきた数千人の老若男女が寝泊まりしているのだから。

 投票カードの返納は、すでに24000枚に達した。

 タミルナドゥ州の警察は人々に対する嫌がらせを続けている。反対する人々の写真を撮ったり、車のナンバーを記録したり、人々を口汚くののしって脅したりしている。3月19日に外出禁止令が出された時には、政府は地元自治体に対して巨額のわいろを提示してコミュニティを分断したり、教会に人が近づけなくすることでメディアを黙らせ人々を孤立させたりした。平和的な抗議行動を、インド政府はまるで危険な過激分子のように扱っている。

 ハンスト参加者は日に日に弱っているが、絶対にあきらめないと言っている。州政府はそれに対して、強硬策に出てわれわれを蹴散らすつもりらしい。

5月10日 PMANE「プレスリリース」

 PMANEは、イディンタカライにおいて本日開催を予定していた抗議集会を中止する。理由は、地元当局がクダンクラム内外での集会を禁止する旨の発表をしたからである。市民が集会を開く権利は侵害されるべきではなく、この基本的な権利は保障されなければならない。しかし、最近の現地の事情にかんがみて、今回はすべての参加者に対して、それぞれの居住する地域の教会や寺院において祈りと断食の集会を組織してもらえるよう希望する。

 ハンスト参加者は、ますます容体が悪くなっている。われわれの申し入れに応じて地元の医療チームが5月5日と7日に来訪した以外、政府としてはハンスト参加者の健康を懸念する動きはない。ハンスト参加者の健康を守っているのはボランティアチームであり、ハンストの状況を克明に記録しているのは地元記者チームである。ハンスト参加者に何かあれば、それは中央政府と州政府の責任であることを証明するために、私たちはここで事実を記録し続ける。
 
5月15日 

 PMANEは、幾人かの信頼できる仲介者からの申し出を受け入れ、このたびの無期限ハンストを終結することを決定した。

 私たちが5月10日に近隣の人々に呼びかけて大規模な集会を組織していたところ、クダンクラム原発を中心にした半径7キロ以内での集会禁止令が発せられた。今年の3月に起きたように、集まった人々が逮捕されたり嫌がらせを受けたりする可能性が高いことから、私たちは人々に対してクダンクラムに来るのをやめてそれぞれの地域で祈りと断食の時を持ってほしいと伝えた。

 倒れたハンスト参加者を病院に搬送するための政府からの支援が受けられないため、私たちはハンストの規模縮小を決定した。そして、ハンストはリレーハンストに切り替えられて継続されることになった。

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「クダンクラム原発への大規模な反対運動、投票カード返納運動が開始」
                                  (Newzfirst 5月8日付)
 
 クダンクラム原発に反対する人々の署名運動と、投票カード返納運動が、クダンクラム周辺の60の村で大々的に開始されることになった。

 この運動の趣旨を、反対運動リーダーのプシュパラヤンは次のように説明した。

 「今日、二種類のインド人がいる。金持ちで権力があり、その人生が重要で価値があるとみなされるインド人と、貧乏でなんの力もなく、その人生が無価値で使い捨て可能とみなされるインド人である。薄汚れた普通のインド人たちは、神聖かつ特筆すべきインド人たちのためにその生活を犠牲にすることを強いられている」

 「われわれは政府に対して、われわれが単なる投票マシーンではないことを思い知らせてやりたい。貧しく力のない人々も、尊厳のある人生や権利を享受するに値する。政府がクダンクラム地域の人々の要求に真摯に応答するまで、われわれは投票カードを自発的に返納する」

 本日だけでイディンタカライやトマイヤプラム、クッタプリなどで2万人分の投票カードが集められた。これらのカードは、それぞれの地方行政窓口へ返納されることになっている。それらの地域で同時に集められた署名運動は、すでに3万筆に達している。



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「クダンクラムの反対闘争に敬意を表する。現地を訪問したい」
 アルーナ・ロイさんインタビュー
  (First Post India 6月4日付)より抜粋

*アルーナ・ロイさんは、インド労働者と農民のエンパワメント協会(MKSS)創始者で著名な社会活動家。情報を得る権利を勝ち取る運動のリーダーとして最もよく知られており、2005年の情報公開法実現の立役者である。2000年にマグサイサイ賞受賞。2005年にはノーベル平和賞の女性候補1000人の中に選ばれた。

 私が許せないのは、クダンクラム原発に関して不安を訴える人々の声を政府が無視し続けていること、抗議する人々を黙らせるために場当たり的な弾圧が行われていることです。

 政府は断固として原発を稼働させる決意ですが、同じくらい強固な決意で、住民たちはクダンクラム原発に反対しています。民主的な国家においては、住民たちの声を無視したり抑圧したりすることはできません。

  ハンスト、座り込み、投票カード返納運動、その他のいろいろなクリエイティブな非暴力かつ民主的な運動がクダンクラムにおいて行われてきました。これらはきちんと認められるべきですし、そこで出された問いに対して政府は答えなければなりません。
 クダンクラム原発反対運動は、外国の運動団体に操られていると長らく中傷されてきました。政府は、いわゆる外国とのコネクションを阻害するためにありとあらゆる方策をとってきました。しかし、運動は潰えていません。

 忘れてはならないのは、外部から運動を作り上げたり維持したりすることはできないということ、いかなる運動も地元住民の意思がないところで成功するわけがないということです。

 私は、必ず現地を訪問したいと思います。人々に会って、彼らの話をまず聞きたいと思います。最も被害を受ける人々のことばを聞かないなら、いかなる変化も起こせないと思います。

 民主的で平和的な彼らの運動に敬意の念を持っています。この国がもつ市民的な不服従の伝統をさらに強化するものだと思います。

 権力を手にして狂気に陥った世界において、意見の異なる人々が存在できる場所を確保するために切り開き、くさびを打ち込んでいくことは、極めて重要です。それを実現できるのは、最も貧しく持たざる人々なのではないでしょうか。

 闘争における合理的な主張は、受け入れられなければなりません。もしも、インドが自分自身を民主国家だというのなら。

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ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.116もくじ

                        (12年6月20日発行)B5版28ページ

●世界各地で日本の原発再稼働に抗議

●インド・クダンクラム原発反対運動(5) 
               
●燃え上がるインドの反原発運動 ― 原発輸出反対は私たちの責務 ―
                                       (福永正明)

●インドネシア・マドゥラ島における原発建設計画と反原発運動
                                (ムトマインナ・ムニル)

●「チェルノブイリの悲劇から26年」アクション報告 (AM2PN) 
        
●原発輸出に対するベトナム人有志から日本政府宛抗議文の
                             取り扱いについて(要請)

●ウィキペディアについてのおしらせ (とーち)

●ヨルダン議会、原発事業一時停止を議決 安全性など懸念
 
●「国際共同声明にご協力ありがとうございました」
― クダンクラム原発に反対する人々への弾圧に対する抗議声明 ― 

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