ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.106より

非核亜洲論壇2010 (第13回 NNAF) ダイジェスト

                                  末田一秀



■ 国際フォーラム 地震の議論

1999年9月21日、台湾はマグニチュード7.6の大地震に襲われている。第四原
発の運転開始を目前にして、この日付にあわせてフォーラムは設定された。そ
こで、第1テーマは「地震が原発に与える影響」であった。

陳文山台湾大学教授の台湾の活断層に関する報告に続く、地質学者の塩坂
邦雄さんの報告が興味深かった。塩坂さんは、今回フォーラムに先立って3日
間、第四原発近辺の地質調査を行い、第四原発の直前の海岸や敷地内で新
たに断層を発見し、この日の新聞「自由時報」などでも大きく報道されていた。
断層の影響で防波堤に亀裂が入り、変形している写真は素人目にも分かりや
すい。

塩坂さんの報告では、台湾電力に断層を質問してもその存在を最初は認めな
かったが、調査結果で迫ると「活断層ではない」と言い逃れし、それ以上は沈
黙するだけだったという。

また、塩坂さんは元東大地震研の恒石幸正氏とともに、東海大地震を予知す
るべく富士川断層を1時間に一度レーザーを使って、距離を測定するという観
測を長年行っている。共同研究者の恒石氏は大漢工商専科学校の許華紀氏
と、台湾東部の花東断層ついても同じシステムで3日に一度測定し、地震の前
兆である数ミリの圧縮を何度も検出しているという。

塩坂さんは、「活断層でなくても断層のあるところは震度階が1〜1.5倍くらいに
なる。断層をはさんで固有振動も違う」と、第四原発の地盤について警鐘を鳴ら
した。

続いて佐藤大介氏が、矢部忠夫柏崎市議から預かったレポートを報告した。中
越沖地震で被災した柏崎刈羽原発の写真は初めて見る者には衝撃であろう。
また、佐藤氏は第四原発と同じABWRである東電の東通原発は当初設計から
原子炉建屋の床面積を倍増する変更が行われており、床面積が狭いままなの
は柏崎刈羽の2炉と第四原発だけであることを指摘。旧設計の問題が何かの
解明が必要と訴えた。

■ 国際フォーラム 温暖化の議論
 
続いて第2テーマ「気候変動と原発」。プレゼンは、徐光蓉台湾大学教授、私、
趙家緯(緑色公民行動連盟)の3名。

私のプレゼンでは、温暖化対策推進法にもとづいて原発からの温室効果ガス
排出量データを開示請求し解析した結果を報告。発電時にCO2を出さないとい
うPRがウソであることを論証した(詳しくはHP「環境と原子力の話」(末田一秀
で検索))。

台湾の二人のプレゼンも原発が温暖化対策にならないと説明するもので私と
同趣旨であったが、正直に感想を言うと、これまでに聞いたことのある一般論
といった印象であった。

各セッションではプレゼン終了後に短い時間ながら質問と討論の時間が設け
られていた。私にも「台湾のノーベル賞受賞者が原発は必要と主張しているが
どう思うか」という質問が飛んできたが、同通の英語では質問の趣旨をすぐに
理解できずに迷惑をかけた。

■ 国際フォーラム 各国の原子力の状況
 
午後のセッションでは、各国の原子力と反原発運動の状況が報告された。

高成炎台湾大学教授は、原住民族基本法に違反して蘭嶼島に貯蔵されてい
る低レベル廃棄物の問題や、目前に運転開始が迫っている第四原発に反対
する住民投票の請願運動について語った。

原子力資料情報室の伴英幸さんは、54基の原発が動く日本であるが、立地
を許したのは1970年ごろまでに計画が明らかになった地点であり、その後は
阻止をしているところが多いことを強調した。

韓国エネルギー正義行動代表のイ・ホンソク(李憲錫)さんは、李明博政権が
低炭素成長政策として原発による電力供給を現状の36%から2030年に59%
にまで上げようとしていることや、計80基の原発輸出をめざし、アラブ首長国
連邦への輸出契約締結時には全テレビ番組が祝賀の特別番組に切り替わ
ったと報告した。また、韓国の乾式再処理導入の構想は核拡散につながる
と訴え、2012年にソウルで核安保サミットがあるので、同じ年にNNAFを韓国
でやろうとの提案で締めくくった。

フィリピンのミッツィー・チャンさん(非核バターン運動)は、1986年に完成後
一度も稼動することなく廃止されたバターン原発の再生が昨年提案されたこ
とや、13地点で新設の可能性調査が行われていること、すでにフィリピン人
技術者が原発運転の研修に参加していることを報告した。このような動きに
対し、大規模なデモ、ピースサイクルやコンサートなど様々な方法で反対キャ
ンペーンが再開されているという。

インドネシア反核市民連合のアディ・ヌグロホさんは、インドネシアが災害のデ
パートであること、地熱のポテンシャルが高いことなどを語った。政府はムリア
原発計画をまだあきらめていないとのことだ。

タイ・核監視ニュースレターのワスカン・チムスクさんは、タイの原発計画は2010
年までが国民同意、2013年までが準備、2014年からが建設の期間とされ、
2030年までに5基500万kWが狙われていると報告した。立地可能性調査は17
か所で行われているという。

■ 国際フォーラム 再生可能エネルギーと、共同声明
 
最後のセッションのテーマは「再生可能エネルギー」で、呉明全さん(新エネル
ギー技術社)が、台湾ではバイオマス、風力、太陽光発電などに可能性がある
と報告。黄林輝さん(台湾新エネルギー産業促進協会)は、水素エネルギーの
未来を熱く語った。いずれもエネルギー供給の観点からの報告で、普及に向け
ての市民の動きなどは論じられず、NGOの会議としてはいかがなものかと感じ
たが、議論を吹っかけることは控えた。1日でこれだけのテーマを議論することは、
時間的にも(同通の英語を集中して聞いているので)体力的にも無理がある。

予定では初日のフォーラムはこれで終りのはずだったが、台風が翌日に台湾を
直撃する天気予報を受けて、2日目の予定は全てキャンセル。そのため、ここか
ら共同声明を採択するための討論に入った。台湾側の用意した原案に対し、
韓日の原発輸出に反対する項目を補強する意見などを、その場で書き加えたり、
修正したりする作業を経て共同声明は採択された。

その後、台湾の主催者が用意してくれた歓迎会が会議場のある建物の1階に
ある大学のレストラン貸切で開かれた。

■ 台風の雨の中、第四原発へ
 
台風のため全ての予定がキャンセルされた9月19日、横なぐりの雨では出かけ
るわけにも行かず、海外からの参加者は台湾師範大学のゲストハウスで午前
中を思い思いに過ごした。届けられた昼食を食べ、翌日以降の予定を心配して
いたところ、朗報が届く。風が弱まってきたので、2時半から第四原発の視察に
向かうとのこと。

マイクロバスに乗り込み、まず向かったのは第二原発。海岸沿いの道のすぐそ
ばに2つのドームが建つ。降り続く雨の中、放流口の近くにバスを止め、ごうごう
と流れる排水を見に降り立った。駐車場には、現在位置と防災計画の緊急対策
エリアや避難場所を示した地図が大きく描かれた看板が立っていた。

骨の曲がった魚がたくさん獲れることを告発した地元の范正堂さんが、重い病気
とのことで、お見舞いに立ち寄った後に、バスは第四原発へ。

到着した頃には、あたりは薄暗く、天候の問題もあって、車外へ出て撮影をする
のがやっと。多くを見てまわるわけにはいかなかったが、高い煙突や白く大きな
建屋など外観上は工事の完成が近いことが分かる。

近くの「龍蝦大王」というお店で夕食を頂く。塩寮反核自救会の呉文通さんが駆け
つけてくれた。食事中、とーち氏が突然持参のギターを手に歌を披露。曲名は
「私が第四原発だ」。難解な?歌詞を中国語ができる参加者の荒井さんが訳すが
なかなか伝わらない。結局、「便利な生活」⇒「エネルギー消費大」⇒「核四」との
大雑把な意味を漢字で示すと、呉さんも納得。

呉さんからは「決してあきらめない心を持ち続けるかどうかで、運転を許すかどう
かが決まる」との重いあいさつを聞いた。

■ 新北市市長候補への要請行動
 
20日は天気も回復し、当初予定のスケジュールに戻ることができた。午前中は、
11月27日に予定されている新北市市長選挙の候補者に、第四原発の運転をめ
ぐる住民投票の請願に同意するよう求める要請行動だ。

第四原発が建設されている貢寮郷は台北県に属している。台北県は台北市を除
く北部のエリアで、自治体の格では台北市に劣る。ところが、制度改革により、同
じエリアながら市に昇格し、名前も新北市に変るのだ。その初代市長を決める選
挙が近づいている。

まずは、これまで原発を推進してきた国民党の朱立倫候補の事務所へ。応対し
たスポークスマンは「第四原発の地域住民には防災の充実を約束している。
原子力政策の是非は、中央政府の問題だ」とそつなく逃げを打つ。

一方、民進党の女性候補、蔡英文事務所でも候補の代理人が「脱原発は建党
時の綱領の一つ。政権をとった時に中止できなかったのは残念だが、綱領は
変っていない」と述べつつ、「運転許可は中央政府で、できることは限られる」と
予防線を張っていた。それでもこの代理人は、請願に同意する署名をその場で
記入した。

■ 第三原発現地へ

台風で増水した川や一部で冠水した道路などを車窓から眺めながら台湾新幹線
で高雄へ移動し、その後バスに乗り換えて2時間ほど走り、恒春の第三原発へ。
サーフィンが行なわれている台湾最南端の海辺のリゾート地に第三原発は建っ
ていた。観光客数が人口よりも多く、防災計画で対応できるか問題だと話されて
いたことが実感される。浜辺から原発を見るとその奥に風車が回っているのも皮
肉だ。原発の送電網を利用しているのだろう。

町の中心から車で15分ほど離れた海沿いのコテージが宿泊地で、到着すると前
には「台湾国臨時政府」と書かれた車が停まっていた。台湾南部は、民進党支
持で独立志向が強いことがよくわかる。約30人ほど待っていてくれた住民の方々
の組織名も、台湾独立建国連盟。地元の方々と各国代表がスピーチをした後、
一緒に地元の料理を頂いた。



食後、恒春の街を少し観光し、戻ってからは部屋で韓国、インドネシアの代表と
ともに紹興酒で小宴会。活動の裏話のような話を交換し、お互いの信頼関係が
できることがNNAFの意味あるところであろう。飲んでいる席にもかかわらず(飲
んでいる席だからこそ)とーち氏が「NNAFのコンセプトは、団体代表ではなく、
運動の地元へ足を運び、直接住民と交流すること。今回は少し物足りない」と、
まっとうな意見を述べる。

外では台北の環境保護連盟のメンバーと南部の活動家も遅くまで話しこんでい
た。佐藤氏が「海外ゲストを出しに、国内各地のメンバーの議論が進むことも、
NNAFの意義だ」と話す。最後の夜は、有意義に更けていった。(ここまで、末田記)

● 立法院「非核家園」公聴会

最終日は台北にもどり、2時から5時まで立法院(国会)で公聴会。台湾電力や原
子力委員会からも多数が参加。やはり中心は、地震と原発の危険性についての
議論。

高成炎氏と佐藤は、第三者機関による第四原発地質再調査の必要を訴えた。

また、台湾電力が「第四原発の耐震基準の400ガルは、日本での800ガルに相当
する」などと述べたが、伴英幸さんがこの説明をトリックだと指摘し、説明を行った。

台風で中止になった2日目のセッションの発言予定者だった楊木火さん(貢寮住民)
が「制御室火災など第四原発の複数の事故の調査報告書を公表せよ」と叫んでい
たのが印象的だった。 (この項、佐藤記)

● 来年はタイでNNAF開催

タイ政府は来年上半期に、原発建設候補地を、現在の17か所から3か所に絞り
込む予定とのこと。

そのため、来年夏にNNAFを「3か所」の住民たちとともに開催したいと、タイから
提案があった。もちろん皆が賛成、決定した。

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NO NUKES ASIA FORUM 2010 共同声明

 チェルノブイリ事故から24年、被災者とその家族は今もなお、その衝撃
と放射能汚染に苦しんでいる。アジアの人々は原子力災害と放射能汚染
の不安にさらされ続けている。政治的、経済的な権力と現地でたたかって
きたアジアの人々は、アジアの国々が反核運動のために情報を共有し協
力することが重要であることを理解している。その結果、ノーニュークス・ア
ジアフォーラム(NNAF)は当初1993年に日本で開催された。以来17年、原
発の脅威をとめるという使命は現在まで成し遂げられていない。

アメリカ、ロシア、フランス、日本、韓国、中国などの国々に本部が置かれ
ている多国籍企業の貪欲さが、原発の拡大に拍車をかけている。彼らは
現在のところ主にインド、インドネシア、マレーシア、パキスタン、フィリピン、
シンガポール、台湾、タイ、ベトナムなどのアジア市場を狙っており、核戦争
と原子力災害の脅威を広げ続けている。

先ごろ日本で柏崎刈羽原発と浜岡原発が地震による損傷を受け停止した
ことは、原発の危険性をいっそう明確に証明した。

NNAF 2010には、日本、韓国、フィリピン、タイ、インドネシア、そして台湾
から集まった。私たちは4日間の国際会議と活動を行い、私たちの間の十
分な信頼と連帯意識を高めた。

私たちはこの17年間、アジアの反核運動に参加し進めてきたことを誇りに
思う。私たちは、「核のないアジア」という使命に、仲間たちと力を合わせて
努力していく活力にみなぎっている。

私たちの主張

1. 私たちは持続可能なエネルギー政策を支持する。私たちは各国の政府
に対して、省エネルギー、エネルギー効率の増進、再生可能エネルギー開
発の推進を呼びかける。
 私たちは持続可能でない原発に反対する。

2. 地震は2007年7月、日本にある世界で最も大規模な原発である柏崎
刈羽原発に被害を与え、放射能漏れを引き起こした。私たちは各国政府
に対して、既存する原発の耐震強化を求める。また、台湾政府に対して、
できる限り早急に断層のある地域に位置する全ての原発の運転を止める
よう要求する。

3. 第四原発の不適切な工事と誤った管理のため、最近多くの事故が起
こっている。さらに、台湾の呉敦義首相は台湾電力に第四原発の商業運
転の日程をくり上げるよう強いている。これらのことは、災害の恐れと人々
を甚大な危険にさらす恐れを増大させるものである。私たちは台湾政府の
無責任性を強く非難する。第四原発の核燃料を装荷しての試験は公民投
票を行う前に始められるべきではない。

4. 気候変動は、激しい雨による大規模な洪水、地すべりを引き起こす極端
な気象状況を誘発する。各国政府は気象災害による原発の崩壊の深刻な
リスクを防ぐよう対処すべきである。また、原子力はクリーンエネルギーでは
なく、気候変動の解決にはならない。莫大な量の化石燃料が原子力を生み
出す全ての過程で消費され、放射性廃棄物は人々の健康に大きな危険を
もたらす。

5. 原発は人々の生命と資産を脅かすものである。また、不適切な原発政
策は人権侵害を生み出している。私たちは各国政府に対して、市民が自ら
決定する権利を保障することを要望する。私たちは、公民投票法の改正と、
第四原発について公民投票を実施するよう呼びかける台湾の人々の行動
と連帯する。

6. 私たちは、第四原発の工事を続け既存の原子炉の運転年限を引き延
ばしながら、エネルギーを大量消費し、環境を汚染し、二酸化炭素を放出
する産業(例:國光石油化学プラント計画)を拡張するという台湾政府の決
定に強く反対する。

7. 蘭嶼島で放射性廃棄物の保管を続けることは原住民族の達悟族の
人々の生命と環境に多大なリスクをもたらすものである。私たちは他の
地域における生活と環境のリスクを増加させることなく、この問題に対す
る最速で賢明な解決策を追求するよう台湾政府に求める。

8. 私たちはアジアの国々の政府に対して、開かれた、透明性のある、そ
して民主的なエネルギー政策決定のしくみを構築するよう訴える。

9.  私たちはアジアの人々に、原発の輸出入を止めるために協力すること
を呼びかける。原発の輸出および輸入は、アジア各国において事故リスク
や廃棄物の問題、そして核兵器の拡散を増長するものである。また、開発
途上国に対して経済的な重圧と負債を負わせるリスクを引き起こすものである。

ノーニュークス・アジアフォーラム2010 参加者一同
2010年9月18〜21日  台湾、台北にて   
※以下は署名

各国参加者(台湾以外)
フィリピン:ミッツィー・チャン(非核バタアン運動)
インドネシア:アディ・ヌグロホ(インドネシア反核市民連合)
タイ:ワスカン・チムスク(AEPS:持続可能エネルギー・プロジェクト)
韓国:イ・ホンソク(エネルギー正義行動)、キム・ボンニョ(反核国民行動)
日本:塩坂邦雄(地質学者)、末田一秀(反原発新聞編集委員)、村上正子(高木基金)、
伴英幸(原子力資料情報室)、前川武志(みどりの未来・関西)、
永井望(原子力資料情報室)、安藤丈将(オーストラリア国立大学院生)、
荒井康裕(反戦老人の会・京都)、とーち、佐藤大介(NNAFJ事務局)

通訳 郭啓二、頼青松、陳炯霖、安藤丈将、荒井康裕、郭金泉ほか

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