ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.103より

ジャイタプール原発と、コンカンにおける破壊的な計画に反対して人々が抗議

 インド政府は、マハラシュートラ州ラトナギリで、ジャイタプール付近のマドバン村で990万kWの原発建設を計画している。政府はすでにフランスのアレヴァ社との間で、それぞれ165万kWの1号機と2号機を供給することで合意した。同原発では、6号機まで建設することが見込まれている。

 過去3年間にわたって、地元の人々は政府の原発建設計画に対して民主的な抗議行動を続けている。原発によって環境や生活が破壊され、健康がそこなわれるという懸念があるからである。人々は、土地を提供することを拒否している。

 原発に対して闘い、抗議の声を上げ続ける人々を支援するため、全国反核運動連合と共にロカヤットなどの市民団体や環境グループ、NGOなどがインド中から結集し、09年11月23日にマドバン村において大規模な集会を開催した。24日には、地方の中心地であるラトナギリにおいてセミナーも開催された。

● マドバン村での集会

 科学者、専門家、活動家たちがタミル・ナドゥ、カルナタカ、マドヤ・プラデシュ、グジャラート、ウッタラ・プラデシュなどから結集した。彼らは壇上で発言し、原発の建設によって、コンカン地域の経済、人間や植物や海洋生物などに大きな脅威がもたらされることを指摘した。集会の最後には、原発の模型を燃やし、計画の撤回まで原発に反対し続けることを確認した。数千人の人々が、マドバンとその周辺の村から集まった。

 ロカヤットのアルカ・ジョシは次のように語った。原発によって地域の人々の健康や環境が汚染されるが、その影響はこの世代のみならず何千年にもわたる。核分裂の過程でできる放射性物質は事故がなくても日常的に外へ排出され、空気や海水を汚染する。チェルノブイリの原発事故がどれほど大きな被害をもたらしたかを考えれば、チェルノブイリ原発よりはるかに規模の大きいマドバンの原発で事故が起こった場合の帰結は想像を超える。コンカン全域どころか、マハラシュートラ州の西部は半永久的に死の町となるだろう。

 タミル・ナドゥ州のクダンクラムから参加したのは、全国反核運動連合のウダヤクマルである。ウダヤクマルはクダンクラムのみならず、西ベンガルのハリプール、グジャラートのミティヴィルディなどでの原発反対運動の事例を挙げながら、コンカンでの人々の闘いは、インド政府が原子力に突き進もうとする動きに対抗してインド各地で沸き起こっている広範な反対運動のつながりの中に位置づけられるとして、インド各地で反対する人々が連帯して立ち上がれば必ず勝利することができると発言した。

 コンカンの人々は、自分たちの闘いの後ろにインド各地の仲間がいることを確信することとなった。

 バンガロールのCANEを代表して参加したラーマクリシュナは、カイガ原発での反対運動に参加した経験から、政府の甘言に惑わされないようにと警告した。インド原子力公社の役人たちは、地域の発展や雇用の創出といったバラ色の未来が約束されているかのように語るからである。

 ムンバイに近いタラプールから来たアニール・ガックは、インドで初めての原子炉となったタラプール原発の現状について報告した。地元の人々が様々な影響を受けているが、彼は温排水によって地元の漁業が壊滅した事実を報告した。350隻あった漁船はすでに1隻も操業していないという。タラプールの海洋生態系が、根底から破壊されてしまったことを訴えた。

 地域の活動家も多数参加した。漁民、農民の代表をはじめとして、地元の医師など様々な人々が詰め掛けた。

 アラハバッドから来たバンワリラル・シャルマは、インドでもっとも有名な数学者の一人である。彼は集会の司会を務めた。彼は開会のことばの中で、次のように指摘した。原発に対する闘いは、インドにとって第二の自由闘争である。インド政府は、国も、資源も、富も、人々も、そのすべてを売り出そうとしている。安全性、コスト、環境問題などで世界中の原子力産業が停滞期に入っている今、巨大な外国の原子力企業は受注がなくなって深刻な危機に直面している。しかし、インド政府は何十基もの原発の新規建設に同意している。原子力企業はわれわれを収奪しようとしているのである。かつて英国が行ったのと同じように。

 シャルマは、現在インド中の人々がマドバンの闘いに注目しており、この土地での取り組みが歴史的なものであると指摘した。そして多くの女性が会場を埋め尽くしていることに感銘を受け、地域の女性が闘いの最前線を形成していくことの重要性を指摘した。

 この集会では、以下のようなジャイタプール決議が採択された。

1.地震多発地帯に計画され、地域全域を放射能で汚染する可能性のあるジャイタプール原発が中止されるまで、民主的で平和的な抗議行動を継続する。

2.マドバンに原子炉を供給することになっているフランスのアレヴァ社との取引は、フィンランドでも疑惑が起こっており、撤回するべきである。

3.原発事故の際の補償の支払いを制限することを目指した法案は、今すぐ廃止するべきである。

● ラトナギリ・セミナー

 翌日、ラトナギリの市立図書館でセミナーが開催された。300人の参加者が、原発、火力発電、代替エネルギーの3分科会に分かれて議論を行った。

 第一分科会では、スレンドラ・ガデカル博士が発言した。インドで最もよく知られた原子力の専門家として、また反核雑誌アヌムクティの編集者として活躍するスレンドラ博士は、インド政府がどれほど原子力に関してひどいうそをついているかを明らかにした。

 彼は、ジャドゥゴダとラワットバタで自ら行った調査を基にした事例をいくつも挙げた。たとえばジャドゥゴダでは、インドで最も古いウラン鉱山があるが、インドウラン公社は廃棄物を野ざらしにしており、ウラン鉱石はトラックの積荷に積まれて、覆われることもなく輸送される。テーリング池も適切に仕切られていないので、人々は自分がガンマ線に被爆していることも知らずにそこへ立ち入り、日常的に行き来している。こうした事例だけでは不十分であるといわんばかりに、博士はさらに恐ろしい事例を挙げた。ウラン鉱山で廃棄された鉱石が道や家の建設に使われているというのだ!

 ジャドゥゴダではウラン鉱山から、ラジャスタン州のラワットバタでは原発から、放射能漏れが起こっており、周辺の人々の健康に深刻な被害を引き起こしている。博士がまとめたインドで唯一の統計によると、がん、身体障害、発達の障害などの発生率は、他の場所と比べて4〜7倍の率である。流産、死産、新生児の死亡が起こる率は、さらに高い。そして、急性の感染性疾患の発生率は変わらないのに、慢性疾患がとくに若者の間で非常に増加している。固形がんの発生率も非常に高いという。

 第二分科会では、政府がこの地域に建設しようとしている大量の火力発電所や鉱山開発に関する話し合いが行われた。コンカンは、カシミールに匹敵するほど、インドでも最も美しい場所といわれている。最初の発言者は「そのような場所に、大量の発電所を建設し、鉱山を開発して、『国際的に競争力を持ちうるビジネス環境』との美名の下に、外国企業に対する様々な優遇政策を打ち出して開発を行おうとしていることは、まさにスキャンダル以外の何者でもない」と語った。

 コンカンで予定されている火力発電、原子力発電の総発電量は1810万kWに上る。それだけのエネルギーを発電するということは、大量の石炭やウランやそのほかの有害物質が用いられることとなり、鳥、空気、水が汚染され、コンカン全体が破壊されてしまう。

 第V分科会は、再生可能エネルギーと運動のこれから、というテーマであった。ここでは、インドにおける自然エネルギーの大きな可能性、省エネルギーのとりくみの余地がまだ大いにあること、などが語られた。また、インドの電力産業は非常に非効率的であることから、エネルギーセクターの効率改善にとりくむだけでも大きな効果があることが示された。

 ある発言者は、原発などの大規模計画に反対する人々は発展に反対するものとして批判されるが、その発展のあり方そのものが問われなければならないことを指摘した。そうした計画は一握りの人々を潤すためのものであって、多くの人々を立ち退かせ、土地を汚染し、数百万の人々の健康や生活を破壊する。インドが独立してから60年あまり、インドの支配層はインド国民の半分に対しても、十分に電力を供給することができなかったではないか。新しい発電所ができようとも、そこで発電される電気が、いまだに電気の恩恵を享受していない人々に届けられるはずがない。その電気は、富裕層がさらに無駄な消費をすることに使われるだけであろう。

 バンワリラル・シャルマ教授は、政府の計画に反対することばのみを用いるのではなく、人々を組織し、自分たちのニーズを満たすためのオルタナティブな小規模プロジェクトに着手していくことを提言した。ウッタラカンナダ州では小規模ダムが、ジャールカンド州では小規模火力発電が、人々の手によって作られている。どちらの州でも、政府が計画した大規模計画に反対する傍らで、自らの手で電力を生み出そうとしている。そして、人々が自然と調和したオルタナティブなライフスタイルへと転換していく必要性も語られた。

 セミナーの終わりには、ラトナギリ決議が採択された。決議はマラティー語で読み上げられ、英語とヒンディー語に翻訳された。決議では、次の事柄が要求された。

1.破滅的で多額の資金を必要とするジャイタプール原発計画を直ちに中止すること。原発は死に至る放射線を放出し、放射性廃棄物の問題は解決不能である。

2.この計画のための土地取得のプロセスを直ちに中止すること。

3.コンカン地域の海沿いに、多数の火力発電所の建設が計画されている。これらは大企業に多大な利益をもたらすであろうが、農民、漁民、労働者の生活を破壊する。これらの計画はすべて、コンカン地域の森林資源、海洋資源、農業を破壊するものであり、ただちに白紙撤回されるべきである。

4.シンダルグとラトナギリにおける鉱山開発計画を直ちに中止すること。この計画は自然や地域の農民の生活を破壊するものである。

5.ただ自分たちの生活や環境を守るために闘っている人々に対するすべての訴訟を取り下げること。

6.コンカン地帯を生態的に貴重な地域であると宣言すること。政府はこの地域の持続可能な発展に関する計画を立案しなければならない。この地域の豊かな自然の資源を保護することは、地域の人々への雇用創出にもつながる。

7.インドで高まり続けるエネルギー需要にこたえるため、政府は省エネルギーにつながる政策決定を行うべきであり、エネルギー需要をコントロールするための対策を採るべきであり、再生可能エネルギー技術の開発のために多額の財源を投資するべきである。

 セミナーをきっかけにして、コンカン地域の様々な場所から集まった人々による共同委員会が結成された。原発、火力発電所、鉱山の開発に反対する人々が一堂に会し、この破壊的な計画に反対することを確認した。委員会には、ムンバイ、アラハバッドなどで現地の運動を支援している市民団体の代表も参加している。                                                      (「ロカヤット」HPより)



ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.103もくじ

                   (10年4月20日発行)B5版28ページ

●台湾第四原発の商業運転予告に抗議
(陳逸芳)               

●台湾政府「原発以外、何も要らない」
(チェ・スーシン)          

●ジャイタプール原発と、
    コンカンにおける破壊的な計画に反対して人々が抗議     

●川内原発3号機増設問題、
    海が壊れている。3号機で東シナ海は壊滅する
(向原祥隆)      

●上関の原発予定地は瀬戸内海の生物多様性ホットスポット
(安渓遊地)   

●「劣化ウラン兵器の禁止及び被害者支援等を求める」
     対政府要請書を提出  

●【緊急声明】「もんじゅ」の運転再開に反対する

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