ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.102より

台湾原子力委員会が、台湾電力に
       原発の海域・陸域の地質再調査を命令


 来台した武本和幸氏一行と、田秋菫立法委員、緑色公民行動連盟、台湾環境保護連盟は1月16日午前、立法院(国会)で記者会見を行い、原発は耐震性不足で強い地震に耐えられない危惧があると指摘し、原発の耐震性を再検証するよう訴えた。(武本氏は第四原発の炉心から2kmの位置の「枋脚断層」が活断層である可能性があることも指摘した)。

 同日午後、原子力委員会は、「原発は200ガルの揺れで自動停止できるように設計されているので地震に影響されないと判断できるが、台湾電力に対して、日本の柏崎刈羽原発の経験を基に、原発周辺の海域・陸域の地質再調査を実施するよう要求した」と発表した。      (「中央社」ニュース 1月16日付より) 


   台湾北部原発訪問、交流報告

                     武本和幸(柏崎原発反対地元三団体)

 新潟県の中央部海岸に位置する柏崎刈羽原発は、地震に襲われ大破した世界史最初の原発である。

 柏崎刈羽の原発反対運動は、計画発表当初から、「地盤が劣悪であり地震に耐えられない。巨費を投じて用地買収・漁業補償をした後に、事業者東京電力が行った調査は、立地に不都合な事実を隠ぺいしたもので信用ならない」と主張してきた。この地盤地震論争に決着がついたのは、2007.7.16の新潟県中越沖地震の発生であり、柏崎刈羽原発の大破であった。

 柏崎刈羽の反対運動は、常日頃、地震の教訓を地震列島の原発反対運動に伝える役割があると考え、日本国内各地に報告してきた。

 台湾緑色公民行動聯盟の招きがあり、1月14日未明、吹雪で列車が運休した越後から関西空港経由でNNAF(J)の佐藤大介さんとともに台湾を訪れた。13日に発生したハイチ地震(1月末現在死者20万人と報道されている)の惨状が世界中に報道されている最中でもあった。

 台湾の面積は九州と同程度、人口は九州1300万人に対して台湾2300万人と聞く。北部に第一原発(BWR 2基・各63.6万kW)、第二原発(BWR 2基・各98.5万kW)、南部に第三原発(PWR 2基・各95.1万kW)、計6基514.4万kWが運転中である。第四原発(ABWR 2基・各135.0万kW)が建設中で、完成すれば8基784.4万kWである。日本の人口が1億2700万人、原発が54基4911.2万kWであることと比較すれば、台湾もほぼ日本並みの原発大国であると言える。

 14日は台湾到着後、貢寮郷の第四原発近くの民宿に泊まり、翌早朝から、台湾電力が実施した環境影響評価報告に基づき第四原発5km圏内の「枋脚断層」の地形を確認した。


   坊脚断層上の地形を調べる(左から)武本さん、頼青松さん、呉文通さん
 
 第四原発の炉心から2kmもない位置にある枋脚断層の活動は、原住民族ケタガラン族の「北流する雙渓(川)が、突然の地変で流路を変え、東に流れるようになった」との伝承が示唆するように、最近の歴史時代だと推測される。

 枋脚断層西側の第四原発前の海岸には見事な波触台(地震の際に隆起)が確認されるが、枋脚断層から東は砂浜となっており波蝕台はみられない。

 台湾電力は枋脚断層沿いに多数のボーリングを実施し露頭やトレンチ掘削でその活動性を調査したと推測されるが、その記録は公開されていないようである。

 その後、第四原発内で、台湾電力と地元反対運動、緑色公民行動聯盟と一緒に議論した。第四原発は、柏崎刈羽原発6・7号機と同じABWR炉であり、工事進捗率は91%とのこと。ABWR設置理由は、日本の宣伝パンフそのまま、CO2を出さない改良型だとのものだった。

 台湾中部では1999年9月21日に台湾で20世紀最大の地震があり大きな被害が発生した。台湾電力は、大地震でも原発はさほど揺れなかったと原発の地震に対する安全を強調していた。地震は震源から離れれば揺れが小さいことは常識なのに、震源との距離を無視した主張を聞き、驚き、あきれた。

 台湾の原発が想定している地震の揺れは、第一原発が300ガル、第二〜第四は400ガルで、日本の耐震設計審査指針改定前の値の小さい方に属しており、新指針に比較すれば小さい。

 午後は北部海岸の地形を確認しながら金山地区の第二原発まで行き、地元反対運動関係者の話を聞いた。最近になって使用済核燃料の乾式貯蔵施設を敷地内に建設することになったと不信を募らせていた。

 日没時に訪問した観光地となっている岬の金山中正公園には、GPS基準点の設置位置と断層を示すパネルが設置されていた。このパネルから、台湾でも日本と同様の密度でGPSの観測網が設置されていることがわかったが、台湾の運動はそうしたことにあまり関心がないようだった。岬でみた夕日は部分日食であった。


                    プレート境界と地震発生位置

 16日には、立法院で緑色公民行動聯盟・台湾環境保護聯盟・国会議員と一緒に記者会見をし、午後からは台湾大学構内で報告会を行った。

 事前に用意し台湾関係者が中国語に翻訳してくれたプレート境界で地震が起こっている図などで、原発と地震の関係をクローズアップできた。

 記者会見・報告会とも、日本では、地震活動が静穏な時期に次々と原発が建設され、17地点で原発建設が進められ、現在は54基が運転されていること。1995年の兵庫県南部地震・阪神淡路大震災以降、地震活動が活発になり次々と原発近傍で地震が起こっている。2007年には能登半島地震(M6.9)が石川・志賀原発を、新潟県中越沖地震(M6.8)が柏崎刈羽原発を、そして2009年に駿河湾地震が静岡・浜岡原発を襲い、いずれも設計時に想定した揺れを大きく超える揺れが観測されている。図のように、世界の地震はプレート境界で起こっている。今世界中で心配しているハイチも日本列島も台湾もプレート境界であり、いつ大きな地震が起こっても不思議でない。日本では、2006年に耐震設計審査指針が改定され、建設時に想定した揺れが1.5倍に引き上げられた。台湾の原発が想定している揺れは、300〜400ガルでしかない。近くで地震が起これば日本と同様に大きく超えてしまうだろう。プレート境界で地震が起こる地域には原子力施設を建設すべきでないことを訴えた。

 記者会見の様子は、「同日、政府が台湾電力に断層や想定地震の再調査を命じた」との記事と一緒に、翌日の現地新聞に報道された。(記者会見と武本さんのインタビューは複数のテレビ局でも放映された:編者補足)

 最終日の17日は早朝に台北を出発し、第四原発東10kmから第一原発西までの台湾島北部海岸50km余の地形(海成段丘や海岸地形―波蝕台や波蝕洞―)を400枚の写真に写した。海岸で地形の写真を写したことを、夜に台湾環境保護聯盟が設けてくれた歓迎会の場で報告すると、「国民党の独裁体制の時代ならスパイ罪で射殺される行為だった」と言われ、驚いた。

 日本では、地形学者等が原発周辺の地形や断層を調査し、電力会社が「建設のために実施した調査」が誤っていたことを次々と明らかにしている。静岡県浜岡原発、島根県島根原発、青森県下北半島(六ヶ所・東通・大間)で論争があり、最近は北海道泊原発の位置する積丹半島の段丘標高の分布と地殻変動の関係が地形学者の渡辺満久東洋大学教授から指摘されている。

 台湾でも地震学者(李紹興教授)が海底火山の問題を提起している等の活動を聞いた。今後、台湾の多くの専門家が、電力会社の「建設のための調査」の誤りを指摘する関わりをして欲しいと感じた。
 
 台湾で反原発運動を担っているのは、台湾環境保護聯盟の科学者や緑色公民聯盟の活動家と原発立地在住の人たちであった。会った科学者の何人もが東京大学や筑波大学に留学経験を持つ人だった。そして立地地域で反対運動を担う人たちも、「若いころ日本の漁船に乗っていた」「日立のクーラーを販売している」等々、台湾と日本が歴史的にも経済的にも深い関係があることを実感した。

 原発輸出国の反対運動が輸出先国の運動と連帯することの必要性を痛感した旅でした。

 (通訳をしてくれた、頼青松氏は日本に2度留学し現在は5haの水田耕作をしている人、近藤敦子氏は東京生まれ台湾在住者であった)。



ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.102もくじ

                   (10年2月20日発行)B5版28ページ

●台湾原子力委員会が台湾電力に原発の海域・陸域の地質再調査を命令     
●M6.8地震で日本の原発停止、第四原発の安全性は?             

●台湾北部原発訪問、交流報告
(武本和幸)                 

●恐怖! 第一・第二原発の近くに「活断層」                 

●インドネシア 「原子力検討会議」 声明                  

●[声明] UAEの原子炉受注
(韓国エネルギー正義行動)       

●「コペンハーゲン(COP15)に行ってきました」
(大倉純子)

●地球環境保全業務に関する要望書                  

●危険で無意味な「もんじゅ」運転再開、高速増殖炉開発
(小林 圭二)

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