ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.99より

「カニャクマリ宣言」とともに「反核運動全国連合」が発足

 2009年6月4日から6日にかけて、インド全土から100を超える運動団体、市民らがカニャクマリに結集し、「核エネルギーと抵抗の政治学」と題した全国会議が開催された。

 3日間にわたったこの会議では、核エネルギーによる発電と核兵器の製造に関するあらゆる側面について、またウラン採掘から放射性廃棄物管理までの様々な段階における放射能の影響、インド政府と核エネルギー省の任務と怠慢、といったテーマについて議論が行われた。

 科学的、技術的、社会経済的次元に加えて、今回の会議では核の脅威の政治的側面に関しても検討された。政府によるニューコロナイゼーション(核による植民地化)政策は、クダンクラムにおける「ロシアの前哨点」、ジャイタプールにおける「フランスの入植地」、ハリプールにおける「アメリカの安酒場」、そしてその他にも国中に存在するそうした施設によって、均衡を保ち続けている。インドは、いくつもの「東インド会社」の植民地のようになっていくだろう。インドの市民は、これら権力を持った大電力事業者らによってエネルギーの奴隷とされてしまうかもしれない。

 最も重要なことは、核主義というものは、いかなる透明性や説明責任や市民参加とも相容れない、政治的イデオロギーだということである。核主義は、異を唱えるものを拒絶し、反対するものを貶め、恐怖と報いの政治的雰囲気を生み出す。米印原子力協定によって、またロシアやフランスとの協定、そして核発電に民間企業も参入するに及んで、それは手がつけられない状態になっていくだろう。営利目的の企業と、秘密主義の国家組織と、抑圧的な核エネルギー省という三者のコンビネーションは、無残な結果をもたらすであろう。そして、このような資本主義と国家主義と核主義の結合は、国にとって縁起のよいものとはならないだろう。これらの勢力が国家組織体の中で優勢になることは、インドの民主主義、公開性、持続可能な発展に対する弔鐘を意味する。

 隆盛するニューコロナイゼーション(核による植民地化)に反対して、インドの市民を結集するために、国の核化にあらがうために、そして人々を核の脅威から守り、環境を核廃棄物と放射能から守るために、「反核運動全国連合(NAAM)」と名づけられたネットワーク組織が創設された。この組織は、記録、経済分析、法律、マスメディア、国際連帯、翻訳、健康、直接行動の8つの委員会から成る。

 以下に掲載する「カニャクマリ宣言」が、全国会議において承認された。


          カニャクマリ宣言

 核による搾取、核ビジネス、核エネルギー、そして核兵器から解放された世界の実現をめざす私たち、以下に署名をした団体、民衆運動、賛同する市民たちは、ここに宣言する。

1. 地球温暖化と従来のエネルギー源の不足という文脈の中、核推進側は核エネルギーを「地球にやさしいエネルギー」として、あまりにもご都合主義的な方法で推進している。しかしながら、核による発電に関わるあらゆる活動、つまりウラン採掘とウランの精製、大量のセメントや鉄を必要とする原発の建設、長期にわたる建設過程、原発の廃炉と放射性廃棄物処分の問題などは、あまりにも危険で浪費的であり、大量の温室効果ガスをも排出する。核エネルギーは安くもなく、安全でもなく、クリーンでも持続可能でもない。核エネルギーは、エネルギー問題に何の解決策をももたらさない。

2. インド政府は、強力に原発を推進しており、アメリカ・ロシア・フランス・カザフスタン、その他の国々との間で核に関するビジネスを展開している。これに関して、民主的な意思決定の基準は無視されるばかりである。私たちは、最近選挙で勝利を収めたUPA(統一進歩同盟)政権が、選挙での勝利が核主義推進の承認となったとでもいわんばかりの姿勢を見せている事実に、激しい怒りを表明する。

3. インドのように莫大な人口を抱える国では、エネルギー需要が増大している。しかし、まさにその理由において、私たちが選ぶべきエネルギーの選択肢は、経済的で持続可能で安全で環境にやさしいものでなければならない。さらに、エネルギーの分配も、平等かつ公平に、そして効果的に行われなければならない。

4. インドでは、莫大な費用が核プロジェクトにつぎ込まれてきた。それらのプロジェクトが、高価で、効率が悪く、危険で、壊滅的な結果をもたらしうるものであるにもかかわらずである。インドの核推進勢力は、核に関する私企業化を促進するために「1962年インド核エネルギー法」の改変に関心を持っていることを表明してきた。私企業が利益をあげる一方で、インドの納税者や一般の人々は、核廃棄物や廃炉、いつ起きるかわからない事故、健康の問題、そのほかの危険な結果について、対処するコストを背負わされることになる。

5. インドの核推進勢力の動きは、ミステリーのように覆い隠され、公務上の秘密を保持する厳しい法律によって守られてきた。これは、憲法で認められた情報に対する権利と完全に矛盾するものである。「1962年インド核エネルギー法」のような秘密主義的で抑圧的な法律の中には、民主主義が存在する隙間はない。

6. ケララ、タミル・ナドゥ、カルパッカム、ラワットバタ、ジャドゥゴダなどにおいて、インド・レア・アース社のような核推進勢力は、すでに地元の人々に深刻な健康被害を引き起こしている。

7. インドの核プログラムは、これまでも民衆のすばらしい闘いによって抵抗を受けてきた。こうした抵抗によって、ペリンゴメとコタマンガラムの二カ所で原発の建設が中止になった。この全国会議は、タミル・ナドゥ州のティルベルベリにおけるクダンクラム原発建設に反対している人々の闘いに対して、全面的な支援と連帯を宣言する。さらに、ジャドゥゴダ、メガラヤ、ハリプール、ジャイタプールなど、この国のあちこちでウラン採掘や原発などと闘っているすべての人々に対しても、支援と連帯を表明する。

 上述の観点から、この会議に集った私たち参加者は以下の事柄を要求する。

1. 核関連施設、ウラン採掘、核燃料、そのほかの関連する核産業とその活動によって引き起こされた、がん、遺伝子障害、皮膚病、出産障害、そのほかの重大な健康被害に苦しむ人々に対して、直ちに補償と治療施設を提供すること。

2. 核関連施設や核燃料関連施設の付近に住むすべての人々を、潜在的に放射能の影響を受けた被害者であると宣言し、補償のための明確なメカニズムを構築すること。

3. クダンクラム原発建設計画を即時中止すること。

4. ハリプール(西ベンガル)、ミティ・ヴィルディ(グジャラート州)、マドバン(マハラシュトラ州)、ピッティ・ソナプール(オリッサ州)、コヴァダ(アンドラ・プラデシュ州)における原発建設計画を即時撤回すること。

5. 問題の多い「1962年インド核エネルギー法」を即刻撤廃すること。

6.「情報に対する権利法」を、核に関するあらゆる側面にも適用可能となるよう改正すること。
            2009年6月4〜6日、カニャクマリ、タミル・ナドゥ、インド

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