ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.96より

【声明】 バタアン原発復活を許さない!

― バタアン原発の復活はフィリピン民衆に新たな重荷を背負わせる ―

     09年2月6日  KALIKASAN(環境のための民衆ネットワーク)

  
                  1月29日、国会前の抗議行動

 封鎖されているバタアン原発の再開をねらう最近の動きは、科学者た
ちの間に議論を巻き起こしている。原発一般に関しても、とくにバタア
ン原発に関しても、安全性、環境への影響、そして効率などに関する問
題が挙げられている。

 1980年のPuno委員会による報告や、科学者の国際ユニオンによるバタ
アン原発内の設計と建設に関わる2000カ所の不具合の発見といった、こ
れまでになされた調査・研究は、バタアン原発が危険であることを結論
づけるのに十分な証拠である。その一方で原発推進側は、フィリピンの
その他の原子力計画に関するゆがめられたサクセスストーリー以外には、
たった一つの研究さえ行えずにきた。

 原発の敷地や原発の安全性に関する技術的な懸念が直接的に推進側に
よって語られてこなかった一方で、それはバタアン原発復活に関する議
論の終わりでもないし、それがすべてでもない。他の側面にも同等の重
要性があることを無視してはならない。すなわち、この計画の政治と経
済についてである。

 バタアン原発は汚職のモニュメントとなった。バタアン原発につぎ込
まれた巨費と、マルコスとその取り巻きたちに8000万ドルのキックバッ
クが渡ったという歴史をかんがみるとき、バタアン原発の復活が新たな
汚職の温床となるであろうことは想像に難くない。かかわっている原発
推進者がマルコス人脈の血を引いていることを見れば、誰もが怒りに震
えて首を横に振るだろう。

 アロヨ政権が、この10億ドル規模のバタアン原発復活計画を実行しよう
とし始めたことは、さらに問題である。

 第一に、アロヨ政権は、以前の原発推進者たちに説明責任を果たさせ
る努力を怠ったのみならず、汚職によって利益を得たものたちを裁くこ
とに全く手をつけていない。第二に、アロヨ政権自身が汚職のデジャブ
を経験しないとどうして言えるだろうか。そうだ、私たちはこれまで連
綿と続いてきた汚職スキャンダルを忘れていない。多くの大規模プロジ
ェクトがバタアン原発と似たような成り行きをたどったことを忘れてい
ない。現政権には私たちが希望を抱きうるような道徳的権威はない。

 バタアン原発の復活は、技術的または経済的な基盤に関する研究もな
いままに、性急に進められようとしている。なぜなら、この金を支払う
のが結局は民衆だからだ。

 バタアン原発稼動法案によると、初期に必要となる10億ドルの資金を
捻出するために外国からの借り入れと原子力税を枠組みとしている。
このことは、私たちがバタアン原発のためにすでに1600億ペソの負債を
返済してきたにもかかわらず、これからさらに10億ドルもの金を、原発
が運転を開始すらしていない段階で支払わなければならなくなるという
ことを意味する。そして原発が運転を開始したら、原発は外国企業によ
って稼動されるのだからそれに対しても支払いが必要となる。

 アロヨ政権が、すでにあまりにも大きな負担を背負っているフィリピ
ン民衆に対して、さらに背負わせようとしている負担は、到底受け入れ
られるものではない。

 バタアン原発に反対する現在の動きには、様々な年齢の人々が加わっ
ている。様々な年代の民衆が結集して、この無節操な計画を打ち倒すた
めにたたかいを続けていく。


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 国会前で
  科学者、環境保護運動家たちがバタアン原発復活に反対


                    PCWA(フィリピン気候ウオッチ連合)

 1月29日、科学者や環境保護活動家たちが、バタアン原発の復活に反対
してフィリピン国会の前で抗議運動を行った。参加者らは棺を模したシ
ンボルを持ち込み、バタアン原発は長い間死んでいたのだから、これか
らも永遠に墓場に葬られるべきだという彼らの意図を示した。

 バタアン原発の復活をめざす法案は、実業家エドアルド・コジュアンコ
の息子であるマーク・コジュアンコ代議士、そしてマイキー・アロヨ代議
士によって先導されている。これらの政治家と韓国のKEPCOが手を結んで、
10億ドルにも上るバタアン原発復活の計画をもくろんでいる。

 「これは異常なことだ。以前は欠陥だらけで腐敗していると言われた原
発が、政治家や裕福な一族らによって再び持ち上げられて、安全で信頼
できるエネルギー源だと言われているのだ。原発は、マラカニアン(訳
注:大統領宮殿)の旧態依然とした政治家や腐敗した政府にとって、利
益を生み出す新たな乳牛となるだろう」と、KALIKASAN(環境のための民
衆ネットワーク)全国コーディネーターのクレメンテ・バウティサ氏は語
った。

 バタアン原発建設は、独裁政治を行ったフェルディナンド・マルコス大
統領によって1976年に開始されたが、安全性の問題によって中止された。
独立した調査団が調べたところ、バタアン原発には4000カ所の不具合が
発見され、稼動することは危険で無謀だとされた。

 「新しい推進者たちが、どうやってバタアン原発を安全にするというの
か、想像もつかない。バタアン原発の技術は完全に時代遅れだ。バタア
ン原発は火山であるナティブ山の上に立っており、付近には主要な断層
も走っており地震の影響を受ける可能性が高い。同時に原発は大量の放
射性廃棄物を生み出す危険な技術であり、いうまでもなくテロリストの
攻撃に対しても無力である」。バウティサはこう付け加えた。

 PCWA(フィリピン気候ウオッチ・アライアンス)はまた、気候変動を
ダシにした原発の復活論議に対しても異議を表明している。

 「気候変動への解決策の一環として、バタアン原発を復活するというア
ロヨ政権の考え方は、ばかげている。原発を運転するには、ウラン採掘、
各施設の建設と廃炉、燃料の加工、放射性廃棄物の輸送と保管など、エ
ネルギーを大量に必要とする石油依存型の産業が不可欠で、これらのプ
ロセスでは温室効果ガスが放出され続ける」

 PCWA広報官のメッギー・ノラスコは指摘する。「巨大な原発を何千基も
建設すれば、世界の二酸化炭素放出量の削減レベルにわずかなくぼみを
作ることはできるかもしれないが」

 アメリカに本拠地を置くエネルギー環境研究所(IEER)のアルジュン・
マキジャニ氏の2002年の報告によると、二酸化炭素の放出量に意義のあ
る削減をもたらすには、100万kW規模の原発がおよそ2000基必要になると
試算している。国連の国際気候変動パネルは2100年までに3000基の原発
が必要になるとのシナリオを概略で述べている。

 「コジュアンコ代議士は、2012年のエネルギー危機においてバタアン原
発が必要であると人々に信じ込ませようとしている。マルコス大統領が
1973年の石油危機に際してバタアン原発の建設を正当化したことと同じ
レトリックが使われている。もし彼のいうエネルギー危機が本当だとし
ても、バタアン原発は解決策にはならない」。フィリピンにおける進歩
的な科学者のグループであるAGHAMの議長を務めるジョヴァンニ・タパン
はこう指摘する。

 「エネルギーの自立をめざすことに異論はない。私たちは、フィリピン
がすでに所有している水力、地熱、太陽光、風力、天然ガス、そして石
油などをうまく用いることによって、それをなすことができる。しかし、
バタアン原発やその他の発電所に対してまさに今行われているように、
アロヨ政権が私たちのエネルギー施設や資源を私企業や外国企業に競売
したり私物化したりしている限り、エネルギー問題は存在し続けるだろ
う」。タパンはそう結論づけた。



ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.96もくじ

                
 (09年2月20日発行)B5版32ページ

●なぜ鹿児島に世界最大級の原発増設!? (小川美沙子)          

●私たちは、川内増設を潰す (向原祥隆)                   

●バタアン原発復活を許さない! (KALIKASAN)              

●国会前で科学者、環境保護運動家たちがバタアン原発復活に反対
                                       (PCWA)

●「ムリアは無理や」キャンペーン、会合報告 (野川未央)          

●「・・・・原発輸出の支援に関する質問主意書」と「答弁書」
                              (近藤正道・麻生太郎)

●インドネシアにおける原発建設計画;現状と今後の展望
                    (リチャード・タンター/アラベラ・イムホフ)

●延期決定! 第四原発の稼動は2010年5月以降に 他            

●韓国市民社会団体・意見書
  「グリーン成長基本法」は、緑色の仮面をかぶった、開発のための悪法   

●ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No. 67〜95 主要掲載記事一覧    
                  
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