ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.87より

地震多発地帯・ インドネシアに
   原発を輸出しないで!


 7月3〜12日、「ムリ無理」キャンペーンとして、インドネシアからヌルディン・アミン氏とヌル・ヒダヤティ氏が日本と韓国をまわり、日本政府・企業への申し入れ、東京・大阪で講演会、浜岡で住民と交流、韓国NGOと交流、韓国電力への抗議行動などを行った。   

 以下に、7月8日の大阪講演会「15年前からムリヤっちゅうてんねん!―インドネシアへの原発輸出を考える集い」の内容を報告する。映像で、ムリア原発建設計画に反対して6月にジュパラ県とクドゥス県で数千人規模の抗議行動が繰り広げられた様子などを見た後、2人の話を聞いた。



● ヌル・ヒダヤティ(愛称:ヤヤさん)

 みなさん、こんにちは。グリーンピース・インドネシアのヌル・ヒダヤティと申します。このたびは、日本に来ることができて、インドネシアで私たちが直面している問題について話し合ったり、日本の友人たちと出会ったりする機会を作っていただき、ありがとうございます。

 日本政府は、原子炉や原子力技術をアジアに輸出しようという意図を持っています。いま、その意図が、原発を建設したいというインドネシア政府の意図と合致しました。

 インドネシアには3基の研究炉があります。この研究炉は、もともとはスカルノ大統領の時代に始まりました。インドネシアにおける核技術の始まりというのは、政治的な動機付けに大きく動かされて始まったものでした。当時世界は、共産主義諸国と西側諸国に大きく分かれていました。そのような中で、中国政府は核実験を行うことによって、核技術と国力の誇示を国際的に行いました。スカルノ大統領はこれを支持する立場をとりました。

 当時、アメリカはアジア地域の政治的な関係について非常に懸念していました。インドネシアが中国に対して支持を深めていくことをけん制するために、アメリカは核技術を提供することにしました。軍事に関係のない、いわゆる「平和利用」という名のもとにインドネシアに核技術を提供することにしたわけです。

 1964年には、アメリカの支援の下に、バンドンに1基目の研究炉が建設されました。それから80年代に入るまで、政府としては原子力の利用を「平和利用」つまり医療分野と農業分野の利用に限っていて、エネルギーの供給源として考えることはありませんでした。ところが、80年代後半になって、将来のエネルギー需要の増大に対するエネルギー安全保障の一環として、エネルギー源として考え始めました。

 政府は1991年に原発の立地可能性調査を行うための国際入札を行いました。このときの国際入札では、アメリカ・カナダ・フランス・ドイツ・日本が参加しましたが、関西電力の子会社であるNEWJECが落札し、立地可能性調査を行いました。その調査は1996年に終了しましたが、その中では、インドネシアに12基の原発を建設し、全体では720万kWの原発建設をするのが適当であるという結論が盛り込まれました。

 NEWJECが行った調査では、予定地の選定についての調査も行われ、ムリア半島にある、ウジュン・レマアバン、ウジュン・グレンゲンガンなど5カ所が予定地として適当だとされました。その理由として、原発は、主に人口密集地で産業も集中するジャワ島の電力需要を満たすために操業することが目的とされていたので、ジャワ島各地に送電するのに便利な中部ジャワのムリアが選ばれたのだと思います。また、ジャワ島は火山の多い島ですが、ムリア半島はジャワ島の中で地震学的に見ても最も安定しているという理由があげられていました。

 このような計画が政府から発表されると、非常に強い反対運動が沸き起こりました。その中には学生や一般市民の人々も含まれていました。原発建設に関する情報が非常に不透明なままであること、危険であること、このような場所に原発を建てることは許せないということで反対運動が広がりました。

 そして、1997年から98年にかけてインドネシアでは深刻な経済危機が訪れました。そのような中で、政府は無期限での原発建設の中断を発表しました。

 しかし2000年代に入って、原発を可能な選択肢として再浮上させようとする動きが現れてきます。きっかけとなったのは、世界的な石油価格の高騰でした。これによって、インドネシアも発電を石油に依存していては危ないのではないかという論調が強まったのです。政府は、ロシア・韓国などとの間で、原発建設に向けての協力に関する覚書を取り交わしました。そして昨年、政府が発表したエネルギー長期計画では、2024年までに400万kW分の出力の原発を確保するということが明記されました。

 1基目は2010年に建設を開始して、2016年に稼動という計画です。この1基が100万kWの規模を持つということです。そこで、すでに古くなったNEWJECの調査しか存在していないということで、インドネシア原子力庁は追加の調査を行い、さまざまな国々と原子力に関わる覚書や協定などを結びました。

 現在、インドネシアの原発建設に関心をもっているのは、日本(三菱重工)、韓国(韓国電力・韓国水力原子力)、アメリカ(GE)、フランス(AREVA)、ドイツ(シーメンス)、ロシア(ROSATOM)です。

 その中でもとくに意欲を示しているのが韓国と日本の企業です。インドネシア政府の高官やエネルギー関係者が日本や韓国に招待されて、原発を訪問したりレクチャーを受けるということもたびたびです。

 2006年には、インドネシアの気象地球物理庁がムリア半島の原発予定地の近くに断層が存在することを確認しました。このニュースは、原発建設の危険性についての不安を人々の間に巻き起こしました。

 政府は、いわゆるPA活動も行い、何とかして人々の間に原発を浸透させようとしています。たとえば、テレビコマーシャルなどを使って、原発がいかに便利で恩恵をもたらすものであるかを宣伝しています。その中には、「原発に反対する人々は、自分たちが何を言っているかわかっていない愚か者だ」と、反対する人々を中傷する内容のものもあります。

 そのような状況にもかかわらず、原発に対する反対の動きはたいへん広がってきています。現地でも、県レベルでも、州レベルでも高まっています。そのことについては、後ほどグス・ヌンさんから話していただきます。

 人々が原発に反対する大きな理由の一つは、インドネシアが日本と同じく、環太平洋火山帯に属して、地震に対して非常に無力な地域であるということです。地震多発地帯でありながら原発予定地となっているということ、チェルノブイリやその他の原発事故の教訓などから、私たちは原発の安全性についても懸念しています。

 しかしそれだけではありません。インドネシアの国内の歴史を見れば、非常に苦い経験がたくさんあります。自然災害や産業災害において、インドネシア当局は被害者に対して十分な誠実な態度をとってその問題を解決しようとはしてこなかったという事実があります。このような場合は、人々は事故によって大変な犠牲を強いられますが、事故の発生に責任を負う企業人や政治家らは責任を取らずに逃げてしまうことが可能でした。

 このようなことを考えると、もしインドネシアの原発で事故が起これば、どのようなことになるでしょうか。さらに恐ろしいことになります。自然災害などと違って、放射能は非常に長期間にわたって恐ろしい毒性を放ち続けるのですから。

 インドネシアにおけるエネルギー安全保障を守るために原発の導入が必要だと政府は言っています。しかし私たちは、それは根拠のない主張だと思っています。なぜならインドネシアには十分な代替エネルギー源が豊富に存在するからです。政府に対しては、再生可能で安全でクリーンなエネルギー源の利用を選択肢として考えてほしいと思います。原発のように、再生可能でもなく、危険で、恐ろしい放射性廃棄物を残すようなものを選択してほしくないと思っています。
 ありがとうございます。

● ヌルディン・アミン

(ヌルディン・アミンさんは、愛称がグス・ヌンさんといいます。インドネシアの四代目の大統領がアブドラマン・ワヒド氏で、グス・ドゥルと呼ばれています。グスというのは、イスラム指導者の息子さん、お坊ちゃんといった意味あいの愛称です。アミンさんの所属するナフダトゥール・ウラマというのは、インドネシアで最大のイスラム団体です。グス・ヌンさんはそのジュパラ県の代表をされています)

 みなさん、こんにちは。今日はこのような、原発輸出反対の集会を開いていただき、ありがとうございます。

 私たちが今回ここにやってきた目的の一つは、日本のみなさんに、私たちの運動に連帯していただきたいということです、というのも、インドネシア政府が日本政府に対して原発建設の協力を求めているからです。

 私たちが日本に来たもう一つの目的は、現在インドネシアで起きている反対運動の現状を直接日本の政府や企業に伝えるということです。これは、インドネシア政府を通じて伝えられるということではなく、直接伝えることが大切だと思っています。もしインドネシア政府からの情報だけだと、きちんとした情報が伝えられず、真実が隠されたまま伝えられてしまう懸念があるからです。

 私たちは今回日本で、国際協力銀行、日本の外務省、経済産業省の方々と会って、彼らにこの問題を伝えました。また、こうした日本の関係省庁のみならず、日本企業も訪問しました。しかし、会ってもらえたのは日立だけで、東芝と三菱重工は私たちと会うことを拒否しました。この後、私たちは韓国に行って、韓国政府や韓国企業にも同様の活動を行います。

 ここに、ジャワ島中部のムリア半島の地図があります。この地域は主に、三つの県から成り立っています。ジュパラ県、クドゥス県、パティ県です。この地域は、豊かな地域です。人々の大半は自然に依存して生活しており、ジャワ島北岸では、漁業を営んでいます。

 ジュパラ県は人口120万人。漁民が約10%、農民が20%、労働者が20%を占めています。この労働者は、主に家具を作る労働者ですので、この地域の森林から伐採される木を使って生計を立てています。ですから、この地域の50%近くの人々が、生業を自然に依拠しているということになります。

 クドゥス県は人口70万人。漁民と農民がそれぞれ10%、労働者が20%、ここの労働者は主にタバコ産業の労働者です。原発ができることによって彼らも逆境にさらされることになります。

 パティ県は人口90万人。漁民10%、農民15%、労働者5%ですが、この労働者というのは、2つの大きな落花生工場の労働者です。この地域で生産される落花生は、インドネシアの落花生生産の大半を占めています。

 私たちは、なぜインドネシア政府がジュパラの地に原発を建設しようとしているのか、まったく理解できません。この地域は、人口密度が高く1平方キロメートル当たり700人から1000人の人々が住んでいます。また、とても豊かな自然を擁する地域です。政府は、この地域は地盤が安定していて地震が起こらないと言っています。大きな津波も来ないしムリア山という火山も活動していないと説明してきました。しかし実際は、1年前にジョクジャカルタで大きな地震が起きたとき、そのときのゆれはジュパラ県でも感じました。

 原発について私たちには、きちんとした説明がなされていません。また政府から、原発を作るための同意すら求められていません。政府が進めたければ、一方的に建設が進められるということです。

 人々は、核というものは何かを理解していません。核というと、考えられるのは原爆です。インドネシアの学校教育においては、広島と長崎に原爆が落とされてから日本がインドネシアから撤退し、そしてインドネシアが独立した、というふうに教えられています。ですから、核といえば原爆であり、この原発というのも、村の住民たちは原子爆弾を管理してそこからエネルギーを得て発電を行うのではないかと考えています。政府は、このように住民を無知な状態に置いたままにしています。きちんとした知識を与えようとしません。

 こうした問題について行われる科学的なフォーラム、ディスカッションというのは、大学においてのみ行われていました。私たちNGOは、チェルノブイリの問題を知ってもらうために、ビデオの上映会、映画の上映会などをしようとしましたが、それらは政府によって禁止されてしまいました。そのようなことで、こうした大学でのフォーラムの場しかなく、その場は政府が原子力を正当化するための場として利用してきました。

 インドネシア政府は、エネルギー危機を克服するために原発が必要だと主張しています。しかし、私たちはこれにだまされていると思います。というのは、90年代に原発建設の動きがあって、そのときも建設の理由がエネルギー危機とされていました。このとき結局建設は中止されましたが、新たに2つの天然ガス田が見つかったということで大きな問題にはなりませんでした。その後、2003〜4年ごろ、再び原発建設の話が持ち上がり、その理由もエネルギー危機だというのです。

 先ほどヤヤさんからも話がありましたように、インドネシアというのは非常に自然エネルギーのエネルギー源に恵まれています。石油や石炭も海外に輸出しています。なのに、エネルギー危機だと喧伝されているのです。

 原発の計画に対して住民は反対してきました。しかし、政府は軍を使って弾圧してきました。先ほどのビデオでも現地の村の青年の代表としてスメディさんが集会でアピールしていましたが、スメディさんも軍から監視されています。

 90年代は、原発の予定地は軍が管理していました。その頃は、予定地の村の入り口には車が入れないように検問のような長い棒のゲートが設置されて、外からの車、とくにジャカルタやジョクジャカルタなどの都市からの車は村に入れないこともありました。そういった車は、外からのNGOや原発計画に反対する人たちが乗っているかもしれないので、村に入ってはいけないとされたからでした。

 現在、原発反対運動は、農民、漁民、労働者を含めて非常に広がっています。この理由としては、放射性廃棄物が長い間残ること、放射能漏れが危険であるということ、この村の人たちが、自分たちが都市の人たちのいけにえにされていると感じていることなどがあります。

 住民が反対しているのは、これまでの二つの事例から教訓を得ているからです。その一つは、タンジュンジャティBという石炭火力発電所です。これは日本企業によって建設され、日本の国際協力銀行が融資して建設された火力発電所です。この発電所が周囲の環境を破壊しているのです。地域の気温が上昇したり、発電所からの温排水によって海水温が上昇して魚が逃げてしまって漁獲高が減少してしまったり、石炭を運んでくる船が漁師の仕掛けた網を引っ掛けて壊してしまうなどの被害がありますが、発電所側はそれらに対してきちんとした補償を行っておらず、解決につながるような対策も立てていません。また、この発電所からの電気は高圧電線で他の地域に送られていきますが、電線の鉄塔があるところは土地収用が行われる。この土地収用の土地の値段は、場所によって値段が異なっているので、補償金の差があるために住民同士が争うような状況も起こってきています。

 もう一つの教訓とは、ラピンド社の熱泥の問題です。ラピンド社は東ジャワのシドアルジョで天然ガスを採掘していたのですが、採掘している最中に熱泥が噴出してきて、その熱泥が周囲の村に広がって、家や工場が泥で埋まってしまうという問題が起きました。この問題に対して、国内外の専門家たちは1年以上解決できていません。また、このラピンド社というのは、アブリザル・バクリー国民福祉担当調整大臣が所有するグループの企業なのです。しかしラピンド社は責任を取らない。政府の対策が非常に遅れている。政府は企業の責任も追及できていない、こういった教訓があります。

 NGOも原発建設を拒否しています。地元のNGOの連合体はMAREMといい、地球保護社会という意味の名称の略語です。それ以外にも、全国レベルのNGOとしては,インドネシア環境フォーラム(WALHI)、グリーンピース、MANUSIAなどがあり、こうしたところが原発反対運動を行っています。そして、再生可能なエネルギーを提案するなど、政府が主張しているエネルギー危機という神話に対抗しようとしています。

 地元の企業も原発に反対しています。それは、この地域には、たとえば家具を作る企業があり、生産された家具は日本、韓国、アメリカなどにも輸出されています。また、タバコ産業です。たとえば大企業のジャルム社などのタバコ会社があります。東京でタバコ屋さんによってみると、このジャルム社のジャルムスーパーというタバコがありました。このように、国際市場にまで進出しているタバコ会社です。こうした企業にとって原発に反対することは非常に合理的なことだと思います。もし事故がおきたら、放射能問題に対して、市場センチメンタリズムというか、製品を拒否するということが起きてしまえば、企業は倒産し、数十万人という労働者が職を失い、その家族も路頭に迷うことになってしまいます。

 ウラマと呼ばれる、イスラム法学者、イスラム知識人も原発に反対しています。なぜなら、この地域の人々はほとんどがナフダトゥール・ウラマ(NU)という私たちの団体の支持者です。その割合は8割を占めます。ウラマは一般的に人々と非常に強いパトロン=クライアント関係にあるので、ウラマは人々を守らなければならないという立場にあります。

 ムリア山のふもとにはイスラム教の重要な聖人たちのお墓があります。こうした重要な宗教上の地も、原発が作られることによって影響を受けます。

 また、ウラマたちは、テロについても懸念しています。最近インドネシア国家警察の捜査で、中部ジャワ州で多くテロの拠点が見つかったからです。もし原発ができたら、そこがテロの標的になってしまうのではないかということも心配されています。

 民衆は政府を信じていません。いまだに政府には汚職や縁故主義や癒着がはびこっているからです。また、原発の問題というのは、国会議員と大統領を選出する総選挙に関わる政治ゲームではないかとも疑われています。というのも、93,94年に、原発建設計画が持ち上がったときも総選挙の前でしたし、その次もそうだったからです。選挙資金を集めるために原発の建設が利用されているのではないかというのです。2009年に総選挙が行われれば、この計画自体がなくなるのではないか、ということも考えられます。
ありがとうございました。

● 質疑応答

Q インドネシアで原発反対運動が盛り上がっていることに感動しました。これまで、言論統制が非常に厳しい中で運動が行われてきたことを思うと、感慨深いものがあります。この会場の後ろにいろいろ展示してますように、私たちは90年代に「ストップ原発輸出キャンペーン」として、日本で様々な運動を展開し、インドネシアにも原発の情報、危険性を伝えたりしました。インドネシアの海は年中水温が30度くらいあるのに、温排水を海に返すことは非常にダメージが大きいと思います。地震や津波の心配もあります。これは、絶対にとめなければならないと思います。

ヤヤ これまでインドネシアへの原発輸出反対運動に携わってくださってありがとうございました。インドネシアではおっしゃるとおり、原発に関する情報も非常に少ない現状です。インドネシア原子力庁は住民に対して「原発は非常に役に立つもので、何の問題もない。反対している人たちは何も知らないで言っているだけだ」というような説明をしています。住民たちは、何が本当かわからず混乱している状態でもあります。

グス・ヌン 昨日浜岡原発に行ったとき、海水を冷却水として使用して海に排出しているのを見ました。それによって海水の温度が24度程度のものが31度くらいまで上昇するとのことでした。私たちの地域は10%が漁民です。先ほど説明したように、タンジュンジャティBの建設によって、すでに冷却システムからの排水で漁業被害が出ている状況です。
 再びインドネシアにお越しいただいて、住民のみなさんに会っていただいて、スハルト時代においても反原発運動をしてくださっていたということを伝えていただければ、地域の住民も感激すると思いますし、反原発運動の意欲が高まるのではないかと思います。

Q タンジュンジャティBはどこにありますか?

グス・ヌン タンジュンジャティBはトゥバナンという村にあります。原発予定地のウジュン・レマアバンのちょうど隣の村です。ですから、隣の村ということで、タンジュンジャティBで起きている被害については、バロン村などにも話がすぐに伝わります。この石炭火力発電所の開幕式が行われたとき、スシロ・バンバン・ユドヨノ大統領がやってきました。そして、このジャワの北海岸を電力産業の中心地域とするのだ、と話しました。
 私たちはいま、政府が火力発電所を三つ建設しようとしていると聞いています。一つはタンジュンジャティBを東に向かって拡張するということで、原発予定地に近づきます。もう一つは、タンジュンジャティC火力発電所で、さらに東側に建設されます。タンジュンジャティAは、タンジュンジャティBの建設の前に建設されるはずだったものです。隣のボンド村に建設されるはずでした。しかし住民が建設を拒否したために、このAの建設はなされていません。また、もう一つの火力発電所は、ウンプランチャという火力発電所の計画で、これはジュパラ県の中心から10キロほどしか離れていないところに建設が予定されています。さらに、他の話もあります。ムリア半島にあるパティ県の東の地域はルンバンという地域ですが、このルンバンの海岸にも火力発電所の建設計画があります。発電される電気は、高圧線を通じて各地に送電される予定になっています。ですから、ジュパラ県、パティ県、ルンバン県の北海岸を電力産業の集中する地域にするという計画です。
 ムリア半島に住んでいる住民の多くが漁民、農民、労働者ですが、その大半が、私たちのNUの支持者であります。また、ムリア半島というのは、多くの偉大なイスラム指導者が育った地域でもあります。ナフダトゥール・ウラマの中央の指導者を輩出しています。

Q タンジュンジャティBを建設した日本の企業というのはどこですか?

グス・ヌン タンジュンジャティBは、住友と三井が関わっているのではないかと思います。下請企業にはどういうものがあるかわからないのですが。タンジュンジャティAは丸紅が関わっています。

Q ジュパラで大量の伐採があったと聞きましたが本当ですか?

グス・ヌン それは、スハルト政権が倒れた後の話だと思います。この地域は、インドネシアの森林公社などが管理していて、住民は木を伐採することを禁止されていた、または伐採してはならないという圧力がかかっていました。とくに改革の時代に入る前に経済危機があってルピアが大暴落しましたから、その後改革の時代になって、木を売ると高い価格で売れるということで、それまで非常に抑圧的だった政権から改革路線に変わったということも重なって、地域の人たちが木を違法に切り始めて企業に売るような状況がうまれました。木が大量に切られた地域というのは原発予定地のバロン村などを含む地域なのですが、その結果として森林破壊が広がってしまいました。

Q ナフダトゥール・ウラマ(NU)について質問します。中部ジャワのNUががんばっていますが、ジャカルタのNUは原発問題にはどのような態度をとっているのでしょうか。

グス・ヌン NUはこの問題に対して、厳しい立場におかれています。というのも、反対の姿勢を示さなければNUのイメージがダウンしてしまうからです。キアイと呼ばれる年配のイスラム指導者たちも、多くは原発に反対です、しかしながら、年配のイスラム指導者の中には、この問題に対して政府と歩調をあわせる態度をとろうという人もいます。つまり、あからさまに政府と対立するようなことはよくないと思っているのです。
 BATAN(原子力庁)や研究技術省は、NUに対して、中央レベル、県レベルで私たちに積極的にアプローチをかけてきています。私は県の代表ですが、BATANの長官やスタッフが私たちのところにやってきたりします。NUは高校なども経営していますので、BATANが傘下におく原子力関係の大学にその卒業生を進学させたいというようなオファーがBATANからあったりしています。
 ジャカルタ郊外のスレポンというところから、改良種の種をジュパラに持っていって植えて、この改良種の種は原子力とかかわりがあるらしいのですが、それによって原子力に関するイメージを良くしようともしています。BATANや研究技術省などは、原子力、放射能は、平和的な利用で農業や医学に非常に有益であると説明していて、このような改良種の種を宣伝しています。村レベルのNUの人々は、改良種の種を植えるということに対しては抵抗なく受け入れてよいことだと思っていますが、原発については一貫して反対の態度をとっています。
 私自身、県の代表として原発に反対という姿勢を表明しています。そして、私の周りの年配のイスラム指導者たちも私の態度について、それを尊重してくれていています。
 また、研究技術大臣からの提案として、最近、NUやムハマディアなどイスラム教団体の宗教指導者、またカトリックやプロテスタントの指導者やNGOの関係者を、日本と韓国へ視察に行かせるツアーが計画されています。ジュパラ県からもNUから誰か参加してくれないかと頼まれました。誰か県のNUの指導者をといわれたのですが、誰も行きたがらなかったので、1人の人に頼みました。その人は、やはり原発に反対の立場の人です。予定では、7月22日にインドネシアを出発して、8月2日に帰国する予定です。原発推進側の招待で視察旅行に行く、私はそれとは正反対の立場でここに来ています。NUの中央レベルにおいては、どのような決定をするのかはわかりません。韓国と日本への視察旅行には、NU中央の代表を務めるハシム氏と、ムハマディアの代表議長にも話があったそうですが、私が聞いたところによると、彼ら2人は視察旅行には参加しないそうです。
 県のレベルでは、政府のほうから、原発の広報活動について手伝ってほしいといわれましたが、私は拒否しました。私たちがもしそれを行うのであれば、原発についてのポジティブな面とネガティブな面を両方伝えていく必要があり、最終的に住民が判断していく必要があると思っているからです。

Q 反対している人が多いというのは、現地の話だったと思うのですが、ジャカルタなど大都市で一般の人々がどういう考えなのか、またメディアはこの問題をどう報道しているのでしょうか。

ヤヤ 都市では、NGOのレベルにおいては反対運動が活発です。原子力産業や企業が行うセミナーなど、世界の原子力産業が集まって行われた国際会議などで、抗議行動などを展開しました。一般の人々については、議論となっている状態です。マスメディア自体が原発の問題をよく取り上げていて、原子力の専門家やさまざまな社会問題の専門家らがメディアにおいて意見を発表しています。そのような中で、賛成の人もあれば反対の人もあって、熱い議論が交わされているところです。たとえば、新聞の読者投稿欄でも、原発に関する投稿がなされていたり、原発関係のメーリングリストなどで活発な議論が行われています。
 メディアでは、インドネシアではコンパスという最大の新聞があります。コンパス紙においては、編集部の上の人たちの中で、原発に反対する立場の人たちがいます。コンパス紙においては、原発の問題がよく取り上げられています。イスラム系の新聞で、レパブリカという新聞がありますが、ここは原子力に賛成の立場です。なぜかというと、反米の感情が強い。アメリカがイランの原子力政策に対して行った制裁についての反発が強い、だから原発建設に対しては賛成の立場をとっているようです。

グス・ヌン 私が懸念しているのは、この問題に関して、都市に住んでいる人と農村に住んでいる人との利害の対立になってしまうことです。農村の人たちはなぜ自分たちが犠牲者にならなければならないのか、と考えるし、都市の人たちは農村の人たちが反対するのを見て反開発主義というふうに考えてしまうからです。私は以前、ジョージ・アディチョンドロが書いた論文を読みました。その中で、環境レイシズムという概念が描かれていました。台湾の先住民の人々の地域に放射性廃棄物の貯蔵場が作られていたり、原爆実験が行われるのがアボリジニやネイティブアメリカンの場所であったりすることから、それを環境レイシズムという概念で説明していました。環境レイシズムというものが存在することを踏まえて、このジュパラの地域で原発が建設されるのであれば、なぜ私たちが犠牲にならなければならないのかという疑問を人々は持っています。
 都市においては電力の消費が大きく、大規模産業に電気が使われる。しかし農村では電気の供給は少ないし、原発が作られる利益というのは農村の人々にとっては何なのでしょうか。原発は高い技術を持って行われますが、農村への技術移転になるものでもありません。ですから、もし本当にそんなに都市の人々が原発を作りたいのなら、農村に作らずに、ジャカルタの大統領宮殿の裏にでも作ったらどうかと思います。
 地方のメディアについてです。私たちの地元の人たちは、コンパスやレパブリカなどの大新聞を読まずに地元紙を読んでいます。ワワサン、スアラムルデカといったものです。そうした新聞は、地元の反対についての情報をよく伝えていると思います。抗議行動などもよく伝えています。もちろん、賛成している報道もありますが、おおむね原発反対の論調の方が多いです。

Q 最後に、日本の政府と話し合いをして、対応が悪かったと思いますが、日本の政府やメーカーや、市民に対して一言お願いします。

ヤヤ 日本の政府、企業に対しては、インドネシアの原発建設への協力をしないでほしい。インドネシアに原発を作ることは非常に危険なことです。日本政府がインドネシア政府に対して支援してくれるなら、安全でクリーンで持続可能なエネルギーの分野で協力してほしいと思います。
 日本のみなさんについては、日本政府が原発の支援をしないように働きかけ、圧力をかけてもらいたいと思います。

グス・ヌン 私は日本の、外務省、経済産業省、企業を訪問した際に二つのことを訴えました。一つは、インドネシアへの原発輸出は、利益をもたらすものにはならないであろうということです。住民の反対も強いし、テロの危険もあるからです。もう一つ伝えたことは、東南アジア地域が第二の中東になってしまうことについて懸念していることを伝えました。東南アジア地域においてインドネシアが初めて原発を作るということに対して、オーストラリアやシンガポールなどが非常に懸念しています。こういったことはかつて中東でも起こりました。中東の一つの国が原発を作って、緊張が高まって、さらに原発を建てる国が増えるということがありました。
 反原発の国際的な世論を形成するために、みなさんに連帯していただきたいと思います。国際的な世論を形成するというのは二つの役割があります。一つは、原発を建設させないような圧力になるということ、また、地元で反対運動をする私たちについても、そのような国際世論ができれば、政府がそう簡単に私たちを抑圧できない状況ができると思います。ですからそうした意味も込めて、国際的な世論を形成する動きを展開していただきたいと思います。



ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.87もくじ

No87(07年8月20日発行)B5版32ページ

●地震多発地帯・インドネシアに原発を輸出しないで!
                  (ヌル・ヒダヤティ、ヌルディン・アミン) 

●「原発中毒になるな!」のメッセージを広げよう (フィリップ・ワイト)  
 
●韓電、原発をインドネシアに輸出!? (マ・ヨンウン) 
           
●インドネシアへの原発輸出に関して・・・・政府等への要請書   
       
●新潟地震で揺れる原発安全 (チェ・スーシン)  

●原発モンスターと20年間戦った男 ―塩寮反核自救会会長・呉文通―

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