ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.60 より

  危険で無責任な台湾への原発輸出に反対する!
         2.17 政府との話し合い


 台湾に対する原子力発電設備の輸出許可について、昨年7月には大島令子衆議院議員、12月には北川れん子衆議院議員が質問主意書を提出し、それぞれに対して首相名による答弁書が寄せられた。
 答弁書の内容には、事実に相違している部分や矛盾する部分があった。そして、なによりも昨年東電などで応力腐食割れによる損傷が明らかになったものと同じ鋼材を使った原発を台湾に輸出しようとしていることを追及するため、2月17日、衆議院議員会館会議室で1時間半にわたって、政府と話し合いを行なった。
 政府側は、経済産業省、外務省、原子力委員会の関係課担当官。私たちの方は、北川議員、海渡弁護士、柳田(たんぽぽ舎)、北野(反原労)、安達(日消連)、堀口、宮嶋。
 以下、私たちの質問と政府の回答である(抜粋、要約)。

Q.私たちは、昨年9月末台湾でアジア各国の反原発運動家とともに国際フォーラムを行なった。そこで大きくとりあげられたのが、日本の原発の損傷隠しと、その危険な原発をなぜ台湾に輸出しようとするのかということだった。台湾の人々の強い不安を代弁して聞きたい。
 輸出する原子力施設の安全確保について、首相の答弁書では「安全性の確保は管理、運転する国が責任を負うべきことである。輸出許可の審査対象ともしていない」と述べている。
 ところが、日本の原子力施設の輸出を国の政策として決定した原子力委員会の『原子力国際協力のあり方および方策について』では「わが国から原子力関連資機材の輸出を行なうにあたっては・・・・輸出機器の品質確保や当該機器などの保守・補修・・・・を適切に行なっていくことも供給者の義務である」と述べている。わが国からの資機材の輸出にあたっては「核不拡散や安全確保などの観点からの所定の審査」などと安全確保の審査を前提とした文言も書かれている。
 このような規定から答弁書は逸脱しているのではないか。

経済産業省.世界の共通認識として、運転管理国が責任を負うことになっている。安全確保についてはメーカーを通じて考えを伝えている。

Q.「運転管理国が責任を負う」とは原子力安全条約によるのだろうが、台湾は条約の締結国ではない。しかも、設計ミス、製造・建設上の不備など輸出側が責任を負うべきことについてどうなのか。

経済産業省.それらの具体的問題については企業当事者間の契約による。政府は関係ない。

Q.輸出を許可するのは政府の権限だ。もし事故が発生すれば膨大な損害賠償問題となる。国際問題ともなる。政府は無関係として済ませられないはずだ。
 首相の答弁書では「原子力発電施設で使用される資機材の安全性については、台湾当局が責任をもって判断すべきものと考える」と述べている。ところが経済産業省は、日本国内で発生した鋼材の材質が原因と思われるひび割れについては、沸騰水型炉すべての当該部品について亀裂の有無の検査を命じ、危険防止対策を取るように指示している。
 質問主意書にあるとおり、シュラウドの鋼材SUS316Lでも応力腐食割れが発生したことは最近になって確認されたものであり、メーカーと運転者が隠していたため、台湾当局は安全審査では知ることができなかった。台湾当局が責任をもって判断すべきであるとしても、それは不可能であった。日本のメーカーと運転者、それらを監督し、安全性確保に責任を負う日本政府だけが認識できる立場にあった。
 損傷を起こした鋼材を使う原子炉の輸出は、安全性が確認されるまで中止すべきと思うがどうなのか。

経済産業省.安全性については台湾が責任をもつことなので、輸出中止の予定はない。鋼材の安全性についても台湾が検討し、決めることである。

Q.では、ステンレス鋼材の材質問題を台湾に通知したのか。

経済産業省・外務省.
政府としては通知していない。

Q.輸出側としては当然通知すべきことだ。原子力委員会の見解にたてば、そのような欠陥ある機材を輸出することは、日本の義務違反となり、将来重大な責務が発生する可能性がある。
 安全性を国民に保障し、対外的にも安全確保を強調している監督官庁がそんな無責任なことで許されると思うのか。「安全のワンセット供給」と国内、国外に向かって主張し、「安全確保を前提に輸出を許可する」としか判断できないような認識を内外に与えながら、実際には「責任はない」「安全確保は運転国の責任である」という日本政府の態度は輸入側が許さないだろう。
 
核拡散防止条約関係について

Q.
首相の答弁書では「本件原子力設備の詳細を開示しなくとも核兵器不拡散条約上特段の問題はない」として、輸出する原子力設備の詳細はおろか設備内容そのものについて何ら明らかにしていない。
 核不拡散条約と関連する諸法規は設備・資材について規定しているが、政府はそれらについて明らかにすることなしに、どのようにして核不拡散条約に違反しないことを証明することができるのか。

経済産業省.大項目では回答している。

Q.米国務省からの口上書の「万一、国際原子力機関による保障措置が適用されない場合、米国政府が日本政府と協議する」という文言を、首相答弁書では「米国が保障措置の確保に責任を持つことを約束した」とする根拠はなにか。

外務省.口上書の前段で国際原子力機関の保障措置が適用されることを確認している。後段の保障措置が適用されない場合というのは、たとえばIAEAがなくなった場合、臨時措置の必要だが、そのときには協議するということで、前段を否定するものではない。

Q.時の経過とともに文言の解釈が変わることもあり得るのではないか。

外務省.解釈は変わらない。

(まとめ:宮嶋信夫)


政府との話し合いに出席して

 まず第一に感じたことは、国・原子力委員会は安全な原発を輸出すると宣伝しながら、実際のところは何もしていないということが白日のものとなったと思います。応力腐食割れで動かせなくなっている原発を台湾に輸出する際に、何の安全性の検討もいらないと言う鉄面皮には驚きました。
 この事実を台湾の仲間に正確に伝えなければならないと思います。日本のメーカーが法律的に製造物責任を負う可能性があるのかどうか、その責任をカバーする保険が付けられているかどうかなどは政府の責任で検討しておくべきことではないでしょうか。
 第二に核拡散の問題についても、きわめてあいまいです。台湾に対するIAEAの保障措置が確保される法的な枠組みは存在していないと言わざるを得ません。現在の台湾の政府が核武装の意図を持っているとはいえないと思います。しかし、日本政府の幹部の発言などを見ていると、北朝鮮の核開発計画に関連して、いつ日本自体の核武装計画が浮上してきてもおかしくないような政治情勢になっています。台湾についても中国との緊張が激化したときには、核武装の計画が浮上してこない保障はないのです。
 あらためて、台湾への原発輸出の危うさを実感しました。(海渡雄一)


 経済産業委は、「メーカーは責任の範囲は知っていると思う。契約書は見ていない。個別のことまで踏み込むものではない。口出しできる法律はない。みなさんがやってください」。
 原子力委員会は、「SUS316Lのようなことは、原子力委員会の仕事の範囲じゃない」。
 外務省は、「国交がないということ。中国との関係があるので表立ってはできません。交流協会や関係協会を通じてであればやれるとは思うが」。
 このような回答でわかるように、原発輸出問題について、どの省も自分たちの仕事ではないと割り切っている。
シュラウドや配管のひび割れ問題が発覚しても、それらのことには一切影響されずと、以前の回答と同じである。
 「人間の信頼関係として、また隣国としてどうなんだ」とつめより、外務省から「自発的に、SUS316Lに関する政府の公式報告書を交流協会に手渡せるかどうか、内部で検討してみます」との回答を唯一、引き出せた。原発輸出について何らかの法整備が必要なのではないかと思った。
(北川れん子)


ノーニュークス・アジアフォーラム通信  No.60(2003.2.20) もくじ
                                        ー B5版 40ページー

● 危険で無責任な台湾への原発輸出に反対する・・・・政府との話し合い・・・・
(宮嶋信夫・海渡雄一・北川れん子)
● 台湾向け原子力発電設備の輸出許可に関する質問主意書と答弁書
(北川れん子・小泉純一郎)
● 東電不正事件の告発を受理・・・・台湾への原発輸出をゆるさない・・・・
(小木曽茂子)
● BWR・ABWRに共通する危険性
・・・・GE・日立・東芝の沸騰水型原発は欠陥商品・・・・
(菊地洋一)
● 台湾第四原発、バタフライバルブ22台に欠陥見つかる
(A.S)
● 韓国政府の放射性廃棄物管理施設候補敷地発表に対する声明書
(核廃棄場発表白紙化と核政策転換のための国民対策委員会)
● 2002年韓国反核10大ニュース
(キム・ナヒ)
● タイ・オンカラック原子炉計画とコバルト被曝事故についての続報
(細川弘明)
● ロシアが、核燃料製造・再処理施設「マヤーク」を稼動停止 
(シカゴ・トリビューンより)
● 台湾蘭ユ島・核廃棄物貯蔵所の移転問題 顛末記    
(墨面)
● イラク戦争に反対する声明
(劣化ウラン研究会)
● 韓国政府の北朝鮮軽水炉支援計画変更要求提案書
(ソク・クァンフン)

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