ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.137より

中央が、先月来日し「原発を輸出しないで」と訴えたヴァイシャリさん。12月12日、原発予定地ジャイタプールで日印原子力協定への抗議行動が行なわれた。約2000人が結集し、自発的に逮捕される非暴力直接行動によって、1000人以上が逮捕された。とくに女性たちの存在感が大きく、皆が「安倍は帰れ!」のスローガンを叫んだ。


インドに原発を輸出しないで!


ヴァイシャリ・パティル

「インドへの原発輸出反対! 日印原子力協定阻止キャンペーン」大阪集会(11月23日)、東京集会(25日)でのスピーチより

*ヴァイシャリ・パティルさんは、マハラシュトラ州のコンカン地域で23年間以上にわたって活動している草の根運動の指導者。ジャイタプール原発建設計画に反対して長い草の根キャンペーンを実施。彼女はまた、CNDP(核廃絶と平和のための連合)と、NAAM(反核運動全国連合)の活動的なメンバーでもある。

■ まだ幼い子どもだったころから、日本は私にとっていつか行ってみたいあこがれの国でした。多くのインド人にとっても、日本は技術力が高く、科学が進歩して、まさに先進国というイメージです。このたび初めて来日することができて、私の夢がかないました。それと同時に、福島を訪問したことで日本に対する印象も少し変わりました。

 まずは私のことを紹介したいと思います。出身はマハラシュトラ州のコンカン地方です。生物多様性のホットスポットであり、西ガーツと呼ばれる美しい地域です。インドのカリフォルニアとも呼ばれています。この地域は、東には西ガーツ山脈がそびえ、西にはアラビア海が広がっています。

 世界的に見ても生物多様性の豊かさが群を抜いている地域なのですが、この場所には今、さまざまな開発プロジェクトがひしめいています。石炭火力発電所、ボーキサイト鉱山計画、石油化学コンビナートをはじめ、さまざまな経済拡張計画が開発の名の下に行なわれようとしています。しかし地域の人々は、これはいったい誰のための開発なのか、開発で利益を得るのはいったい誰なのか、と問い続けています。

 フランスのアレバが建設することになっているジャイタプール原発も、この地域で計画されています。6基で990万kWという世界最大規模の原発建設計画を前にして、人々は心配しているし、怒っています。ジャイタプールで予定されている炉型はEPRタイプです。この炉型の原発は世界のどこでもまだ運転されていません。自分たちが実験台にされるような怒りと不安を感じています。そして、ジャイタプールは、地震の多い地域なのです。

■ 非常に深刻な問題の一つは、インドではイギリス統治時代から存在する法律によって、民間の土地を収用する権利が政府に与えられていることです。農民の同意なしに政府が強制的に土地を取り上げるこの土地収用法によって、すでに900ヘクタール以上の耕作地が接収されてしまいました。

 民衆の反対運動は激しく、周辺の20以上の村の議会がそれぞれジャイタプール原発建設に反対する決議を出しています。しかし政府や警察は人々に激しい圧力をかけています。

 2011年3月に原発事故が日本で起きたとき、ジャイタプール周辺の漁民たちは何日間も漁に出ず、事故を報じるテレビのニュースを見ていました。放射能汚染が心配だったし、いつか同様の事故がこの村で起きるのではないかと大変な不安を感じたのです。この地域には学歴のない人たちが多く、字が読めない人たちもいます。しかし彼らは福島原発事故の後、誰もが日本の場所や福島事故の原因や原発の問題点を理解するようになりました。

 州政府の役人たちは、ジャイタプールの人々が原発建設に同意するよう、補償について話し合うために何度も村を訪れています。業を煮やして役人が「どんな補償パッケージがあれば納得してくれるのですか?」と問うたところ、一番前にいた女性がこう言いました。「原発事故が起きれば海が汚染されてしまうのでしょう、事故が起きなくても温排水が大量に排出されるのでしょう、だったら、もうひとつアラビア海を作ってください、そうしたら同意します」。ジャイタプールの運動では、いつも女性たちが最前線にいます。

 州政府が原発推進の教科書を使うことを義務づけたときには、こんなできごともありました。教育によって新たな世代を原子力に導こうと、「原発は化石燃料と違ってクリーンでグリーンなものである」という記述がある教科書でした。教師がそれを教えたところ、子どもたちがストライキを起こしたのです。子どもたちは、「お母さん、私たちの先生はうそを言っていますよ。原発がクリーンでグリーンだというのです。ウソを教えるような学校には行きたくない」と言って、80の学校で子どもたちが3日間にわたって登校をボイコットしました。州政府はやっと3日目になって「子どもたちが学校に行かないのはよくないので、この教科書を義務づけるのはやめる」と発表しました。6歳から16歳までの子どもたちがストライキをやったのです。メディアでも大きく取り上げられました。

■ このたび私は福島を訪問して、いかなる教科書でどれだけ時間をかけても学ぶことができないことを学ぶことができました。富岡町に行ったとき、そこは静寂に包まれていました。とても不思議な風景でした。町の中に、誰もいません。道があるのに、誰も歩いていない。店には商品があるのに、買う人も売る人もいない。ホテルもあり、駅もあって、街並みはそこにあるのに、誰も住民がいないのです。このような風景は、自分の人生ではいまだかつて見たこともないし想像したこともありませんでした。

 車の中では、ガイガーカウンターがピーピーとなり続けています。私は生まれて初めて線量計を見ました。これがインドで起きたらどうなるのでしょうか。インドでは圧倒的な貧困の問題があります。もしも原発事故が起きて食べ物が汚染されたら、それが放射能に汚染されているとわかっていても、人々は空腹ならそれを食べるでしょう。

 牧場にも行きました。そこでは、死んでしまった牛の骨を見ました。まだそこで生きている牛も、とても弱っているように見えました。もしもこうした事故がジャイタプールで起きたら、いったいどうなるのか。人がたくさんいて活気に満ちたあの町が、このように人っ子一人いない場所になるのか。福島で見た風景とジャイタプールの風景を重ね合わせて考えてみたとき、居ても立っても居られない気持ちになりました。

■ 現在のインドの政府は、穀物や野菜など農業に対する補助金や、基本的な社会的なサービス、たとえば健康保険などの予算を削減しています。貧しい子どもたちのための教育や福祉のお金も減らされています。にもかかわらず、インドの首相は原子力に大金をつぎ込もうとしているのです。

 私たちはアメリカとインドの原子力協定に反対しました。私たちはフランスとインドの原子力協定に反対しました。そして今、日本もインドとの間で原子力協定を結ぼうとしています。大量の外国製の原発が建設されようとしている状況を作っているのが、アメリカやフランスだけではないと私たちは気づき始めました。日本もそうなのです。

 しかし私たちは理解しています。日本の人々は、そんなことを望んではいません。日本政府には、インドを商売の相手として考えるのではなく、この地球で共に生きる人々が暮らしている場所なのだということを認識してほしいです。

 インドはガンジーの国です。非暴力の思想の国です。私たちは、広島、長崎、福島で起きたことによって、日本の人々にとても共感し、みなさんをとても身近に感じています。みなさんがどんな言語を話し、どんな宗教を信仰し、どのような文化的背景を持っているかにかかわらず、私たちはみなさんをとても親しい兄弟のように感じていたのです。心の中では親近感を持っていたのです。

 現在インドにある8つの新たな原発建設計画のうち3つに日本政府と日本企業が関わっています。日印原子力協定は、私たちにとって大変な問題です。日本は、広島、長崎、そして福島を経験しました。だから私たちの気持ちを理解してもらえるのではないでしょうか。

 今回、日本外務省との交渉に臨んだ際には、大きな希望を持っていました。原爆投下と原発事故を経験した国なのですから。外務省には、私たちはインドの民衆の立場から問題点を話しました。しかし、外務省の答えは信じがたいものでした。「ジャイタプール原発は平和利用のためのものです、日印協定も平和利用のためです、NPTに参加していなくても問題はありません」という立場です。インドにおいて長年、反対運動が続けられ、その中で多くの住民が警察にたいへんな弾圧をされ、何人も死者が出ていることも伝えましたが、外務省は「何があろうと、それは私たちとは関係ありません。それはインドの内政問題です」と言ったのです。原爆を投下され、福島を経験した国の役人が、いったいどうしたらそのようなことが言えるのでしょうか。
 
■ 本当にインドの国民のための開発を応援したいのであれば、日印の連帯を図りたいのであれば、この原子力協定はいりません。エネルギーは原子力ではなく再生可能エネルギーにシフトする方がよいのです。私はこのたび期待に満ちて、日印の市民が共有できる空間を持ちたいと思ってここに来ました。外務省との交渉の際に、私は役人の方々にこう言いました。「インドを商売の相手として見るのではなく、人間としてみてほしい」と。外務省との会合が終わったときには、なんだか悲しくて顔面蒼白になっていました。

 しかしこの会場に来てみなさんの顔を見て、また希望が見えてきました。日印原子力協定は12月12日に締結されるかもしれませんが、日本国民がこれを放置はしないでしょう。マスメディアも声をあげるだろうし、みなさんも黙ってはおかないでしょう。

 どうか立ち上がって、日本政府に対して、これは公平ではない、こんなことはフェアではないと伝えてください。国会議員にも伝えてください。こんなことは許されないと。東芝、日立、三菱の株主たちにも伝えてください。こんなことは受け入れられません、と。そしてインド人も人間です。日本の人々と同じように、この地球で平和に暮らしたいと思っているということを日本の人々に伝えてください。静かに待っているだけではいけません。みんなに伝えてください。

 ここで自信をもってみなさんと確認したいと思います。インドの国民、日本の国民として、こうして集まって話をして、日印原子力協定を絶対に通してはいけないと思います。核のない世界を、ここからスタートしましょう。ここから、新たな世界の歴史を、みなさんと作っていきたいです。
 一緒にがんばりましょう!



<質疑応答>
 原発は論外ですが、石炭火力も問題があり、再生エネルギーに向かうべきでは。
 インドで農村地域に暮らす人々は、いまだに電気の恩恵を受けていない人が多いのです。20年前から、その状況はほとんど変わっていません。インドにおける電力問題は、発電量が足りないということではなく、エネルギーへのアクセス権が不平等だということなのです。インド政府の開発モデルですが、私たちの考える開発とは大幅に違います。インドは国土が広大で人口が多い。小規模で持続可能な発電が必要なのです。

 土地は簡単に取得されてしまうものなのでしょうか。
 イギリス植民地時代に作られた土地収用法では、政府は開発に適していると思われる土地を自由に取得することが可能になっています。最近は法律がどんどん政府側、開発会社側に都合のよい方向に変わってきています。すでに私たちは、モディ政権下で声をあげられないようになっています。また、インドの農民で土地を所有している人は少数です。土地を持っている人たちだけが補償金をもらうのです。土地を持っていない人にはなんのお金も入りません。そこが日本とかなり違うところです。

 現地で何が起きていますか?
 政府からどのような抑圧があるかを語りだしたら、一晩あっても時間がたりません。一つの事例は私のことです。私は2009年から2015年にかけて、原発についてジャイタプール地域で運動に関わってきました。その間に、県知事から、私のジャイタプール地域への立ち入りを禁止する命令が出されるということがありました。「お前が来ると、人々がたくさん集まってくる。お前はジャイタプールにやってきて原発の危険性について虚偽のスピーチなどをして人々を惑わせる。原発反対の意思がたきつけられ、人々が激しく抵抗し始めてしまって、収拾がつかなくなる。だから立ち入り禁止とする」。それが彼らの言い分でした。

 ジャイタプールに行くなら10日前に当局に申請をして許可を得てから、「誰と誰にどこで会う」などまで知らせておかなければなりません。とはいえ、私が入境を申請しても拒否されることも多いのです。インドのジャイタプールに、デリーやムンバイの人たちは入れないのに、フランスのアレバ社の人たちは入れる。それはとても不思議なことではないでしょうか。

 私たちの運動は、元最高裁判所判事、元州首相、元海軍総督などの人々も支えてくれています。法の厳しい網の目の中ですが、これまでもこれからも運動は続いていくと思います。

 しかし、私たちは運動を行なうことが難しくなっています。デモは警察の許可を得なければできませんが、警察は許可を出さないのです。クダンクラムの例でいうなら、何千人の村人が許可なくデモなどを行ない、いくつもの罪状で訴えられることになりました。さらに、クダンクラムの指導者のウダヤクマールさんに対しては、外国に行ってインドの原発について話さないように、パスポートを取り上げるということが行なわれています。私のパスポートも、更新ができないのではないかと危惧しています。

 中央政府は非常に厳しい反原発運動対策を行なっています。とくにNGOを狙って、「外国から不正に資金を得ている」「正式な許可を得ていない」などの言いがかりをつけ、グリーンピースでさえ活動が難しくなってきています。

 インドの社会はとても硬直化しています。反原発は反国家であるとの考え方で、私たちは国家の発展を阻害する人間とみなされています。

 関連するNGOが、私たちのサポートをしたために外国送金が受け取れなくなってしまうなどの嫌がらせを受けたりもします。スンダラムさんが働いているCNDPでも、NGOの許可証がキャンセルされることになりました。

 みなさんご存知かもしれませんが、福島のお母さんや農民が急にビザをキャンセルされたり、日本の活動家が空港まで来たのに国外退去させられたりしています。あるいは外国の地質学者がマハラシュトラの地域の地震についての調査をしようとビザを持ってムンバイに到着したのに、国外退去となりました。インドの民主主義はこういう形になっています。インド政府はインド国民だけでなく、海外の活動家や学者に対してもこのような行動をとっています。

 今回はこのように大っぴらにさまざまなことをみなさんに話しましたが、もしかしたら自分はもうインドから出ることができなくなるのではないかという不安があります。でもこの機会に、事実をぜひとも伝えたいと思いました。

 反原発運動とカーストの関係は?
 農民、漁民による原発反対運動が始まったころ、都市部に暮らす上位カーストの人たちは、これは自分たちには関係ない問題だと思っていました。しかしついには、放射能はどんなカーストの人間にも無差別に降り注ぐということがわかり、彼らも参加してきました。反原発運動は、カースト制度による分断が存在しなくなった数少ない運動かもしれません。


演説しているのが、ヴァイシャリさん

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ノーニュークス・アジアフォーラム通信
No.137 もくじ
 (15年12月20日発行)B5版20ページ

●ジャイタプールで日印原子力協定への抗議行動

●インドに原発を輸出しないで!(ヴァイシャリ・パティル)  

●共同声明:日印原子力協力協定の「原則合意」に断固抗議する 

●広島・長崎両市長の要請文  

●日印原子力協定に反対する国際アピール

●日印原子力協定締結反対に向けたこの間の活動(松久保肇)  

●燎原の炎の如く反原発のうねりを(木原壯林)       

●日本げんぱつ無責任発言大賞                

●尊敬するアジア反核のみなさんへ(宇野朗子)        

●東京電力原発事故から四年九ヶ月(森園かずえ)       

●仏陀はまだ微笑んでいるか(深草亜悠美)          

●インド・ジャイタプール;終わりのない闘い(4) (シャムシェル・ユサフ、モニカ・ジャー) 

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