ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.137より
日印原子力協定「原則合意」を許さない!

12月11~13日、各地で抗議行動。ジャイタプール、ミティヴィルディ、コヴァーダ、クダンクラムなどの原発予定地や原発現地、デリー、ムンバイ、チェンナイ、コルカタ、バンガロールなどの大都市。他に、イスタンブール、東京、ロンドン、ニューヨークや、オーストラリアなどでも。

12月12日、原発予定地ジャイタプールで日印原子力協定への抗議行動が行なわれた。約2000人が結集し、自発的に逮捕される非暴力直接行動によって、1000人以上が逮捕された。とくに女性たちの存在感が大きく、皆が「安倍は帰れ!」のスローガンを叫んだ。演説しているのは、先月来日し「原発を輸出しないで」と訴えたヴァイシャリさん

共同声明:日印原子力協力協定の「原則合意」に断固抗議する

 インドを訪問した安倍晋三首相は、2015年12月12日にインド政府のナレンドラ・モディー首相との首脳会談後、共同声明を発表した。

 懸念された「日印原子力協力協定の調印」には至らずとも、「協定は合意に達した」ことが明言された。しかし、日本政府側が求めて続けてきたとされる「再核実験時における協力停止」や「使用済み核燃料の再処理容認」問題などについては、何らの明記もない。

 インドは、核拡散防止条約(NPT)に加盟しないまま2度の核実験を続け、さらに核兵器増産をめざしている。今回の実質合意により、ヒロシマ・ナガサキでの被爆を経験した日本が、あたかもインドを正式な六番目の「核兵器国」として容認することになる。それは、戦後70年一貫して「核兵器廃絶」を外交の柱とした日本が、NPT体制を崩壊させる重大な政策転換である。

 基本合意が、核廃絶へ向かう国際社会での多くの人びとの努力を踏みにじることは明らかである。安倍総理の訪印直前の広島市長と長崎市長の連名による「協定交渉の中止要請」も完全に無視され、広島県選出の岸田外相の責任は重大である。

 また、東京電力福島第一原発の事故が収束しておらず、多くの被害者が未だに苦しんでいるさなかに、他国への原発輸出を拡大して原発産業の延命を図ろうという姿勢は、きわめて非倫理的である。このような日本による国をあげての原発輸出政策には、国際的に厳しい批判が続いている。インドでは、政府による厳しい弾圧にもかかわらず、原発計画に対して地元住民が幅広い反対運動を展開している。

 今回の首脳会談と同時に、日本各地だけでなく、インドでは首都デリーと原発建設計画予定各地の住民、ロンドン、ニューヨークなどでも大規模な反対運動、そして国際署名が展開された。

 世界の人びとは日本に対して、「インドへ原発を売るな!どこにも売るな!」と呼び続けている。

 安倍政権の金儲けのための「原発輸出」と「核不拡散政策の転換」について、私たちは強く抗議する。そして、正式調印阻止へ向けて今後も闘うことを表明する。

2015年12月14日
コアネット、ノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパン、ピースボート、原子力資料情報室、ピースデポ

広島・長崎両市長の要請文

       平成27年12月9日
内閣総理大臣 安倍 晋三 様
外務大臣 岸田 文雄 様
      広島市長 松井 一實
      長崎市長 田上 富久

 インドとの原子力協定交渉の中止について(要請)

 今週末に予定される安倍総理のインド訪問において、我が国とインドとの間での原子力協定について、妥結に向けた動きがあるとの報道がなされています。

 経済分野や安全保障分野において、インドとの良好な関係を構築することは重要であることは言うまでもありません。しかし、この協定は、核物質や原子力関連技術・資機材の核兵器開発への転用の懸念を生じさせるものであり、広島・長崎の被爆者を始めとする多くの市民が核兵器を廃絶する上での障害となりかねないものと考えています。また、我が国は、NPT(核不拡散条約)非締約国に対して非核兵器国として早期かつ無条件での加入を要請している立場にありながら、この協定についての交渉を行うならば、自らがNPT体制の空洞化を招くことになりかねません。

 日本政府におかれては、これまでも被爆地から繰り返し行ってきた協定締結に向けた交渉中止の要請を今一度、想起していただき、ヒロシマ・ナガサキの思いを真摯に受け止め、交渉を中止するよう強く要請します。

日印原子力協定に反対する国際アピール
https://goo.gl/1uO7Yn

日本国総理大臣 安倍晋三様

 私たちは、貴方のニューデリー訪問時に署名されると伝えられる、日印原子力協力協定の締結に強く反対します。

 この協定を締結すれば、これまで核廃絶を繰り返し提唱してきた被爆国日本が、核不拡散条約や包括的核実験禁止条約に加盟する意思もなく、核軍拡をつづけるインドに、原発・原子力技術を輸出できることになります。今年は被爆70年にあたりますが、核不拡散条約運用検討会議は最終文書に合意すること無く終了しました。このような状況下で、この協定を締結することは、世界ならびに日本の核廃絶の努力に致命的な影響を与えるのではないかと私たちは懸念しています。

 また現在、インド政府は原子力発電所に懸念を持つ地元住民などを弾圧しています。原発は繰り返し深刻な事故をおこしており、地元住民が原子力発電所の安全性に懸念を持つのは当然です。そのような懸念を力で抑圧しようという政府の姿勢は、まさに非民主主義的な態度だといえるでしょう。日本がインドとの原子力協力協定を締結すれば、こうした非民主主義的な抑圧に日本が加担することつながります。

 日印原子力協力協定は極めて問題がおおく、締結するべきではありません。私たちは日印原子力協力協定を締結しないこと、交渉は中止することを、強く希望します。

呼びかけ団体:
【インド】CNDP(核廃絶と平和のための連合)、NAAM(反核運動全国連合)、PMANE(原発に反対する民衆運動・クダンクラム)【日本】ノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパン、コアネット、原子力資料情報室、ピースボート、ピースデポ、FoE Japan【トルコ】シノップ反原発プラットフォーム【韓国】エネルギー正義行動、脱核新聞【台灣】台灣環境保護聯盟、綠色公民行動聯盟、地球公民基金會、台灣和平草根聯盟【フィリピン】非核フィリピナス【インドネシア】 反核市民連合、

*極めて短期間でしたが各国語で計3528名の賛同署名が集まりました。ありがとうございました。

日印原子力協定締結反対に向けたこの間の活動

松久保 肇
(原子力資料情報室 国際担当)

■ 日印原子力協定阻止キャンペーンとその他の反対行動

 日印原子力協定に調印することが見込まれた12月の安倍首相の訪印を前に、日本のNGO16団体
1)からなる日印原子力協定阻止キャンペーンは、ヴャイシャリ・パティルさん(ジャイタプール原発反対運動の指導者)とクマール・スンダラムさん(CNDP:核廃絶と平和のための連合)を招き、11月23日大阪で集会、25日東京で集会と外務省交渉をおこなった。

 11月25日の外務省交渉では、事前に提出した「日印原子力協力協定を締結するな」とする要請と、核兵器を保有し、核不拡散条約(NPT)に加盟していないインドとの原子力協力協定の締結は、日本が外交の基本軸とするNPTを揺るがすものとなり、また、核拡散や核軍拡競争につながりかねないという趣旨の質問書に沿って質疑をおこなった
2)。これに対し外務省側は、異論があることは承知しているが、インドの重要性を鑑みて原子力協定を締結する方針で検討しているとの回答に終始した。

 また、交渉の場では、外務省に対してヴァイシャリさんとクマールさんから直接英語で、インド民衆からの声を伝えてもらった。ヴァイシャリさんは、フランスのアレバが建設し、日本の三菱重工が協力すると見られるジャイタプールの人々の声を代弁して原発がもたらす様々な問題を指摘し、インドを原発の輸出市場として見るのではなく、人間としてみて欲しいという訴えを、またクマールさんは、地政学的な観点から、むしろインドは核軍拡にむかっており、この協定は、核不拡散条約にたいして終末的な危機をもたらすということを指摘し、インドの人々がこの協定に反対していることを外務省に伝えた。これに対し、外務省側は、現地住民の声は初めて聞いた、現地の思いを踏まえて仕事をしたいとコメント。さらに私たちは、インドで住民の反対運動に対する弾圧で死者が出た場合、原発事故があった場合、どうやって責任を取るのかを確認したところ、一義的にはインドの国内問題であるという回答があった。

 また、12月1日の訪印日程発表を受け、キャンペーン団体有志により、日印原子力協定に反対する署名活動を開始、訪印前日の10日に1,693名分の署名を提出した(現在も継続中)
3)。加えて、日印首脳会談がおこなわれた12日には、日印のみならず世界各地で日印原子力協定締結反対行動がおこなわれた。

■ 12月日印首脳会談とその評価

 活発な反対運動が展開される一方、12月12日におこなわれた日印首脳会談では、日本側はインドの核実験の自発的な休止を評価し、「核兵器のない世界」の実現という目標をインドと共有していると述べ、さらに、NPT普遍化,包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効、核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の早期交渉開始についての対話を続けていきたい旨を表明した。その上で発表された共同声明では、日印原子力協定について「両国政府間で合意に達したことを歓迎し、必要な国内手続に関するものを含む技術的な詳細が完成した後に署名されること」が確認された。さらに、日印原子力協定にかんする了解覚書(MoU)が締結された。

 しかし、インドは11月25日の交渉で外務省も認めたとおり、NPTに加盟するような状況にはない。また核兵器の近代化を推し進める核軍拡国でもある。さらに、核実験の停止についても自発的な休止であるということにこだわり、国際社会の制約に強硬に反発してきた歴史がある。とうてい「核兵器のない世界」の実現という目標は共有されていない。

 インドは民生用と軍事用の原子力施設を分け、日本から輸出される原子力資機材は民生用に限定されるとしている。また日本側はインドが核実験を実施した場合、協力を停止する方針であるとしている。しかし、民生用核物質・技術の軍事転用をどのようにして防止するのか、そして、核実験が実施された場合、どのように協力を停止するかは明らかにされていない。たとえばインドは、カナダと米国の協力で建設・運転されていたサイラス原子炉から取り出した使用済み核燃料を利用して1974年の核実験をおこない、さらに、両国の協力が停止した後も、サイラス原子炉を利用して核兵器用の核物質を製造していたという経歴の持ち主だ。このような状況の発生をどのようにして阻止するのか。

 共同声明は「民主主義,寛容,多様性及び開かれた社会の理想へのコミットメントを共有」していると謳うが、今、インドでは原発反対運動にたいする政府による時には暴力も伴う強硬な抑圧がおこなわれている
4)。日本がインドと原子力協力をおこなうということは、インドを核兵器保有国として認め、核軍拡を容認することに繋がるのみならず、インド政府による原発立地地元住民にたいする抑圧にも加担することに繋がる。

 また、インドでは多数の原発新設計画が存在しており、複数の計画で海外の原発メーカー製の原発が導入される見込みだ。つまり、この協定を締結させることは、原子力産業に原発の輸出先を与え、延命させることにも繋がる。

 断じてこの協定を締結させてはならない。ぜひ日印原子力協定に反対する署名活動に協力頂きたい。

1) 国際環境 NGO FoE Japan、原子力資料情報室、原水爆禁止日本国民会議、グリーンアクション、反核世界社会フォーラム 2016 日本準備会、平和と民主主義をめざす全国交歓会、美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会、ノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパン、ピースボート、NPO 法人ピースデポ、戦略 ODA と原発輸出に反対する市民アクション(COA-NET)、「しないさせない!戦争協力」関西ネットワーク、ストップ・ザ・もんじゅ、たんぽぽ舎、とめよう原発!!関西ネットワーク、若狭連帯行動ネットワーク
2)事前提出した質問書:http://www.cnic.jp/6777
3)署名サイト:https://goo.gl/bW7SKz
4)たとえばインド内務省情報局が発表した資料:http://www.pratirodh.com/wp-content/
uploads/2014/06/IB-Report-NGO.pdf


ボパールで作られたポスター

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ノーニュークス・アジアフォーラム通信
No.137 もくじ
 (15年12月20日発行)B5版20ページ

●ジャイタプールで日印原子力協定への抗議行動

●インドに原発を輸出しないで!(ヴァイシャリ・パティル)  

●共同声明:日印原子力協力協定の「原則合意」に断固抗議する 

●広島・長崎両市長の要請文  

●日印原子力協定に反対する国際アピール

●日印原子力協定締結反対に向けたこの間の活動(松久保肇)  

●燎原の炎の如く反原発のうねりを(木原壯林)       

●日本げんぱつ無責任発言大賞                

●尊敬するアジア反核のみなさんへ(宇野朗子)        

●東京電力原発事故から四年九ヶ月(森園かずえ)       

●仏陀はまだ微笑んでいるか(深草亜悠美)          

●インド・ジャイタプール;終わりのない闘い(4) (シャムシェル・ユサフ、モニカ・ジャー) 

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