死の火を消して
生命の火を生かすために


― YWCAキリスト女性の脱核運動 ―

イ・ユンスク(韓国YWCA)


       「核発電時代を終わらせ、太陽と風の国へ」

 今年6月12日、韓国で最も古い原発である「コリ1号機」の永久停止、すなわち閉鎖が決定された。この件を決める政府の「エネルギー委員会」が開かれたソウル・ロッテホテルの前に集まったYWCA活動家および全国の脱核運動家は大きな喜びの声を上げた。与党であるセヌリ党の議員の力が作用した決定ではあるが、これは事実上、今まで「老朽原発コリ1号機閉鎖運動」を展開してきた脱核市民運動が勝利した結果ということができるからである。

 とくに「コリ1号機閉鎖のための釜山汎市民運動本部」は、進歩あるいは保守という政治的指向を越えてコリ1号機の閉鎖に同意する市民の力を結集させ、与党であるセヌリ党を持続的に圧迫してきたが、その中心に立って最も積極的な活動をくり広げた組織が「釜山YWCA」であり、全国組織であるYWCAの脱核運動の役割も大きかったと評価されている。

 YWCAの全国52組織は、今年2月にコリ1号機の閉鎖を公約として掲げて当選したソ・ビョンス釜山市長に「コリ1号機の閉鎖のためのYWCA10万人署名」を集めて提出し、彼の公約の履行を強力に促し、全国的キャンペーンも展開して、「コリ1号機閉鎖運動」に力をつくしてきた。

 今まで、韓国の脱核運動は、主に原発周辺地域や核廃棄場処分場建設予定地の周辺地域の住民運動の性格が強かった。都市部の多くの市民の関心や支持を得ることはできていなかった。

 多くの市民の関心と支持を集めて成し遂げられた今回の勝利は、韓国の脱核運動の歴史において大きな出発点になったといえる。
 実は、韓国の脱核運動が地域住民運動を超えて、全国の多くの人々が参加する市民運動になった契機は、4年前の福島原発事故であった。YWCAが脱核運動を一番力を注ぐ重点運動に決めたのは、福島原発事故が他の国の事故ではなく、韓国でも起き得る恐ろしい災難であり、核の危険は、神様が創造された生命、すなわち創造秩序への脅威であると感じたためであった。

●「脱核・火の日キャンペーン」-核のない世の中のためのキリスト女性の叫び

 毎週火曜日の正午、明洞聖堂と向かい合っている韓国YWCAのビルの前にオレンジ色のパラソルと署名テーブルが設置され、オレンジ色のスカーフのYWCA会員たちが一つの心になって上げる「核のない世の中のための祈り」が始まる。「脱核・火の日キャンペーン」のオープニングだ。

 オレンジ色は、長い闇から再び浮び上がる太陽の色として希望の象徴でもあり、原発からの危険な死の火ではなく、神様がくれた生命のエネルギーである自然の火、お日様を象徴したものである。

 福島原発事故2周年の2013年3月11日に始まり毎週火曜日にくり広げられるこのキャンペーンもいつのまにか73回を越えた。この「脱核・火の日キャンペーン」は、全国52ヵ所のYWCAが各地域で多くの市民らとともに展開している。

 このキャンペーンを継続してきて、私たちは数多くの市民に会って色々な体験をしてきた。大型船舶事故である「セウォル号事故」が起き、生命よりお金、安全より利潤を追求する韓国社会の現状を深刻に考えるきっかけとなり、「国家は果たして国民の安全を保障することができるのか?」という疑問を国民に持たせた。多くの市民が、原発もセウォル号と同じ仕組みで、大きな犠牲のシステムのなかで稼動していることに目覚めて、YWCAの脱核キャンペーンに参加し署名したり支持し始めた。

 YWCAが毎週火曜日に終了時間を定めないでキャンペーンを展開する最も大きい理由は、悲惨な原発事故が目の前に起こらない限り、人びとは原発の危険性に無感覚になり、惨事を次第に忘れていくためである。原発というシステムの暴力とその危険を知らせて、そして原発のない世界が可能であるという信念を広めることは、原発事故の凄じい被害が「忘れられること」を望む「忘却の政治」と絶えずたたかうことである。

 あらゆるものを飲み込んでしまう真っ黒なツナミとあえなく爆発する福島原子力発電所1、2、3、4号機、破壊された家、あらゆるものを失って茫然自失する人々…。4年前に見たこのすべての衝撃的な映像は、いま平穏日常をくり返す多くの人々の記憶からだんだん消えていく。

 放射能に汚染された日本産水産物の輸入問題は事故の深刻性を日常的に喚起しているが、私たちが生きるこの土地が原発密集度世界1位であり、閉鎖が決定したが2017年停止時点まで稼動するコリ1号機の30km半径の中に釜山、蔚山(ウルサン)市民370万人以上が生きている事実には相変わらず鈍感である。稼動期間をさらに10年延長した「ウォルソン1号機」と核廃棄物処分場がある慶州(キョンジュ)一帯は、地震から決して安全でないとの事実に、韓国市民は無感覚になっていく。

 YWCAが「脱核・火の日キャンペーン」を続けていくのは、このような忘却と鈍感の日常に対抗するためである。キャンペーン場所である明洞は、民意を表してきた民主化運動の聖地であり今日大韓民国一番の消費中心地である。

 YWCAは今後もずっと毎週火曜日に「脱核・火の日キャンペーン」をくり広げて、「私たちが使う電気エネルギーがどのように作られているか」「それらが私たちの生活とどのように関連していて、また、どのように変えていかなければならないのか」、市民らと話して考えを交わす活動を続けるつもりだ。

 そして、「原発がどれくらい危険なのか」「原発のない世の中がどれくらい切実に必要なのか」、市民らに訴えて共感と理解を得ることを期待している。また、「原発のない世の中」は、不可能ではなく、私たちの手で作ることができるということがわかるように努力していく。

● 女性たちが率先して受け継いできた脱核運動

 YWCAがキリスト教女性運動団体として脱核運動を全国のすべての会員の重点運動として展開した原動力は「キリスト教の信仰人として、創造秩序を破壊する核を容認できない」ということや、「女性」としての経験が持つ「生命に対する感受性」であると言える。

 YWCAは今後も、キャンペーンをはじめとして、脱核市民教育、放射能から安全な学校給食条例の制定運動、エネルギー節約とエネルギー効率化運動、太陽光発電協同組合運動など、休むことなしに大衆的な共感と参加を貰って脱核運動を展開する予定である。

 そしてクリスチャン女性である私たちが「原発(核)のない世の中への希望」を伝える人々になり、同時に「日常の安楽のための忘却」を破って、神様がくれた生命を生かす番人の使命を遂げられるように祈って、努力していくつもりである。

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ノーニュークス・アジアフォーラム通信
No.135もくじ
(8月20日発行) B5版20ページ
●川内原発再稼働のその日(向原祥隆)
●再稼働阻止ゲート前行動(小川正治)
●川内原発廃炉へ向けて、まだまだこれから(高木章次)
●安倍晋三首相とナレンドラ・モディ首相への国際共同アピール 
「インドの使用済み核燃料再処理を可能とする日印原子力協定を締結するな」
(23か国、325団体)
●マレーシアで原発に対抗するシンポジウム(アイリーン・美緒子・スミス)
●死の火を消して生命の火を生かすために(イ・ユンスク/韓国YWCA)
●IAEAの素顔を福井の人たちに知らせ、原発をやめさせたい!(若泉政人)
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