ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.130より

 第16回ノーニュークス・アジアフォーラム in 台湾 
       
ダイジェスト
                       (渡田正弘・上関原発止めよう!広島ネットワーク)


                                         黒田節子さん

1.各国報告 ― 国際会議 (9月26日)

 各国の原発施設、反原発運動などの現状報告があった。

 まず、原子力資料情報室の松久保さんが日本の原発政策の現状と問題点を指摘、次に高木基金の水藤さんが原子力市民委員会について説明。
続いて韓国の状況報告。韓国には23基の原発があり、北朝鮮が核兵器を持ち、中国と日本に挟まれ危機感を持つ。核の事故があれば、被害は国境を越えて拡がる。

 台湾の原発と反対運動の状況は、環境保護連盟の施信民さんが説明。原発の占める発電量は全体の16.5%。第四原発建設反対運動は1985年よりスタート。原発建設の可否を決める公民投票実施を求める運動も林義雄氏を先頭に長年継続。紆余曲折を経て、今年4月の第四原発建設凍結へ至る。

 香港では、1980年代後半に近くの深圳市の大亜湾原発建設反対運動を行なったが成功せず。福島事故後、運動再開。中国国内での現在の原発建設ラッシュは大変危険と認識。

 フィリピンからは、エネルギー危機と継続的反原発運動の報告。バタアン原発稼働阻止の実績があるが、復活の動きに要注意。

 トルコでは、電力需要増加に対し原発建設で対応し、ロシアや日本からの原発輸出が推進されているので反対運動を展開。

 インドからは、夏に来日し日印原子力協定反対を訴えたクマール・スンダラムさんが報告。インド政府は経済発展名目で原発建設を推進し、激しい反対運動が起きているが厳しい弾圧下にある。西欧では脱原発に向かっているのにアジアへ原発を押し付けるのは不公平と訴えた。


                               クマール・スンダラムさん

 モンゴルからは、ウラン鉱山からの鉱滓・廃液等で住民や家畜に被害が続出していると報告。とくに、台湾・日本・韓国に対して、モンゴルからのウラン燃料を使用しないよう訴えた。

 最後に、原発に対する裁判の状況報告が台湾と韓国からあった。

2.放射能被害状況 ― 国際会議 (26日)

 最初に福島の黒田節子さんが、原発事故後の現状報告。健康被害、人々の「分断」、除染、汚染水、被曝労働などの問題点を指摘した。現在の再稼働の動き、ましてや恥知らずな原発輸出を厳しく批判し、叡智を結集しようと呼びかけた。
               
 続いて、全台湾での環境放射線調査(2013年)の結果報告。独自調査で54か所で0.3マイクロシーベルト/時を超えた。政府の原子力委員会の調査報告は疑問点が多いとのこと。

 また、使用済み燃料棒の貯蔵問題に関して。乾式貯蔵についての、政府機関による実験や審査等のプロセスがずさんで信用できない。利益追求を優先し、環境や人体への放射能汚染への配慮がない実態を批判。

 そして、ハードルが高く問題点が多い公民投票法。それに加え、台湾版ストレステストの不透明性など多くの問題点が指摘された。

3.しなやかな台湾版金曜行動 ― 自由広場 (26日夜)

 盛りだくさんの報告を受けたあとは、台湾版金曜行動が開催されている中正紀念堂の自由広場へ移動。簡易ステージで、歌、スピーチ、DVD上映など。本やTシャツなどのミニ売店もあり、気軽に若者カップルらが三々五々集まって、地べたに座っている。NNAF参加者用に簡易食堂が準備され、ビーフン等の夕飯を食べた。若者主体で自主的にセンス良く運営されるミニイベントの雰囲気で、とてもしなやか。もちろん、まわりに制服警察官は誰もいない。黒田節子さん他がアピールを行なった。

4.反原発運動の強化を ― 国際会議 (27日)

 2日目は台湾の様々な反原発運動団体からの報告が中心。反原発父親団体の人が司会をし、反原発の主婦団体、母親団体、教師団体、長老教会などからの活動報告があった。

 反原発運動の街頭行動で緑色公民行動連盟とともに中核を担う「地球公民基金会」の青年リーダー(20代)の報告が印象に残った。若い彼らは、大企業優先の法案成立に抗議し、3月に立法院占拠という大胆な行動に出た。この行動が市民の共感を得た後に、林義雄氏の断食を契機に反原発行動が全島的に爆発し、4月27日の台北駅前8車線道路占拠(5万人の市民が参加)に結びついた。この若者・市民による大きなうねりが、ついには政府から第四原発建設凍結表明を勝ち取った。若者の大胆かつ気概を持った行動を台湾社会各層の団体が下支えしている構造が報告から読み取れた。

 そして、第二原発の「環保連盟北海岸分会」と第四原発の「塩寮反核自救会」の地元住民団体からの報告が一番心に響いた。

 最後に、20年以上続く第四原発についての公民投票実現運動や署名運動の経過も報告された。

 声明文討議を行ない、来年のフォーラムはインドで開催することを決定し、会議は終了。

5.民主化運動資料館を見学 ~林義雄さんとの夕食会 (27日夕)

 海外参加者一行60余名はバスで宜蘭県へ移動し、林義雄さんの「台湾民主化運動資料館」を訪問。林義雄さんは、国民党の軍事独裁政権下にあった1970、80年代の民主化運動指導者の一人で、1980年2月28日に母親と双子の娘を惨殺される政治テロを経験。その苦難を踏まえ、奥さんと「台湾社会運動資料センター」「台湾民主化運動資料館」などを設立された。

 資料館では、日本の植民地支配下での抵抗運動から、日本敗戦後の国民党占領下での1947年の228事件(台湾人の知識人などへの軍事大虐殺)、1979年の美麗島事件(民主化運動への大弾圧)、さらに、戒厳令廃止から総統直接選挙の実施などの政治的民主化の進展過程を知ることができる。日本の人たちにぜひ1度訪問してほしい素晴らしい施設だ。

 夕食会には、林義雄さんご夫妻が出席され、とても有意義な時間が過ごせた。弁護士で4年間投獄された経験もある林義雄さんは寡黙なタイプであるが、彼の強い意志と行動力には誰も及ばない。それゆえ、人格者として国民的尊敬を集めている。彼には長い受難の歴史の中でも連綿と継承されてきた不屈の台湾人魂が生きているようだ。



6.第二、第四原発へ (28日)

 最初にバスで北部の金山にある第二原発(台北に最も近い)に到着。排水口のすぐそばまで普通に近寄れる。目の前で轟音を立てて大量の温排水が海に流され、塩素系の匂いがする蒸気がむっと顔にあたり、「え~!」とビックリ仰天。近くの看板には「激流に注意」としかなく、放射能に関する説明は一切なし。多くの重大事故を起こし、背骨の曲がった魚も多く見つかっているとのこと。


                                 第二原発と排水口

 次に第四原発に向かい、地元住民と食事をしながらの交流会。映画「こんにちは貢寮」にも出ている呉文通さん、楊貴英さん他のスピーチがあった。

 その後、原発正面ゲートに行き、抗議の声を上げた。この原発には日本から東芝製と日立製の原子炉、三菱重工製のタービンが輸出された。住民の激しい抗議を無視して搬入された浜は、日本が台湾を占領し植民地支配するために初上陸した浜で、抗日記念碑が建てられている。日本人としては心が痛む。


                                  第四原発正面ゲートで

7.蘭嶼島・放射性廃棄物貯蔵所 (29~30日)

 オプショナルで18名が核廃棄物貯蔵所のある蘭嶼島を訪問。28日夜に台東で宿泊し、翌朝、船で渡った。大揺れと強冷房で、私は船酔い状態。到着した桟橋には行楽帰りと思しき多くの若者たちが並んでいた。島では「蘭嶼部落文化基金会」の若き女性リーダーであるシナン・マビヴォーさんたちにお世話になった。

 海岸そばの貯蔵施設の中に入り、職員から案内・説明を受けた。「安全規則に従い管理中」と公式説明。海岸に沿ってずらりと保管されている広い施設を眼前に眺め不気味であった。津波が来たらひとたまりもない。参加者が持参した放射能測定器で測ると施設のすぐ側で0.16マイクロシーベルト/時。敷地内の他の場所と比べ明らかに高い。



 住民との交流会では、反対運動の映像報告、長老格の反核活動家による日本語スピーチなどがあった。活動資料によれば、1980年代に「缶詰工場を造る」とだまして工事が始まった。それに対し住民たちは、抗議デモやドラム缶を積んだ船の入港阻止行動を積み重ねてきた。増設計画は阻止され、1996年から新規搬入はない。そして、政府は貯蔵所(処分場)移転を約束したが、いまだ果たされていない。現在もドラム缶の腐食は進み、放射能排水の放流等のずさんな管理は改善されず、島民の発がん率や異常出産率は明らかに高いそうだ。

 島の文化資料館等も見学させてもらったが、日本人が1902年に貴重な文化財を持ち帰り、いまだ返還されず問題になっているとの指摘もあった。植民地支配の歴史をきちんと反省しないことを日本人として恥ずかしく思う。


         PA-1000 Radi 贈呈。右がシナンさん

 その後、蘭嶼部落文化基金会を訪れ蘭嶼の人々との交流が持たれた。蘭嶼の人々は自分で放射線量を測れる測定器がないということだったので、日本から測定に持っていっていたPA-1000 RadiがNNAFジャパンから贈呈された。           

補足:ランユ島へ行かなかった海外参加者は、29日午前、立法院(国会)で記者会見を行ない、午後は経済部(経産省にあたる)前での原発寿命延長反対アクションに合流した。


「八国反核團體參與亞洲反核論壇」 台湾公共TVのニュース(1分40秒)
https://www.youtube.com/watch?v=C_7zfAqdEMA

「福島的居民・・・」台湾の金曜行動での黒田節子さんのアピール(9月26日、自由広場、6分)
https://www.facebook.com/video.php?v=10204193435510140

「Taipei Times」英字新聞(9月30日)
http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2014/09/30/2003600939

「非核亞洲論壇」(9月26日、写真多数)
http://bit.ly/1tpTGSm

「記者会見」(9月29日、写真と記事)
http://www.pct.org.tw/news_pct.aspx?strBlockID=B00006&strContentid=
C2014092900015&strCTID=&strDesc=Y&strPub=&strASP=news_pct&v=1


とーちの台湾NNAF2014写真記録。本会議、第2そして日本から輸出された第4原発、さらに蘭嶼島の廃棄物貯蔵場、個人参加の香港の学生運動への連帯行動まで465枚。
http://www.StopNukes.org/strage/2014NNAF_Pictures.zip

「亞洲非核論壇落幕各国肯定台反核成果」NEWTALK新聞(9月29日)
http://newtalk.tw/news/2014/09/29/51928.html
「非核亞洲論壇 香港要求中国關閉鄰近核電廠」民報(9月29日)
http://www.peoplenews.tw/news/28f3827d-39e5-411c-91d8-3a780566dabb
「反核人士憂心」台湾醒報(9月29日) 
http://anntw.com/articles/20140929-oU9q


2014非核亜洲論壇 国際会議議程表

9月26日

【開会式】
司会:董建宏(台湾環境保護連盟事務局長)
[1] 劉俊秀(台湾環境保護連盟会長)
[2] 施信民(NNAF台湾召集者)
[3] 佐藤大介(NNAF日本事務局長)
[4] 来賓挨拶:呂秀蓮(台湾元副総統)
[5] 来賓挨拶:呉栄義(新台湾和平基金副代表)

【各国報告】
司会:王塗発(台湾環境保護連盟)
[1] 日本における原子力政策の現状:松久保肇
[2] 原子力市民委員会の目指すもの:水藤周三
[3] 韓国の現状:張時原(ウルチン郡議員)
[4] 台湾における原子力・再生エネルギーの現状および原発反対運動の動向:
施信民(NNAF台湾召集者)

司会:田秋堇(立法委員)
[5] 香港:譚棨禧(Hong Kong Alliance Against Nukes)
[6] フィリピン:Fernado Loreto(Nuclear-Free Bataan Movement)
[7] モンゴル:Selenge Lkhagvajav

司会:呂忠津 (台湾教授協会)
[8] インド:Kumar Sundaram
[9] トルコ:Seyfettin Atar
[10] 台湾における原発訴訟:蔡雅瀅(弁護士,台湾)   
[11] 韓国における原発訴訟:盧承鎮(弁護士,韓国)

【放射能汚染と被害に関して】
司会:頼偉傑(緑色公民行動連盟)   
[1] フクシマからの報告:黒田節子(原発いらない福島の女たち)
[2] 「台湾環境放射線量調査団」による全国調査結果発表:林瑞珠
[3] 使用済み燃料乾式貯蔵施設の問題点:賀立維(宜蘭人文基金)
[4] ストレステストとは何か:徐光蓉(台湾環境保護連盟)   
[5] 放射線による健康への影響:葉光芃(彰化キリスト教病院 産婦人科医師)

9月27日

【原発反対運動をいかに強化するか】
司会:李卓翰(パパ非核陣線)
[1] 核に反対するコンセンサスを国際で確立させる重要性:
金龍福(Asia- pacific Research Institute For Life,韓国)  
[2] NO!放射能、No!原発:陳曼麗(主婦連盟環境保護基金)   
[3] 子供の未来を守ろう 危険な原発を拒む:楊順美(ママ原発監督連盟)   
[4] 教師たちのとりくみに関して:詹政道(全国教師組合)

司会:劉志堅(台湾環境保護連盟副会長)   
[5] 台湾における原発反対運動の若者によるとりくみ:蔡中岳(地球公民基金会)
[6] 台湾における原発反対運動の宗教界によるとりくみ:林偉連(台湾長老教会総会)
[7] 台湾における原発反対運動の地元によるとりくみ:
呉文樟(塩寮反核自救会会長)
許富雄(環境保護連盟北海岸分会会長) 
[8] 国民投票に関して:
葉慈容(第四原発国民投票を促進する有志グループ「核四公投臨門一腳志工團」)  

【県知事・市長立候補者による非核社会の政見発表】   
司会:郭金泉(台湾環境保護連盟)   
「非核家園(非核社会)」の政見を掲げる県知事・市長立候補者

【結論・閉会式】
司会:劉俊秀(台湾環境保護連盟会長)   
共同声明文討議、閉会式 

主催:台湾環境保護連盟、台湾女人連線、台湾北社、パパ非核陣線、公民監督国会連盟、台湾緑党、人本教育文教基金、台湾長老教会総会、宜蘭人文基金、全球緑人台湾之友会、全国教師工会総連合会(全国教師組合)、台湾公投護台湾連盟促進会(国民投票で台湾を守ろう連合会)、台湾親子共学教育促進会、ママ原発監督連盟、台湾環境情報協会、台湾蛮野心足生態協会、立法委員田秋堇事務所、台湾社、草山生態文史連盟、新境界文教基金、主婦連盟環境保護基金、台北市緑台文教基金、緑色公民行動連盟、緑色21台湾連盟、五六運動、公民論壇、台北市保護者協会

共催:台湾都市開発被害者連盟、李江却台湾語文教基金、看守台湾協会、苗栗県環境監督連盟、桃園在地連盟、海洋台湾文教基金、陳定南教育基金、核四公投臨門一腳志工團(第四原発国民投票を促進する有志グループ)

協力:新台湾和平基金、草山生態文史連盟、民主基金、宜蘭友善生活小舖、蘭陽地熱資源股份有限公司

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ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.130 もくじ

                     (14年10月20日発行)B5版24ページ

● 2014非核亜洲論壇 国際会議議程表
                  
● 第16回ノーニュークス・アジアフォーラム in 台湾 ダイジェスト (渡田正弘)
 
● ストップ川内原発再稼働!8.31九州・川内行動での崔愫欣さんのアピール
       
● 重要な闘争の成果、三陟核発電所誘致撤回住民投票 (李憲錫)
        
● 韓国の原発で非正規労働者の労組結成
        ― フクイチの下請け労働者が訪韓、交流深める ― (川瀬俊治)

● トルコ・シノップ訪問記 (吉井美知子)
                   
● シノップ原発建設計画に対する地元自治体首長の反応 (安部竜一郎)
      
● 「全インド反原発国民大会」からのメッセージ
                 
● 日印原子力協定を放棄せよ!
          安倍晋三首相とナレンドラ・モディ首相への国際アピール 
   
● 台湾での第16回ノーニュークス・アジアフォーラムに関連して
 
                    
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