ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.127より

台湾各地で原発廃止を叫ぶ

 ― 「第四原発はいらない!」  13万人がデモ ―

                   
                        湯佳玲・邱俊福 自由時報 3月9日

 凍えるほどの寒さと雨のなか、脱原発魂ともいえる市民の情熱は消えることない!



● 低温と雨、市民の情熱が消えない

 雨のなか、「原発を廃止しろデモ(全台廢核大遊行)」が台湾各地で展開された。台北では予告なしに道路を占拠した。交通量の多い中山北路と忠孝東路の交差点に集結したデモ参加者が横たわり、「市民非協力」声明を発表し、原発廃止の決意表明を行なった。

 主催した「原発廃止全国ネットワーク(全国廃核行動平台)」の発表によると、3月8日に全国各地で行なったデモ・集会には、台北8万人、台中1万人、高雄3万人、台東と他の地域を合わせて1万人、合計13万人にものぼる市民が参加した。天候に恵まれないにもかかわらず、多くの市民が立ち上がったということだ。

● 全国各地の市民が街頭に

 台東では、デモに参加した市民が、先住民のシンボルを描いたのぼりを掲げ、怒りを込めた声で「核廃棄物は蘭嶼島から出て行け」と訴えた。さらに、主催者の呼びかけでランナーが集まり、ランナーたちが市民たちの周りを走って、励ましあう様子が見受けられた。

 台中では、1800人による「No Nuke」の人文字が披露され、主催側が30万元かけて無線操縦ヘリコプターをとばし、歴史的な瞬間を記録した。

 台北では参加者たちが、「原発安全なんてウソだ、原発事故こそが真実だ」「第四原発を廃止して台湾を救え」「馬鹿総統はいらない。原発もいらない」と叫びながら、3つのコースに分かれて凱達格蘭大道へ進んだ。

 参加者たちは、それぞれ驚くべき想像力を発揮し、防護服を着用する人もいれば、改造チャリに乗る人もいた。また、ピンクパンサーに仮装した人、お面をつけた人、ペットを連れてきた人もいた。「第四原発を終わらせよ!(終結核四)」の叫び声が絶えなかった。



● 1万人が原発事故の怖さを訴えて横たわる

 台北の3つのデモ行進コースはそれぞれ異なる隊列で構成された。

 サウンドカーに引率された「原発全面廃止」の隊列では、中山北路と忠孝東路の交差点を通過するとき、スタッフが突然、黄色封鎖線を引いた。警察がただちに反応できずにいるなか、1万人の市民が交差点を占拠することになり、交通も遮断された。

 原発事故通報サイレンのような音が響き、防護服を着用したスタッフが、デモ参加者に横たわってくださいと指示。万が一原発事故が起きたら台湾の国民は死ぬほかに道がないということが、こうして行政院と監察院の前で表現された。この道路占拠は30分間続き、デモ終了後に主催者は交通に影響をあたえたことをお詫びした。

 民進党の大物政治家たちは、「原発を終わらせよ(終結核電)」の隊列に参加した。台湾電力本社ビルを通過したとき、核廃棄物の入ったドラム缶のようなものを強く叩くと同時に、冥銭をばらまいた。参加者が、経済部(経産省)の正門前で「環境を守るには第四原発はいらない(環保不要核四)」という旗を立てようとしたが、警察に止められた。

 「原発ゼロ社会(非核家園)」の隊列には多くの芸能人が集まった。この隊列はベビーカーが先頭になり、「原発監視ママ連盟」呼びかけ人の陳藹玲も姿を現した。彼女は「この1年間、政府の対応にがっかり」と述べた。柯一正監督の呼びかけで、王小棣、黄韻玲、呉念真などの著名人もデモに参加した。

 高雄では、台北と同じように参加者が横たわり、原発事故が起きる場合のロールプレイをした。高雄市長陳菊も現場に駆けつけ、参加者を応援。市民たちはさらに、台湾の無事を祈るため、航海・漁業の守り神である媽祖を招いた。

● 道路占拠は「非協力運動」の序曲にすぎない

 緑色公民行動連盟事務局長の崔愫欣は、声明文「2014年不核作(不合作 = 非協力)運動」を発表した。地震多発国であり人口密集といった条件であるにもかかわらず、政府は原発廃止を求める多くの国民を無視し、利権を維持するため、強引に計画を進めていること、さらに「反対の声は聞いたことがない」と公然と言っていることを強く批判した。

 同連盟副事務局長の洪申翰は、「政府が独断専行をこのまま続けるならば、平穏のパレードでは済まされず、道路占拠のような『非協力的な反抗』をはじめとして、これからさらに抗議活動をエスカレートさせる」と語った。(訳:陳威志)

訳者注:「非暴力運動」=「非協力運動」は、台湾では「不合作運動」となっている。「合作」は「協力」の意味。「合」の北京語読みは「核」と同じなので、語呂合わせで「不核作運動」となり、「非協力」と「反原発」を同時に表わしている。



   緑色公民行動連盟などの市民団体も、
               立法院占拠に参加


                               陳威志(ダン・ウィジ)

 中国とのサービス貿易協定の立法院(国会)承認をめぐって、台湾では3月18日から4月10日まで、立法院占拠が行なわれた。この前代未聞の事件を、台湾のメディアをはじめ海外のマスコミも、「ひまわり学生運動」というふうに報道した。

 たしかに表に出て発言していたのは学生の代表で、立法院の中には若者が多かったが、実は多くの市民団体やNGOが支えていた。現在の台湾の市民団体やNGOの構成メンバーは若者が多い。人権問題、労働問題、農村問題、台湾独立問題などを扱う団体が参加したが、もっとも重要な役割を果たして、実際に運動の意思決定にも参加したのは、原発反対運動にとりくんできた緑色公民行動連盟(GCAA)だ。スタッフが初日の突入行動から参加した。

 実は、事件の始まりは3月17日の「強行採決」ではない。昨年6月20日、協定締結の前日に、総統の国策顧問が「われわれには24時間しか残されていない」と発表し、国民ははじめてこの件を知った。そこから、さまざまな学生運動団体、環境NGOなどが、台湾と中国が相互に市場を開放したら、台湾の環境、雇用問題、それに言論自由などはどうなるかと懸念し、研究、討論を重ねてきた。

 そして、3月17日に国民党立法委員による「強行採決」が起きて、18日の夜にGCAAなどの団体が立法院の周辺で集会を開き、そして国会突入が成功したのだ。

 「台湾と中国の平和とともに、経済発展を果たそう」と、国民党馬英九政権は、2010年に、中国政府と「経済協力枠組み協定」(ECFA)を締結した。サービス貿易協定はそれに基づいた具体化協議の一つにすぎず、後に物・製品の関税撤廃をめざす「両岸物品貿易協定(兩岸貨品貿易協議)」も調印される予定である。

 これらの協定は、開発や、大資本の利潤蓄積を「国民の幸せ」の前提に立てている。しかし、新自由主義の波ですでに多くの国で見られた事例のように、規制緩和・自由化は、労働権や環境規制の緩い国への大資本の進出を促進させ、そこで環境破壊などを通して、利益を得ようとするわけである。環境NGOとしても見落としてはいけない問題といえるだろう。

 多くの国民が協定に疑問を感じているにもかかわらず、強行に進めようとすることは、実は原発反対の場面でもしみじみと感じられたこと。3.11以降、台湾で第四原発反対の世論は常に60%を維持しているのにもかかわらず、政策の変更に反映できないのだ。機能しない「民主主義体制」を変革したいということが、GCAAなどの市民団体が今回の占拠に参加した大きな理由だと思う。

 GCAAの声明文を翻訳、掲載します。



「選択の権利を奪い返す!
       国会占拠支持および参加について」


                              緑色公民行動連盟

 3月18日の夜、台湾と中国との間で結ばれた「サービス貿易協定」に反対する青年および市民は、立法院議事堂に突入、歴史上経験のない「国会占拠」の幕が開かれた。この夜から、一万人以上にのぼる市民が議事堂の周りに集まって、占拠を応援し、「サービス貿易協定を撤回! 民主主義を守ろう!」と訴えてきた。

 緑色公民行動連盟は、長い間、原子力発電、エネルギーの政策転換、および環境、資源配分のガバナンス問題にとりくんできた。こういったイシューは、サービス貿易協定をめぐる争議とは無関連のように見えるが、現在原発反対運動がおかれた状況からみれば、実に類似している。いずれも、政治と経済の構造的抑圧に直面しているのだ。

 市民団体による長い間のとりくみの積み重ね、また福島原発事故の教訓を受けて、脱原発を支持する市民は6割を超え、安定した多数を占めるようになった。しかし、人々は徐々に以下のようなことに気づいた。すなわち、「なぜ、多数派の意見が、いわゆる民主主義体制のなかで、うまく反映できないだろうか」ということである。

 現在の台湾では、行政権はもはや統治者の原発擁護・推進のための暴力装置になってしまい、民意を受けとめる窓口としての国会もまた、党議の拘束をうけ、市民の望みから目をそむけている。さらに、代議制民主主義の補完としての国民投票は、多数の民意を反映できないように操作され、反対の世論を封鎖するための道具になってしまった。

 そこから、この「民主主義体制」は、実は民主主義をうらぎるもので、あくまでも支配者が異議を抹消する道具にすぎないと、多くの国民は気づいた。

 サービス貿易協定をめぐる争議においても、同じようなことが起きた。過半数以上の国民は、メリットとデメリットが知らされないまま、政権が独断専行で協定に調印し、通過させようとしていることに疑問を持っている。にもかかわらず、行政権と立法権を握る国民党政権はそれを無視し、強行に進め、我々に選択の権利をあたえようとしない。

 つまり、すべては「選択の権利」に関わってくる。現行の「民主主義体制」は、片や選挙を通して、有権者が賢く有能な人物や政党を選出できると公言している。しかし、同時に、選挙制度、国民投票権、罷免権を骨抜きにすること、そして、与党・野党と各利益団体とのさまざまな利益交換を通じて、少しの隙間も無いほどに政治的空間をコントロールしている。その結果、利益共同体から除外されるわれわれは、選択の権利が奪われることになる。

 これこそ、緑色公民行動連盟が国会占拠を支持、そして力を尽くして声援する重大な理由である。体制が統治者の抑圧装置・道具になれば、われわれはこの体制を機能させないことによって、持つべき政治権利を奪い返すしか、選択はないのではないか?

 サービス貿易協定の背後にある経済ロジックに目を向けると、これもまた馬政権による原発推進のレトリックと極めて類似している。利益集団や政治的支配者が、資本の利潤を最大化する道を選択してしまえば、もう国民には「NO」をいう権利は許されない。

 環境や労働者の剥奪を通して利潤を蓄積する資本は、ある国・地域で行き詰まったら、また国境をこえて、未開発のさまざまな資源を蚕食していく。この残酷なプロセス・企みを包み隠す言葉こそ、「経済成長」「自由化」なのである。

 台湾がこの20~30年間に経験したことは、無限な成長と自由化が虚妄であることを証明している。その結果として、格差の拡大、環境資源の枯渇、国家財政と社会福祉の破綻、農業と土地の不平等などの問題を招いた。これはもはや難しい学術的な予測ではなく、われわれが実際に肌で感じたことではないか。体制のいう利益はわれわれのところにまわってこない。それにもかかわらず、その負の結果はわれわれが背負うことになる。

 サービス貿易協定は一連の経済自由化の推進の始まりにすぎない。このあとは、「両岸物品貿易協定(兩岸貨品貿易協議)」、「自由経済特区(自由經濟示範區)」、さらにほかの国とのFTAが進めれる予定である。これらはすべて資本利益のカンフル剤にすぎず、しかしその代償は台湾の国民のほかの経済的自立選択の可能性を失うことである。

 したがって、サービス貿易協定への反対は、異なる産業利益の優劣の計算にとどまらず、このようなロジックのもとでは、美しい未 来はありえないと見抜き、異なる発展を選択する権利を奪い返すたたかいでもあるのだ。

 ここ数年、緑色公民行動連盟は、中国のさまざまなジャンルの市民団体と交流・協力し合ってきた。そのなかで、お互いが異なる政治的歴史的文脈をもつことがわかると同時に、中国特有の政治経済状況のもとでの市民団体のさまざまなとりくみは、民主主義の陣営に入ったと自賛する台湾にとっても意味深いことに気づいた。

 そこで、ここで呼びかけたいことは、中国政府の侵入を警戒すると同時に、中国社会と市民への敵視は誇張するべきではないということだ。中国のさまざまな側面を理解することによってのみ、両岸人民にとって適切な関係および今後の方向を見つけることができるのだ。

 3月18日から、多くの市民はそれぞれの思いや期待を持って、議事堂の内外に集まって、占拠活動を守ってきた。有意義な議論や思考がそこでなされている。これはまた、台湾各地にも広がっていった。こうした一回一回の行動、対話、協力を通じて、ますます多くの民主主義の実践、および発展のイメージが生みだされている。

 これこそ緑色公民行動連盟が今回の運動に参加するもっとも大きなモチベーションである。「われわれにはどんな選択肢が残っているのか?」という鋭い質問は、政府・資本集団への挑戦であるばかりではなく、また、「われわれ」自身への問いかけでもあるのだ。



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ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.127 もくじ

                     (14年4月20日発行)B5版28ページ

● 川内原発再稼働を阻止する  (小川みさ子) 
                 
● 原子力規制委員会への申入書  (反原発・かごしまネット) 

● 福井での原発をめぐる動きについて  (若泉政人)  

● 「日本国国会議員のみなさま」  (トルコ反原発プラットフォーム)

● シノップへの原発建設は黒海を終わらせる!  (ギュルハン・サヴグ) 
     
● 「ちょっとまって! トルコへの原発輸出」報告  (宇野田陽子)
        
● インド・クダンクラム原発反対運動(14) 
    
● 台湾各地で原発廃止を叫ぶ 
                        
● 緑色公民行動連盟などの市民団体も、立法院占拠に参加  (陳威志)
      
● 「選択の権利を奪い返す! 国会占拠支持および参加について」
                                  (緑色公民行動連盟)

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