ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.123より

 「原発反対全インド民衆大会」

 この夏、インドの反原発運動では様々な動きがありました。7月13日にはクダンクラム原発1号機が臨界に達し、21世紀インドで最初の新規原発稼働に地元の人々は怒りを爆発させています(商業運転開始は8月と言われていますがまだ始まっていないため、来月にずれ込む可能性もありそうです)。7月15日はクダンクラム原発反対運動の700日目でもあり、大規模な集会と共に臨界に抗議するダイインが行われました。

 そのような中、7月25~26日に、グジャラート州の中心都市アーメダバードで「原発反対全インド民衆大会」が開催され、日本から私たちが送った連帯アピールも読み上げられました。そして27~28日には、同じグジャラート州で原発建設計画があるミティビルディへの訪問も企画され、民衆大会参加者が現地を訪れて連帯を表明しました。この一連の催しにはジャイタプール、クダンクム、チュッカ、ゴラクプール、ミティビルディ、カクラパールなど、新たに原発の建設が計画されている地域のみならず、すでに核施設が立地している地域からも反対運動の代表者たちが集まりました。

 多くの新規原発建設計画とウラン鉱山開発計画がひしめく今日のインドにおいては、各地の反原発運動が結集して経験と叡智を分かち合うことがこれまで以上に必要となっています。アーメダバードでの議論は、近年インドの反核反原発運動の中で行われてきた議論の集大成ともいえる内容となり、その成果が「インド民衆憲章」としてまとめられました。(宇野田陽子)

原子力エネルギーに関するインド民衆憲章2013

 この憲章は、2013年7月25~26日にアーメダバードで開催された「原発反対全インド民衆大会」において採択された。

 「原子力エネルギーに関するインド民衆憲章」は、安全なエネルギーの未来を求める草の根の運動が蓄積し分かち合ってきた、経験、闘い、ビジョンから生まれた宣言である。

 こうした運動は、インド政府が原子力計画に着手して以来、常に存在していたものであり、たとえばケララ州などで輝かしい勝利を勝ち取っている。

 最近では、クダンクラム(タミルナドゥ州)、ジャイタプール(マハラシュートラ州)、ミティビルディ(グジャラート州)、コバーダ(アンドラプラデシュ州)、ゴラクプール(ハリヤーナー州)、チュッカ(マディヤプラデシュ州)、ハリプール(西ベンガル州)の人々が、インド原子力公社(NPCIL)によって推進されている反民衆的で危険な原発建設計画に対して、命がけの闘いを展開してきた。人々の大規模で平和的な抗議行動は、政府による無視と残虐な弾圧にさらされてきた。

 タラプール、ラワットバタ、カルパッカム、カイガ、カクラパール、ハイデラバードといった、すでに原発などの核施設が存在する地域のコミュニティは、放射能漏れやその他の被害について告発し続けているが、それらの声は多くの場合、当局によってかき消されてしまっている。

 ジャールカンド州、アンドラプラデシュ州、メガラヤ州など、ウラン鉱山が操業中、または新しいウラン鉱山の開発計画がある地域においても、大規模な抗議行動が起きている。

 こうした抗議の声にこたえて、インド社会で民主主義を求めるさまざまな団体から、連帯と支援が向けられている。知識人、政策専門家、科学者、社会活動家、作家、芸術家、そして数えきれない普通の人々が、これらの運動を支えてきた。

 原発は今日、人々の命、暮らし、環境に多大な脅威をもたらすものであると考えられている。原発は、回復させることが不可能なほどの破壊的結果をもたらすものであり、放射線による影響は世代を超えて連綿と続いていく。

 チェルノブイリ事故、そして、福島原発事故は、エネルギー政策転換や原発の段階的廃止など、原発に関して世界の国々に再考を迫ることとなった。

 原発の持つ解決不可能な安全上の問題、法外なコスト、秘密主義などから、原発は常に、高圧的な方法、しばしば地域コミュニティに対する暴力的な弾圧を通して、人々に押し付けられてきた。

 誇張表現で塗り固められ、莫大な予算を与えられているにもかかわらず、原子力がインドの発電量に占める割合は3%に過ぎない。しかしながら、インド政府はそれを強力に拡大しようとしている。

 その主要な動機のひとつは、ペイバックの約束を果すためである。印米原子力協定のためにアメリカに対して。そして、国際原子力機関(IAEA)と原子力供給国グループ(NSG)からインドへの特例措置を引き出すために支援してもらったその他の国々に対して。

 こうして原発を拡大していくことは、莫大な利益の機会を見込んでいる国内外の原子力産業ロビーに力を与えることにもなる。それは、原子力推進勢力の権力と特権をさらに強大化することを意味し、高度に中央集権化したエネルギー大量消費型の「経済成長」の道をインドがこれからも変わらずにひた走っていくことを後押しするだろう。

 原発がインドのエネルギー安全保障のために不可欠だという主張に対しては、あちこちから疑義が申し立てられている。

 原発の拡大は、私たちが求めているエネルギー供給と使用のモデル、つまり生態系からみて持続可能で、地方分散型で、公正なモデルを損なうだろう。

 こうしたすべてのことから、原子力の道を追求するかどうかについては、一人ひとりの国民が決定権を持つ議題とならなければならない。

 わたしたちは、次のことを要求する。

計画中のすべての原発建設計画に対して、ただちにモラトリアム(一時的停止)を課すこと。

原子力施設のための土地取得をただちに中断すること。

原発とその代替案について、公開で民主的な国家規模の議論を組織すること。原発がもたらす深刻な危険性について、正当性のある懸念が存在することを、政府は認めなければならない。

政府は、原発建設およびウラン採掘が計画されているすべての地域において、健康と環境に関してベースラインとなる調査を実施するための、独立した専門家による団体を設立しなければならない。その調査結果は、高い透明性を持って地域の人々と共有されなければならず、地域の人々が自分たちの健康データに例外なく自由にアクセスできるよう保証すべきである。

正統性のない機関によって原発建設計画の環境影響評価が行われている現在のプロセスは容認できない。環境影響評価において、核に特有の危険性、つまり放射能漏れ、放射性廃棄物の貯蔵、放射性物質輸送のリスク、原発事故などが検討されていないことも容認できない。あらゆる原発建設計画に対する環境上の許可は、必須とされている公聴会とすべての関連する事実の例外なき情報公開によって厳格化されなければならない。チェルノブイリや福島のような破局的な事故にかんがみて、原発事故によって影響を受ける可能性があるとされる人々の定義を見直さなければならない。

自分たちが暮らす地域に原発、ウラン鉱山、その他の核関連施設を受け入れるかどうかについて、地域の人々に拒否権を付与しなければならない。現在行われている茶番劇の代りに、ふさわしい民衆法定が開かれなければならない。それは、独立した市民団体によって組織され、普通の市民や懸念を持つグループや専門家などあらゆる人に対して、参加や証言の機会が確保されなければならない。

すべての核関連施設について、独立した専門家の手で、安全性に関する透明性のある再調査が実施されなければならない。既存の原発とウラン鉱山に対する定期的な安全調査も独立した専門家らによって行われなければならない。

当局は、独立した専門家に依頼して、こうした施設の付近で長期的及び中期的な健康調査を行うべきであり、そこで明らかになったことは政府によって公表されなければならない。核施設の周辺で放射線監視のための市民によるネットワークが組織されなければならず、その目的のために立ち上げられた公的な基金がそのネットワークを財政的に支えるべきである。

原発労働者の健康診査が定期的に行われるべきであり、その経過も公表されなければならない。原子力の分野では、契約労働者の雇用を許すべきではない。正規雇用でなければ労働者の健康状態が適切に管理できないからである。

政府はただちに1962年原子力法に変わる新しい法律を整備し、意思決定への完全な市民参加をもって、核に関する職務の透明性と人々への説明責任を最大限高めなければならない。

原子力規制委員会はその本来の役割を果すことができておらず、委員会の規範自体に違反している。原子力規制委員会はただちに原子力省(DAE)から完全に独立させなければならない。そして、監督業務にあたって、完全に中立的であると信用できるような高潔な人格と独立した精神を持った上級職員を、スタッフとして迎えなければならない。さらに、その予算は環境森林省を通じて与えられるべきである。

政府が安全保障上の配慮の名の下に秘密主義に走ったり、それによって関連する情報が隠されたりすることがないよう、民生用の原子力分野の存在と開発に関わるあらゆる側面に対して、情報への権利法が適用可能とされなければならない。

大規模避難の手順など災害発生時の緊急時対応計画は、被害を受ける可能性のある人々の代表によって公開の場で議論され、検討され、認可されなければならない。政府は、事故時の避難方法の信頼性を担保するために、地域住民の参加のもとに、すばやく効果的な避難のための実用的な手続き、組織、訓練を確立しなければならない。

2010年に成立した原子力損害賠償法は、原子力事故が発生した際の完全な損害賠償を実現するための道徳規範や法的原則に基づいたものになっていないので、ふさわしいものに修正されなければならない。また、事業者の賠償責任を限定することで、この法律をさらに弱めるようないかなる試みも断念されなければならない。

全国の核関連施設の周辺には、放射能の影響によって疾病を抱えた被害者がたくさん存在する。政府はただちに、こうした被害者の健康のための施設と十分な補償を行わなければならない。政府は現在、周辺住民に健康影響があることすら認めていない。

政府は、ただちに、そして無条件に、原発建設計画に反対する人々に対する国家反逆罪の容疑やその他の虚偽の罪状についての主張を撤回しなければならない。とくにクダンクラム原発のケースでは、最高裁がすべての罪状の撤回を指示したにもかかわらず、タミルナドゥ州政府はそれを拒否している。

 原子力のこうした脆弱性にかんがみるに、公平性、環境的な持続可能性、アフォーダビリティの原則に基づいて、また太陽光、風力、小水力などを含めて、包括的でオルタナティブなエネルギー政策を準備することが絶対的に不可欠である。これは、政府がインド国民に対して最低限しなければならないことである。

 核燃料サイクルは重大すぎて、科学者や官僚、産業主義者、政治家らの手の中にのみ置いておけるような代物ではないのだ。


             ダイイン 7月15日 クダンクラム
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