ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.122より

原発輸出を止めるために

       宇野田陽子(ノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパン事務局)

● 暴走の域に入った日本の原発輸出推進

 政府と財界が一丸となっての原発輸出攻勢が始まった。ここ2カ月の動きを追うだけでも、一部の大企業が暴利をむさぼるという意味での「経済成長」のための原発輸出が、尋常ならざるスピードで進められていることが見て取れる。

 5月初めには安倍首相が中東を歴訪し、トルコとUAEとの間で原子力協定を締結、サウジアラビアとも締結に向けた交渉を進めることで合意した。5月下旬にはインドのマンモハン・シン首相が来日、日本からインドへの原発輸出を可能にするための日印原子力協定の締結に向けて本格的に交渉を再開することが確認された。6月初めにはフランスのオランド首相が来日、日仏が協力して原発輸出や核燃料サイクルにとりくむ旨の共同声明が発表された。6月中旬には安倍首相がポーランドなど東欧4カ国を訪問、原子力分野の協力で一致したという。

 原発輸出を今後の経済政策における成長戦略の柱と位置付ける日本政府の動きは、まさに前のめりの暴走の域に入ったようだ。

● 国境を超えて結託する原子力産業

 日本による原発輸出の試みは、1980年代から連綿と続いてきた。しかし、経済のために原発を売ると政府が臆面もなく主張し、首相自らが各国に売り込み攻勢をかけるなどという状況はいまだかつてなかった。

 思い出されるのは、2010年の韓国政府の動きである。自動車や造船、半導体に続く将来の主力輸出産業として原子力産業を育成すると発表、今後20年で80基の原発を輸出するとの目標を掲げた。2009年末には、李明博大統領による強力なトップセールスで、韓国がアラブ首長国連邦(UAE)の原発受注に成功している。

 日本はこうした原発輸出政策を、世界の原子力産業とタッグを組んでやろうとしている。2006年2月に東芝が英国原子燃料会社(BNFL)とウエスチングハウス社を買収して傘下におさめたことも、06年秋から三菱重工がフランスのアレバ社と様々な連携を開始したことも、07年6月に日立とGEが提携してGE日立ニュークリアエナジー社を設立したのも、すべて世界中の原発市場をにらんでの布石だった。国境を越えて結託した原子力産業が、いま世界に射程を広げている。

● 輸出先国の人々にふりかかる不幸

 日本が積極的に原発を売り込んでいる相手国を見ると、見過ごせない問題が山積している。

 5月に安倍首相が訪問して原子力協定に署名したトルコは、地震国である。また、予定地となっているシノップは黒海沿岸にあるリアス式海岸の風光明媚な漁業の町だが、地域住民は環境破壊を怖れて反対の声を上げている。

 日本が官民を挙げて原発輸出を推進しているベトナムは、一党独裁で言論や集会の自由がない。反対署名を集めた学者が弾圧されるなど、人々は声を上げることができないどころか、正しい情報にアクセスする手段すらない。日本が受注した第2原発予定地には多くの農民が暮らしているので、立ち退きが強制される。しかも、政府高官も「ベトナムはまだ原発を導入する準備ができていない」と発言しているのだ。

 中東の紛争地帯に位置するヨルダンについては、2011年に原子力協定の審議の過程で、問題点が日本の国会で大きく取り上げられた。砂漠地帯のため冷却水の確保が難しいため下水処理水を用いるという危険な計画であること、地震国であること、テロの危険性が高いことなどが指摘されている。

● 原発輸出それ自体が核拡散

 わけても、原発輸出が不可避的に招き寄せてしまうのが、核拡散の危険性である。日本が積極的に原子力協定締結をめざしているインドは、核拡散防止条約(NPT)に加入しないまま1974年に核実験を行い、1998年にも再度の核実験を強行した。これらの核兵器は、カナダから導入した原発技術を用いて開発されたものであった。

 これまで国際社会は原子力供給国グループ(NSG)によって、インドとの原子力関連貿易に対して非常に厳しい規制を課してきた。しかし、2000年中頃から、斜陽となった原子力産業の要請を受けてアメリカがインドへの原子力協力へと舵を切り、IAEAやNSGに「インド特例措置」を認めさせた。NSGはこれに対して、インドへの原子力協力を容認はせず「加盟国が独自の方針で対応する」こととした。

 インドの側を見ると、今後核実験をしないと約束もしていないし、IAEAによる核関連施設への査察を部分的にしか受け入れず、原発増設と核兵器の増産にひた走っている。このような状況で、東芝、日立、三菱などの原発企業を通じて日本がインドへの原発輸出に関与することは、インドの核兵器の増強に加担することになりかねない。

● 原発が民主主義を壊す

 日本でもクダンクラムの人々の闘いが大きく報じられたが、インドの原発予定地の人々は原発建設に激しく反対している。色とりどりのサリーに身を包んだ何千人もの女性たちが砂浜を埋め尽くした、昨年9月の原発包囲行動が記憶に新しい。しかしロシアが建設したクダンクラムでも、フランスが建設予定のジャイタプールでも、非暴力の市民に警察などが弾圧を行い、死者が出ている。

 これから日本が原発建設に乗り出そうとしているミティビルディやコバーダでも反対運動が広がり始めている。反対運動がさらに広がれば、インド政府は同じように弾圧するだろう。

 非暴力で反対する人々を戦闘警察によって催涙弾や棍棒で蹴散らしてもらい、正当な懸念を表明する人々を当局によって国家反逆罪で逮捕してもらいながら建設するのか。

 原発輸出は、そのように人権をないがしろにし、自由な言論を踏みにじり、相手国の権力に守られながら民衆に牙をむくものだ。これは「経済」の話ではない。

● 私たちに何ができるか

 ベトナムは、第1原発を受注したのがロシア、第2原発が日本、そして第3原発は韓国が受注するという。ロシアが第1原発を受注できたのは抱き合わせで潜水艦を提供するという条件が決め手になったからだと言われる。さて、日本は原発売り込み合戦の中でいったい何をお土産にしたのだろうか。

 輸出国となってしまった日本の私たちは、まずは詳細な情報を入手するための努力をしよう。日本政府から20億円が融資されてベトナムで行われた原発の立地可能性調査(FS)が終了したが、その調査報告書は非公開だという。20億円もの税金をつぎ込んでおきながら、なんという不透明さだろうか。断固として公開を求めていく。

 同様に、日本がベトナムとの間で取り決めている「放射性廃棄物処分に関する支援」(使用済み核燃料に責任を持つのか?)など、私たちが突き止めるべき事実はたくさんある。

 そして福島原発事故を経験した私たちは、原発事故がいったいどれほどの災厄をもたらすのか、世界に向かって大きな声で発信し続けよう。いったん原発で過酷事故が起きたら農業や漁業に何が起きるのか、障害者や高齢者がどれほど過酷な状況下におかれるか、避難生活の苦しみがどれほどのものか、被曝を強いられる労働とはどういうものなのか。私たち自身がもっと真実を知り、そして発信することが重要である。

 原発輸出を止めるために今すぐ自分の意思でとりくめることがある。それは、原発メーカーの製品を拒否することだ。日本の原発メーカーの頂点に君臨する大企業の東芝、日立、三菱といえども、私たちがその製品を買うことを拒否すればそれは強大な力となる。「原発メーカーの製品は買わない」と表明する人々が仲間となり、この動きをもっと広げていこう。

 世界中で原発建設計画がひしめいている。地図を見下ろしてそれらをプロットしていくと、あまりの数の多さに絶望的な思いになる。

 しかし、世界中の原発現地、原発建設予定地では、人々のつつましく尊い暮らしがあり、原発を拒否しようとする強い意志がある。

 それぞれが自分の持ち場でどれだけ根を張って世界中の仲間とつながりあえるか、原発輸出国となってしまった日本に暮らす私たちの存在が問われている。



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ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.122 もくじ

                        (13年6月20日発行)B5版36ページ

● 原発輸出を止めるために (宇野田陽子) 
                  
● 日印原子力協定に向けた交渉の停止を求める要望書
               
● インド・クダンクラム原発反対運動(11)
                   
● ジャイタプールの漁民と農民からフランスとヨーロッパの銀行家への手紙

● 菊地洋一さん3度目の来台、第四原発に入れず (ダン・ギンリン) 
      
● トルコへの原発輸出を許さない (鈴木かずえ)

● モンゴル・「ウランは掘らん、ウランは売らん、原発? 私たちにはいりません、福島の人々と心は1つ、というメッセージを安倍首相に届けたい」 (今岡良子)

● マレーシア・レアアース製錬工場の環境影響<後篇> (和田喜彦)

● ベトナムへの原発輸出:たれながされる安全神話 (伊藤正子)

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