ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.112より

クダンクラム原発反対運動の現状 8〜9月

          (S.P.ウダヤクマールさんからのメール、
          People's Movement Against Nuclear Energyの現地報告より)



 福島原発事故から数ヶ月後に、当局がクダンクラム原発の運転開始に向けて加速しようとしたことで、地域住民たちは立ち上がった。当局が避難訓練を実施しようとしたところ、地域の人々の怒りが爆発した。指示では、訓練参加者は鼻と口を覆って最も近い建物に逃げ込んでドアを閉めることになっていた。

 タミルナードゥ州政府は、原発から半径5km圏内は無人地帯にすると明言しているのだが、クダンクラムの当局は非公式に、立ち退きを強制される人はいないと述べている。このような二枚舌に振り回され、真実が注意深く隠される中、住民たちは心が休まるときがなかったのだ。

 8月11日、クダンクラムの人々が地域のカトリック教会に集まって、原発に反対するデモを行った。地域の活動家から電話があり、すぐにクダンクラムに来てほしいといわれた。私は日本から帰国したばかりだったが、かけつけた。

 私たちは、デモが暴動に発展したり、州政府の暴力によってデモが制圧されたりするところを見たくはなかった。何人かの酔っ払いや、警察のスパイ、これまでにないほどの数の機動隊がいたが、私たちは、可能な限り非暴力のデモを行った。

 デモが行われている途中に私は、近隣の漁村イディンタカライ村で、人々が教会の鐘を鳴らし、教区の神父の家に人々が集結していると聞いた。私たちも、話し合いに招待された。私たちは、若者のグループがハンガーストライキを実施できるよう手助けした。人々は、漁のボイコット、子どもたちの集団休校、店や施設の閉鎖、黒い旗を掲げる、身分証明書を政府に返還するなどのさまざまな行動について話し合った。

 14日、クタンクリ、クダンクラム、イディンタカライなどの村々を訪問して、これからの計画を相談した。

 15日(独立記念日)、クダンクラム、ヴィジャヤパティ、クタンクリ、レヴィンギプラムなどの村議会で、クダンクラム原発の閉鎖を求める決議を採択した。

 16日、10000人以上の人々が参加し、ハンガーストライキを開始した。運動を継続するために執行委員会、財政委員会、法律チームなどを結成した。

 17日、警察は前夜に許可を取り消すといったが、私たちはかまわずに行動を続けた。私たちは警察が平和的なデモを武力で制圧しようとしていると聞き、それに反対するよう当局に申し入れた。当局は私たちに対し、避難訓練を中止するのですべてのデモをやめるように提案してきた。私たちは9月7日までは大規模なデモをしないという合意に達した。

 しかし8月27日になると、「9月中にクダンクラム原発の運転を開始する」とDAE(原子力庁)が発表したのだ。これによって私たちと当局との合意は無効となったので、8月30日、執行委員会はイディンタカライで相談会を持ち、闘争を再開することにした。

 9月10日、多くの活動家たちがイディンタカライ村に集まり、11日からのハンガーストライキの準備を始めた。午後3時ごろ、私たちはクダンクラム村で警察官たちが活動家を逮捕しているとの一報を受けた。500人ほどの女性たちが道路を封鎖し、逮捕された人々の即時釈放を要求していた。その後、警官たちの態度が軟化し、女性たちも道路封鎖を解いた。しかし、510人が起訴された。あまりにも多くの人々が逮捕され法廷に持ち込まれたので、この出来事はマスコミでも大きく報じられた。

 9月11日、福島原発事故の悪夢、警察による妨害、クダンクラム原発を9月中に稼動させるというDAE長官の発表を考慮し、私たちは無期限ハンストを開始した。私たちのハンストは、完全に非暴力のものとすること、ガンジーの精神と実践に従うことをはっきりと確認しあった。

 ティルネルベリやカニャクマリなどの地域から、イディンタカライのセント・ルーデス教会の前に7000人が集結した。反原発の活動家がパフォーマンスを行い、社会的な啓発の歌を歌い、スピーチを行った。地方議員であるマイケル・ラヤパン氏が現れ、連帯を表明した。

 参加者全員がハンストを見守り、今日の締めくくりとしてハンストに参加している人々の名前を皆に知らせた。無期限ハンストをしているのは127人、そのうち女性が20人、身体障害者が4人、神父が4人、シスターが3人。彼らに関してプロフィールや既往歴など必要な記録が集められた。

 5時にはいったん解散し、無期限ハンストの参加者たちは教会のポーチ前で眠った。連帯の意を表明するために、そしてハンスト参加者の身の安全のために、数百人もの地域の人々が彼らをとり囲むようにして眠りについた。

 9月12日、9時になると、タミルナードゥ州南部のあちこちから人々が集まり始めた。11時ごろには、人々の数は1万5千人に膨れ上がった。

 この教区の司教も朝から私たちに合流し、一日を共に過ごした。彼もハンストに加わった。そのほかにも、著明な宗教指導者が参加して、クダンクラム原発への反対を訴えた。活動家たちもスピーチを行った。私たちは5時に今日の行動を締めくくり、ハンスト参加者たちはハンストを継続し、支援者たちは昨日と同じく彼らをとり囲むようにして眠った。マスコミの取材陣がこの出来事を取材していた。医療チームがハンスト参加者らの体調管理を行った。

 9月13日、9時になると人々が集まり始め、今日も10000人以上が集まった。タミルナードゥ州商工会議長が部下とともに現れた。彼は、タミルナードゥ州全域の商工会が、20日からクダンクラム原発に反対する行動を起こすことを決断したこと、その日は主要な地域ですべての商業活動をとりやめることを発表した。マニタネヤ・マカル・カッチ党の指導者も、彼らが党として23日にクダンクラム原発に反対するデモを行うと表明した。

 すでにハンストが3日目に入っているというのに、政府の関係者は誰も現れなかった。この、人を馬鹿にした態度に業を煮やした500人の女性たちが、再び道路を封鎖して車の通行を阻止する行動に出た。彼女たちを説得してハンストの会場に連れ戻すのは、実に大変であった。今日は国営のメディアが取材に訪れ、ハンストの様子を中継した。

 今日は、気を失う人が数人出た。

 役所の職員が訪れ、私たちの代表者数人と村の周辺で話し合いたいと同行を求めてきた。この地域の地方長官とクダンクラムの警察署長が、民衆の代表15名と話し合いたいと言っているというのだ。私たちはその職員たちと共に行くことを拒否し、群集に意見を聞いた。人々は口をそろえて、当局者がこのハンストの現場に来るべきなのであって、われわれが出向いていく筋合いはないと述べた。この日は6時に散会となった。

 私たちを支援している州議員から連絡があった。タミルナードゥ州議会でクダンクラムの闘いの様子と人々の要求について発言することを申し入れていたが、申請は却下され、彼は発言を許されなかったというのだ。このことは、われわれの民主主義が機能しているのかどうかについて非常に大きな疑念を巻き起こした。

 タミルナードゥ州の州首相もその他の大臣たちも、われわれの闘いと要求について言及したことは一度もない。遠く離れたデリーの中央政府に関しては、言わずもがなだ。彼らはクダンクラムの人々の問題について一言たりとも述べたことはない。

 無期限ハンスト参加者は徐々に弱りつつある。人々は困惑し始めている。しかしハンストは、非常に整然と、非暴力のやり方で継続されている。人々はイエスやマハトマ・ガンジーのやり方を踏襲し続けている。

 私たちは、クダンクラム原発が永久に閉鎖されることを要求する。私たちの生きる権利や生活に敬意が払われ、尊重されるよう求める。
私たちはインドを、アメリカやロシアやフランスの奴隷ではなく、新エネルギーや持続可能な発展の世界リーダーにしたいと思っている。
私たちが、子どもたちや子どもたちの子どもたちに残したいのは、原爆と放射性廃棄物処分場ではなく、安全で健やかな地球と海と空なのだ。

       (You Tube の映像、クマールさんの演説等
          http://www.youtube.com/watch?v=KShOrPzdH9E など)



● クダンクラム原発に反対する13の理由

                   S.P.ウダヤクマール(反核運動全国連合)
 
 クダンクラム原発反対運動は、1980年代から一貫して続いてきた。「ばら色の未来」を約束されて建設に賛成していた地域の人々も、今は原発の問題点を理解している。2007年になって地域の人々が次々に運動に参加し始め、キャンペーンは大きく前進した。いまやインド南端に住む人々のほぼ全員が、クダンクラム原発に反対している。

1. 建設にあたっての環境影響評価、安全分析報告などがすべて公開されていない。公聴会も開かれなかった。民主的な意思決定や市民の合意なしに強行されている。

2. タミルナードゥ州政府は「原発から半径2〜5kmの範囲は不毛地帯とでも呼ぶべき地帯にする」としている。強制的な立ち退きが命じられる可能性が高い。

3. 原発から半径30km圏内に100万人が住んでいる。原子力規制委員会は故意に人口を少なく発表している。これだけの人々を事故発生時に避難させることは不可能だ。

4. 冷却水と低レベル廃棄物が海に投棄されることになっている。海洋汚染が引き起こされ、漁民の生活が破壊され、貧困が助長され、州の食品の安全が脅かされる。

5. 原発によって環境や食べ物が広範囲に汚染される。南部の海岸地帯はすでにトリウム採掘などの影響で疾病や障害が増加しており、この状況がさらに悪化してしまう。

6. クダンクラム原発(ロシア製VVER、加圧水型原子炉)の設計、構造、安全性などに関して、すでに国際的な懸念が高まっている。

7. 環境大臣は、クダンクラム原発3〜6号機が沿岸規制地帯の条項に違反しているので建設許可を発行しないと発表した。そうであれば、1号機と2号機も条項に違反していないかどうかを問うのが当たり前ではないのか。

8. 政治指導者や官僚たちは、クダンクラムでは自然災害が起こらないと主張している。しかし、クダンクラムは2004年に津波に見舞われ、その後も地震が起きている。

9. インドの首相や大臣が、原発へのテロ攻撃を懸念する発言をしている。

10. 事故のときのロシア側の賠償責任という重要な問題に関して、まだ結論が出ていない。2008年の政府間合意によると、インド原子力発電公社がすべての損害賠償責任を負うことになっている。

11. 1988年、1号機と2号機の建設に600億ルピーかかるとされた。その後、2001年にはコストは1317億ルピーとなり、その後も増え続けているが、2011年にはいくらまで増えるか、それを民衆に知らせる必要性について、誰も考えていない。

12. 福島原発事故後、欧米諸国が脱原発に舵を切った。米ロでも自国内では数十年間新規建設はない。インドでも、西ベンガルやケララで原発を拒否する動きが出始めている。

13. このプロジェクトはインドの民衆のためのものか? または、ロシアやアメリカやフランスの企業の利益のためか? それともインドの軍隊の利益のため? インドの人々の命と未来は、それよりも価値のないものだとでもいうのか?




ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.112もくじ

              
 (11年10月20日発行)B5版20ページ

●インド・クダンクラム原発反対運動の現状

●クダンクラム原発に反対する13の理由  (S.P.ウダヤクマール)

●クダンクラムの人々へのメッセ−ジ

●NNAF 2011参加報告  (S.P.ウダヤクマール)   

●29年間反核闘争を続ける人々 (キム・ヒョヌ)  

●原発なきアジアに向けて (安藤丈将)  

●タイ・エネルギー省、原発承認の必要性を強調

●台湾公共テレビのドキュメンタリー番組「我々の島」 
            
●台湾・第四原発の地質調査 (星野めぐる)

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