ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.111より
「過去はプロローグ?」


                     林碧堯(台湾環境保護連盟元会長)

 NNAF2011は、私たちを福島、祝島から広島へと、とても特別な旅へと導いてくれた。日本の核技術が歩んできた路を、私たちは自らの足でたどり、これらを深く理解することになった。

 「放射能の恐怖」が、このフィールドトリップでの学びの鍵となるテーマである。

 福島での危機の直後、日本のコミュニティーが取った対応が私たちの主たる観察の対象である。

 これらは西洋の技術文明に対し、日本で起こった現実の核の物語である。

1.フクシマ:今この時も続いている現在形!

 7月31日、私たちは福島の人々と共に、彼らの放射能への恐怖を共有し、「核災害を拒否する」という彼らの叫びと、声を合わせた。
 
デモの間じゅうずっと放射能の暗い雨が降り、屋外の放射能レベルは通常の値の5〜6倍になっていた。福島市は明らかに放射能で汚染されている。
 
 東京に戻ると、NHKが毎時10シーベルト以上の放射線量を福島第一原発の原子炉の外で観測したと報道していた。この事実は、災害が完全にはコントロールされていないことを示している。何が起こったかは今後の調査の結果を待たねばならない。
 
過去はプロローグ? 福島では明らかにそうだ。

2.ヒロシマ:過去形

 核は悪だ! 広島の原爆ドームは66年間、核技術の目に見える破壊力を証言してきた。被爆者の体と血は元安川の水によって「完全に」流された。
 
 一方、国策としての「平和と繁栄」は日本において成功裏に実現した。

 平和公園の碑文に書かれた「過ちは繰返しませぬから」との誓いを被爆者は繰返したが、福島でこの3月「過ち」は起こった。ついに人々は警告する。「人類と核エネルギーは共存できない」

 「平和宣言」が、日本政府にエネルギー政策の早急の見直しを初めて求めた。菅直人首相は「日本は原子力に依存しない社会をめざし、原子力エネルギー依存度を削減していく」と応答した。

 過去はプロローグなのか?「核の神話」のぺージは引き裂かれることになりそうだ。

3.祝島:未来形?

 私たちは8月3日に祝島に到着した。瀬戸内海国立公園の美しさを初めて楽しむ機会である。不幸にも上関原発がそこに建設されようとしてきた。

 この種の悪夢は台湾もまったく同様だ。

 しかし、祝島の人々は彼らの故郷を守っている。私たちは、100%自然再生エネルギーの「千年祝島」を作るプロジェクトの実現を望む。それは「ノーニュークス日本」(核のない日本)の画期的な道標となるだろう。祝島の人々の希望にあふれた未来は祝福される。 
 
 過去はプロローグか? 祝島ではそうではないと望む。
 
 驚くべきことではないが、間もなく退陣する菅首相が原発の段階的廃止を推し進めているという最近のニュースは勇気づけられるものである。



Save Fukushima Now!

                   ミッツィー・チャン(非核バタアン運動ネットワーク)

 フクシマの核惨事が発生したこの2011年を置いて、日本でNNAFを開催するべきときは他にない。参加国の原子力の現状を共有すること以上にNNAF2011が持つ意義は、日本の人々、とくに福島に住む人たちに連帯を示し、彼らと共に、日本政府と世界に対し、原子力という選択を永遠に遠ざけるよう強く要求することであった。

 今も続くフクシマの核惨事は、昔も今も核エネルギーが死のエネルギー選択であることを証明している。フクシマは、原発の安全性などもはや神話に過ぎないことを再び証明した。放射能汚染の悪夢は福島に住む人々にとっては、まさに、まぎれもない現実である。

 日本だけでなく、最も先進的な核技術を駆使する原子力大国のプレーヤーたちも、悪夢が起きないよう、原発を止めなければならない。

 福島の子どもたちや住民たちの命は危機に瀕している。放射能レベルが人々とくに妊婦と子どもに多大な健康被害をもたらすエリアに、100万人以上が住んでいる。悲しいことに、日本政府と東京電力は、人々の被曝と生活の糧への放射能汚染という社会的代償を軽視し続けている。
日々生命への脅威が強まるなか、日本政府は注目すべきところに焦点を当て求められるところに優先順位を向けるべきである。

 NNAFは「今、フクシマを救え!」の訴えに声を合わせる。

 菅直人首相の「原発に依存しない社会をめざしていく」という声明は、エネルギー政策の全面的見直しのような具体的な裏付けがなければならない。たとえばドイツが直ちに代替エネルギーへと方向転換を開始したように。

 また日本政府は、依然続いている核惨事の被害者を救済するよう、最善の措置を講じなければならない。

 フクシマの今も続いている悲劇は、世界中が早急に学ぶべき教訓である。これがNNAF2011のメッセージだ。

 フクシマがこの世代にもたらしたものは、25年前のチェルノブイリ事故がもたらしたものと同様である。核エネルギー発電は人間存在にとって、多大なるリスクと危険を保有するものだ。
NNAFがアジア諸国の政府と世界に求めているように、原発廃止の時代をスタートさせなければならない。

 NNAFはまた、アジア各国でこれまで以上の運動を創り出すことを呼びかけている。共通の目標、一連のアクションのもとに、休むことなく、力を結集し続けることが求められている。

 核のないアジアと世界を獲得するためのたたかいに私たちが勝利する日まで。



NNAF 2011で得た経験

                サンティ・チョ−クチャイチャムナンキット
                   (持続可能性のためのオルタナティブ・エネルギー・プロジェクト)
                   
 私たちタイの8人が今回日本で学び得たものは数多くありました。それらをそれぞれが持ち帰り、タイの社会に広く伝え、最大限共有できるように、私たちは力の限りを尽くしていくつもりです。
 
 今年3月のあの大きな災厄を経験した日本の人々に対して、私たちは他人ごとではないと身につまされました。その人々に対し、励ましの言葉を述べたいです。大野和興さんが福島の農民の置かれた運命について話されたとき、聞いた私たちの中には涙を流す者もいました。私たちは、日本政府がさらに多くの人道的配慮をすることを願うことしかできません。そしてまた、政府が原子力産業の利益を擁護することよりも、人々への援護をより優先することを願ってやみません。

 また、私たちは祝島を訪れました。そこでは、純朴で、心穏やかな現地の漁師の人々のまなざしに出会いました。それは、タイの地元の漁民の持つまなざしと何ら変わりがありませんでした。彼らは、それぞれの場で、はるかに巨大な敵に確固として対峙し、闘い続けています。タイの様々な地元漁師グループと同様に、祝島の人たちも個人的な利益のみを求めているのではなく、社会の利益のため、また、子や孫へと続く次の世代のためを思い、闘っておられます。たとえ、タイはまだ開発が進まず、日本が繁栄した先進国であったとしても、タイでも日本でも開発の犠牲になる人々は、やはり同じ運命をになっているのでしょう。

 タイでは、政府が人々にことあるごとに言います。「日本は原爆によって苦痛をなめた世界でただ一つの国だが、それでも日本の民衆は核エネルギーの使用を推進している」と。

 これに対し、私たちは、子供のころから福島第一原発を身近に目にしてきた福島の大賀あや子さんの話を聞き、この原発がその決定において住民の総意のもとで建設されたものではないことを知りました。2008年に私たちの何人かが訪れた柏崎刈羽原発もまたそうでした。

 この二つの原発が証拠として明らかにしていることは、原発の導入は常に民衆に対する「欺瞞」を抜きにしては成り立たない、という世界じゅうで同じ確かな事実です。

 原発の導入は、当面するコミュニティに対して利益を差し出し、そしてコミュニティの分裂を引き起こしていくということを抜きにしてはありえません。タイで起きていることと何の変りもないものです。

 福島で起きてしまった事故、それ自体はまことに悲しい出来事ですが、しかし、私たちは未来のために手をつなぎ合って行動できるようになりました。この苦難をばねに、協力し合って、原発建設を阻止し、私たちの世界にこれ以上原発を増やさせず、さらに、真に核から安全な世界のために、使用中の原発をも全て廃絶させましょう。

 経済産業省の代表と面会した席で、NNAFの仲間であるインドのメンバーは、「日本が脱原発のリーダーになるように」と要望しました。それは、私たちも全く同感です。なぜなら、日本は国際社会の中で重要な役割を担っているからです。もし日本がクリーンで安全なエネルギーに転換すると明確に表明すれば、良い例となり、政策の見直しを図る国々が増えると思われます。

 他の国々が核エネルギーの導入を必要とする限り、日本は原子力技術を今後も輸出しようとし続けるでしょう。ですから、民衆の立場にある私たちの役割とは、協力し合い、自分たちの政府に正しい行動をとらせることです。タイやインドネシアなどの国々の人たちは、自らの政府の核エネルギーを使用する考えを終わりにさせるべきです。と同時に、日本の人たちも、政府が原発を推進するのをやめさせ、原発を輸出する考えをやめさせるよう協力してください。

 私たちは、NNAF2011から多くの価値ある教訓を得ました。数々の知識情報だけでなく、中手聖一さんや、その他たくさんの人々のように、勇気をもって献身的に仕事をしている日本の友人たちを目にしました。それは私たちがもっと運動に邁進するよう私たちに警告する警報の役割を果たしています。
 また、CNIC(原子力資料情報室)のような民衆レベルの研究機関の存在は非常に重要であるとみなしています。将来タイのCitizens' Nuclear Information Centerを生み出せるよう努力をしていくつもりです。

 最後に、私たちはNNAFジャパンをはじめ、他の団体、今回共に仕事をした勤勉な日本の友人のみなさんに深くお礼を申し上げたいと思います。

 そして、被災された方々が一刻も早く政府から援助を受けられますように、どうか福島の災厄が一刻も早く収束しますようにと、心からお祈りいたします。



来年のNNAF は、韓国で開催

                          スヨル(社会進歩連帯 反戦チーム長)

 社会進歩連帯では私は主に核兵器の問題を担当しています。そんな私にとって今回のNNAFは活動の意思を新たにする契機となりました。

 今回のNNAFは非常に多様な日程で構成されていました。福島現地の人々の体験を聞くプログラムから始まり、福島県民集会への参加、アジア各国の参加者との活動の共有、29年間闘争されている祝島の訪問、経済産業省と東京電力、中国電力への抗議行動等、実際短い期間に消化しきれない程のあわただしい日程でした。

 しかしこのような多様な日程がただ羅列されているのではなく、うまく構成され互いに意味があるよう考えられて配置されているという印象を受けました。福島の人々との討論会の後に福島で開かれた県民集会に参加したり、祝島を訪問した後に一緒に中国電力への抗議デモを行うといったように、単に討論を通じて頭で「理解」するだけでなく、現地で闘争している人々に共感して共に行動することができたことで非常に意味のある経験になったと思います。

 福島の事故以後、韓国の政府や報道機関は、日本国民の「沈着冷静な対応」だけをクローズアップしてきました。原発の事故にもかかわらず日本国民がよく我慢して耐えているというメッセージが意味するところは、結局「原発の事故にもかかわらず我慢して耐えることは立派なこと」であり、「反核を叫ぶことは軽率で立派な態度とはいえない」というものでした。今回のNNAFは、韓国の報道機関と政府のこのような主張がいかに作られたものであるか確認することができたよい経験でした。

 今回のNNAFの成功は、ある意味では福島で大きな災害が発生したことによるといえるかもしれません。福島の事故は日本だけでなくアジア地域と世界の反核運動陣営とって新たな転換点となっています。多くの人々が原発の問題について認識し始め、反核運動陣営もまたこのような状況の中で新たな力を得ています。
 
 しかし、このことは(ただ福島で事故が起こったからではなく)NNAFのように様々な国の反核運動が共に力を合わせ、決意を新たにできる機会があったからだと思います。このように互いに交流し連帯の意思を確かめ合い、共通の目標を確立するための場が今後も続けられなければならないと思います。

 そういう点でも来年のNNAFを、3月に核安全保障サミットが開かれる期間に合わせて韓国のソウルで開催することになったことは非常に意義深いことだと思います。

 核安全保障サミットは、世界50か国の首脳が集い、核兵器や核物質、技術の管理統制、そしてこれを遂行するための軍事的行動まで論議する、最高レベルの会談です。しかし結局のところこれは、核兵器保有国の権力を強化して、核兵器保有国に協力する国家に対しては核発電を保障する、世界的規模の「核カルテル」と言っていいでしょう。

 窮極的に脱核の道を要求する私たちは、核安全保障サミットを決して黙って見ているわけにはいきません。福島から伝えられた脱核のメッセージを、全世界に伝え続けていかなければならない、それが私たち反核運動陣営の使命であると考えます。

 アジアの多くの仲間たちが来年3月ソウルに集まり、核安全保障サミットに参加する首脳たちが、「核安保」首脳会議でなく「脱核」首脳会議を開くことを共に要求しましょう。

No more Hiroshima! No more Nagasak!No more Fukushima!Sayonara Nuclear!



ノーニュークス・アジアフォーラム通信 No.111
                   (11年8月20日発行)B5版24ページ
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