広瀬隆 「福島原発事故 -メディア報道のあり方-

        「ニュースの深層」朝日ニュースター 3月17日(木)20:00〜 放送
         
                        インタビュアー:葉千栄(東海大学教授)、前田真里

葉さん:多くの国民が今日、空中からの放水と地上からの散水を見ましたが、この手段は効果がありますか?

広瀬さん:原子炉の崩壊熱のグラフを見てください。電気出力で100万キロワットの原発の場合です。グラフはずっと下がっていきます。対数グラフで分かりにくいのですが、一日たっても1万キロワットあるのです。1万キロワットというのは、それだけで発電所ができるほどの大きな熱量です。これはどんなに低くなっても、半永久的に出るのです。水で冷やすということは、水を循環させて熱を奪っていかなければ意味がないのです。水をかけても意味がないのです。何が大事かと言うと、たった一つ、電源だけです。電源が回復しないのに水をかけても、焼け石に水なのです。

葉さん:電源回復させる理由は? つまりシステムを作動させるため?

広瀬さん:そうです、要するにこの事故はどこから始まったかというと、津波でオイルタンクなどが流れて、発電機などがみんな水をかぶった、そこにあったのです。そこを直さない限り、この事故は原理的に収束できないのです。

葉さん:今日の夕方になって、東北電力から高圧送電線を現場にひこうとしていますね?

広瀬さん:それで少し希望を持ちました。しかし悲観的になるのは、原発はこの図(テレビで使われるような原子炉の略図)のようなものではないからです。こんなものはポンチ絵です。これ(実際の原子炉下部の写真)は原子炉のお釜の下の部分です。これが原子炉のお尻なんです。見てください。ずっと制御棒とか配線とか配管が、山のようにあるのです。テレビでえせ学者が出てきて簡単に言っていますが、あの人たちは何も知らないのです、大学教授たちは。技術者だけが知っているのです。そこに水をぶちこんできたわけでしょ。こんなに山のような配管が目まぐるしく走っているのです。我々にはわからないくらい、滅茶苦茶に複雑な構造を持っているのです。もう一週間になりますが、その間にそこに水をぶっかけたりしてきました。それも塩水でしょう? お釜に塩水を入れて高温にしたらどうなると思います? 塩ができちゃうでしょ? 塩があったら、それがみんなこういうバルブなどに入って固着しちゃうでしょ。動かないでしょう。そういうことがあらゆるところで起こっているのです。だから、簡単に考えちゃいけない。ただ電源をつないだからこれから水がぐるぐる回る、というふうには私には思えないのです。普通のエンジニアの人だったら想像すればたぶんわかると思うのですが。とてつもない滅茶苦茶な状態になっているところに、今ヘリコプターで水をまいたりするということを本当にやって、あの人たちに見通しがあるならいいですが、私には少なくともわからないです。

葉さん:3号機と4号機の使用済み核燃料のプールをいっぱいにするには、1300トンの水が必要です。午前中30トン。あとは自衛隊の車5台で30トンを放水しますが、まず足りないし、それを継続しなければならない。したがってこのような放水は現状を変えることができないですね?

広瀬さん:原理的にいうと、できないんです。非常に健全な状態であっても、熱をギリギリでいつも常にコントロールできて安全が保たれるのですから。内部がめちゃくちゃで、残っている50人の運転員の方々のことを、涙が出るくらいに思います。たぶん被ばく量は大変な被ばくで、たぶん死ぬだろうということを覚悟してあそこにいらっしゃるわけです。あの人たちがだいたいもつのかどうか。肉体も。たぶんそんなところまできてる。あのテレビで解説している学者たち、「お前たちそんなことを言うんだったらその現地へ行ってやれ!」と私は言いたい。本当に、あんなでたらめばかり言って、ただ安心させようとか、パニックを抑えようとか。いま日本人は、本当に正しいパニックを起こさなければならないんです。これは本当に危ないところに来ています。もし私が総理大臣だったら、もうここまできたらチェルノブイリの原子炉の爆発でソ連がやったように、最終的に石棺と言って、セメントで固めるしかないんじゃないかということをふと思うと、日本中のセメント会社すべてを動員して、空からまくような体制を指令した方がいいと思うのです。それは、最悪のことを想定してやっていかないと。なぜかというと、福島には第一原発と第二原発に6基と4基で10基の原発があるのです。1基の原子炉が最後に最悪の事態になったら、もちろんそこにいる人、職員の人たちはそこにいられなくて退避するか倒れてしまうか、どちらかしかないわけでしょう。もし1基がいくとしたら、第一なら残りの5基も時間の問題なのです。さっきのグラフの熱をとれないサイクルに入りますから。どういう順序でいくかわからないけど、少なくとも6基全部だめになるのです。そしたら福島第二もおそらくあの距離だったらダメになるでしょう。そこに職員はいられないんじゃないかと私は想像します。最悪のことを話しているようですが、確率としてはそんなに低い確率じゃないんです、全世界が見てるのはそこなんです。日本だけが隠しているだけであって。実際には、お分かりと思いますが、福島第一原発6基のうちの4基が全部危機にきているのです。そのうちのどれか1基で電気が動いて水がうまくいっても、他の3基がダメになるかもしれないでしょう。4基とも危機に来てますから、4基とも100%うまくいくということは、私はどうしても、言いたくはないのですが、考えると悲観的になるのです。そうすると、ともかく日本の国民すべてを救うためには、放出される放射能を最小限にするようなことを、何とか考えておくべきだ。水をまくというような、焼け石に水のことをやるのではなく、それを考えるべきではないでしょうか。なぜそういうことを考えるかと言うと、原子炉が6基すべていくということは、ここまできたら、非常に高い確率であり得ることですから。みなさん台風の通過速度をご存じと思いますが、大体1週間で通り過ぎますね。要するに、風速2メートルのそよ風でいきますと、5日間で日本中全部が放射能に包まれるのです。20キロ、30キロ、100キロの話じゃないんです。もちろん東京も、大阪も。それくらいの速いスピードで放射能の雲が包むのです。ただしそれは天候次第で、どういう汚染分布になるかわかりません。風向きがほとんど太平洋に向かって吹いてくれればいいですが、そうではない。たとえば15日、おとといは東京に向かいましたね。あのようになるわけです。それはわからないのです。そして雨が降るか、雪が降るか。それが降り積もると全部汚染してきます。つまり、最後は日本人が求めるのは水と食べ物ですから。水と野菜が汚染されてしまったら、私たちはどうしようもないわけでしょう、逃げようがないのです。だからその量を最低限に抑えることを、今から少なくともしなくては。私が言っていることが間違っているならいいんですよ。水をかけても意味がないとは言いません。私にはわかりませんから。しかし映像を見ている限りは、ほとんど意味がないと思いますね。

葉さん:初期段階の行動、手段の問題点は、一番最初に、今日やっている高圧線を敷地の中に真っ先に敷くべきだったのにやらなかったこと?

広瀬さん:これは電源がなくなって始まった事故ですから、必要なのは電源回復だけなのです。最初から。だから、私は悔しいと思うのは、この福島の原子炉を作ってきたのは日立と東芝なのですから、その技術者を結集するしかないのです。東京電力は、運転員だから知らないのです。ましてや保安院は何も知らない。私に言わせればバカ集団です。何も知らないんです。政治家はもっとひどい。無知な人間たちが議論してもダメなのです。できれば日立と東芝の技術者が。この福島原発は特に古い炉ですから、68歳である私の世代よりもっと上の人たちが設計したのです。とっくにその人たちはリタイアして現場にはいません。しかし少なくともこの原子炉をどうしたらいいかということを考えられる人は何人かいるのです。私の親友で田中三彦さんなど優れた人が、以前から危ないと言っているのです。そういう人たちの知恵を結集するしかないのです。官邸でどんな議論をしたって駄目なのです。

前田さん:参議院の院内集会で元東芝の設計者の後藤さんが説明されましたね。たくさんの議員が来ていました。

広瀬さん:菅首相もど素人です。悪いけどもちろん政治家にわかるわけがないのです。しかし少なくともスリーマイル島の事故が起こった時の、アメリカのジミー・カーターの行動と比較しても、日本の方がひどいです。なってないです。枝野も傲慢な態度で「大丈夫、大丈夫、万が一」なんて言っていて、結局こうなったでしょう。こんなことは最初から予測できていたことです。少なくとも私のような門外漢でもわかったのですから。どうやったら電源回復できるか、そこだけにあるのに、ここまで持ってきた責任は重大です。

葉さん:一連の話の中で、レベルの低いミスの連続です。例えばおととい、ポンプに油を入れ忘れて止まってしまって冷却水の注入ができなくなった。昨日は発電所と東電本社の専用回線を間違って切ってしまって8時間も現場のデータを送ることができなくなって、衛星電話で口頭で伝えた。世界中のメディアが報道しています。日本らしくないとみんな言ってますが?

広瀬さん:電力会社には、事故の対処能力はないのです。メーカーの技術者にしかない。それから、少なくとも日本の電機メーカー、家電を含めて、発電機の製造は世界一の技術を持っているのです。なぜ最初に発電機を運ぶとか、対策を取らなかったのか、それができなかったのか、それも技術者つきで。機械だけじゃだめなのです。配電盤のことなどすべてわかる人も行かないと。どうしてそれができなかったのかということは、すべての日本の原発の欠陥を証明しています。

葉さん:毎日各自治体が放射線を測定しています。発表された放射線の値を見る限り、上がってはいるけれどもまだ健康に被害はない、と民放テレビ各社で言っています。胃のレントゲンと比較したり、もっと線量が上がったらCTと比較したりしています。実際はどうですか?

広瀬さん:これは、たとえばおとといです。福島第一周辺で400ミリシーベルト/時、1時間ですよ。これが測定されて枝野が初めて、健康に影響があると言いましたけれども、意味が全部伝わっていないのです。すべての報道機関が悪いと思います。人間の一般の生活で私たちが受けている放射線、宇宙からも放射線を受けますよ、なんてくだらないことを言っていますけれども、あれはすべて1ミリシーベルト/年なのです。一年間に365日があって、24時間でしょう。365×24を、みなさん電卓を持っていたら計算してください。8760です。それを掛けるのです。こちらは/時ですから。ということは、通常の350万倍ですよ。何で大丈夫ですか? これを報道した機関がありましたか? 言っていないでしょ。しかも彼らは、一瞬で抜けるCTスキャンなどを比較していますが、そんな問題じゃないのです。放射性物質が出ているから、放射線が出ているのです。それを体の中に取り込むと体内被曝が怖いのです。テレビに出ている御用学者たちが何を言っていますか? 遠くへ行くと距離の二乗に反比例すると。逆のことを私は言いたい。体内被曝というのは放射性物質が体に入ることです。どうなりますか? 要するに1mのところに放射性物質があって、吸い込んで体の中に入ってピタッとくっついたら、ミクロン単位になるのです。それは、1mは1000ミリ、1ミクロンは1000分の1ミリでしょう。1000×1000の二乗になるのです。距離の二乗に反比例するというのはそういうことなのです。だから、被ばく量が一兆倍になるのです。一粒の小さなものを吸い込んでも怖いのです。

葉さん:ですから、CTやレントゲンと比較しても意味がないのですね。放射性物質を吸ってしまうからですね?

広瀬さん:そうです。放射性物質は、体に入ったらどこに何が入るかは分かっています。怖いのは女性、特に妊娠している女性や幼い子どもです。いま報道されているのはヨウ素とセシウムですが、それは一部であって、きちんとした検出器で測っているわけではないのです。あれはモニタリングといって、空間線量を測っているだけ。機械は何も食べないんですよ。放射性物質の量とは関係ないんですよ。空間線量だけでそんな単純に・・・。私が原子力に反対する活動のきっかけになったのは、医療関係の仕事をしていて、外国の文献にそのことがきちんと書いてあって、それで気づいたのです。1970年代です。日本の医師たちはそのことにすっかり言葉を濁しています。

葉さん:放射線の被害と放射性物質の被害は別なのですね?

広瀬さん:福島原発の放射線がこのスタジオまでどれだけ飛んでいますか? と言われたら、そんなものはないのです。でも放射性物質は空を飛んできているのです。炉心溶融が始まったら、原子炉の中にあるヨウ素などという物質はすぐにガスになります。上が抜けてしまっているから、隙間があってどんどん出ているはずなのです。

葉さん:それを測定する方法は?

広瀬さん:ある新聞記者から聞いたところによると、今東京電力は、モニタリングすらできない状態なのです。ただ、ときどき行って測っている、それを枝野がしゃべっているだけです。定常的に測っていません。コンスタントに見ていかなければならない。それも、何が出ていて、どれだけ出ているかを測らなければならない。それは、かなり高度な分析機を持っていないとできないのです。そんなことはモニタリングポストではできないのです。空間線量を測ったって駄目なのです。車で行ってちょっと測って、高かった、低かった、そんな話ではないのです。今、どんな放射性物質が出ているか、それがどこに飛んで行っているか、そういうことは、今の体制ではおそらく現在できないです。

葉さん:そういう物質が日本各地に飛んで体内被曝を起こす可能性がある。なのに別のものを別の形で測っているのでしょうか?

広瀬さん:別の形で言いましょう。双葉厚生病院で、ヘリコプターで避難する人たちが屋上で被曝したというのでびっくりして距離を測ったら、3.4キロでした。ちょうどその時、フォトジャーナリストの広河隆一さんが電話をかけてきてくれて、ちょうどそこで「大変だ、1000マイクロシーベルトのカウンターが振り切れてしまった」というのです。原発でじゃないですよ。枝野が言っているのは、原発の話です。原発じゃなくてここで針が振り切れているのです。放射性物質は間違いなく行っています。だから今、福島県内の人は大変な状態なんです。住民がパニックだと言っていますが、パニックですよ。当然です。私は、被曝している子どもたちの放射線量を測っている写真をニューヨークタイムズで見ました。私は、この写真を日本の全部の新聞に出せと思います。どうしてこの写真をニューヨークタイムズで見なければならないのかと、悲しくなりますよ。

葉さん:今回のメディアの日本の報道についてどう思いますか?

広瀬さん:一番批判したいのはNHKの科学文化部の某です。ただちに健康に影響は出ないと。ただちにってどういうことなのかと、なぜ誰も追及しませんか? 1ヶ月後ですか、1年後ですか? 冗談じゃない。ガンなんていうものは、何年たったって出る可能性がある。わからないでしょう。人によってみな違うのです。特に危ないのは幼い子どもたちです。とうとう私の孫の高校生が、外国に行くと言い出しました。「だって俺、黙って死ぬのは嫌だから」って。正しいでしょう。だけど事実を知ったら、今そういう状態なんです。だから、軽々しく言ってほしくないんです。大丈夫であるだなんて。そういうことを言ってはいけないんです。「危ないんだ」と言わなければ。少なくとも、こういう事故が起こったらアメリカでもドイツでも、こんなマスコミはない。危険だから逃げなさい、ということをきちんとやりますよ。日本は、テレビをつけても、何も起こっていないようじゃありませんか。信じられないです。

葉さん:放射線量だけでは不十分だけれど、それでもテレビの各チャンネルで、せめて各地域の放射線の測定値を報じるべきでは? それは第何グループなどという停電の話よりはるかにそっちの方を流すべきでは?

広瀬さん:私もびっくりしましたが、おととい東京が汚染することについて、ドイツ人が解析した現在の福島の放射能雲のシュミレーション動画がインターネットで出ていました。ガクッとしました。ドイツ人はすでに解析しているのです。最初は太平洋側に流れているが、それからざっと風向きが変わって東京方向に降りてくる動画を作っているのです。それを見せるべきでしょう。日本人全部に。そんなことはできるはずでしょう。できる人がいるはずでしょう。そう思いません? これだけCGだなんだとやっている大学教授たちが、何もしていないんじゃないですか? われわれに教えてほしいんですよ、今。

葉さん:そのような真実をテレビで報道するとパニックが起きる、それが2次被害になる、東京の0.08は全く安全だ、なんて話も出てますが?

広瀬さん:いやいや、だからその数値は、放射線の空間線量のことを言っているのです。怖いのは放射性物質であってね。少なくとも、放射性物質を測定できるような人間はいるのです。東京にもいるのです。例えば原子力関係の機関があちこちにありますから。東海村などにもいますし、その人たちが、今あちこちで自分たちの持っている計器をフルに活用して、想定できるところをずっと回るべきですよ。そう思いませんか? できるだけ早く。そして、これだけの汚染が起こる可能性があるというなら、そういうことを言ってから、安全論をやってほしいんですよ。何にも資料もなしに「ただちに健康に影響が出るものではない」なんていうことをNHKがたびたびやっているでしょう。ここまできたら、あの人間たちは平気な顔してやってますけど、犯罪者ですよ。子どもたちに対して。

葉さん:この地震だけではなくて他にも震度6以上の地震が起こるかもしれないと言われていますが?

広瀬さん:みなさんは、仮に私が言っているようなことが抑えられたとしたら、ほっとするかもしれない。それは違うのです。(地震の図を示しながら)おととし8月11日に、駿河湾地震がありました。このとき浜岡の原子力発電所が直撃を受けて緊急停止をして、内部は大変な状態になりました。その時前後して、伊豆半島でも地震が起こりました。これは、私は予測していたのです。おととしの4月の時点です。地殻変動を国土地理院が調べていて、毎日どういう方向に地殻の変動が起こっているかを調べていますが、それを調べていたら4月時点で駿河湾一帯がずっと地殻変動を続けています。周りもずっと調べていたら、南長野まで動いている。そして紀伊半島を調べたら動いていなかったのです。それで私の直感としては、太平洋プレートが大変な動き方をしているな、これはあちこちで大地震が起こるのではないかなと思っていたら、9月にスマトラ沖地震が起きました。マグニチュード7.6です。兵庫県南部地震が7.3ですから。ここでバヌアツでも7.8、サモア諸島でも8.0です。太平洋プレートという世界最大のプレートが、日本の下に潜り込んでいるのです。1千キロの深さ、日本列島の長さくらいにもぐり込んでいる。そして、去年の2月にチリ沖で地震があり、ナスカプレートが動く。それが動けばオーストラリアプレートが動く。これはみな連動しているのです。だから私は、太平洋プレートが動いているから、太平洋側の原発がみな危ないと思っていました。もっと大きな地震が来るのです。なぜこんなことを言うかというと、私は怖くてたまらないのですが、おととい、静岡で地震がありました。今度の地震とおそらく連動しているのです。テレビに出てくる地震学者はみな、今回の地震と無関係だと言っていますが、それは嘘ですよ。あんな地震学者を信じてきたからこんなことになったのです。本物の地震学者は、石橋克彦さんです。私は日本に本当の地震学者はただ1人しかいないと思っています。だって地震予知連絡会なんて、何を予知してくれたんですか? 何にも予知していないでしょう? 神戸大学の石橋先生だけは、警告しているのです。(73年の周期性をもって起こってきた小田原地震=関東大震災、のグラフを見せながら)このグラフは、小田原地震と呼ばれるものです。平均73年というサイクルでぴったり来ていますが、最後は1998年で起こるはずだったのです。でも起こっていないでしょう? 前回が1923年、関東大震災ですね。小田原で起こったけど関東で被害がひどかったから、みな関東大震災として覚えています。1998年に起こっていないから、今年ですでに13年たっているのです。いま太平洋プレートがずっと下がっているでしょう。これが動いているのです。猛烈な勢いで。まだ止まってくれないのです。それが今度の地震、東北地方三陸沖地震だったのです。だからチリ沖地震と連動しているのです。地球がどういうふうに動いているか我々にはわからない。だけど動いていることは間違いないのです。

葉さん:平均73年のサイクル、でも今回はプラス13年という状況になっている?

広瀬さん:石橋先生は、関東大震災の時にとてつもないエネルギーが開放されたから今度は少し伸びているのではないか、と言っています。これももちろん推測ですが。だけどひずみはそんなにはもたないと思います。今申し上げた地震は、それは相模湾で起こるのです。そうではなくて、相模湾の向こう側にある駿河湾。おととし動いた、そこが壊れる可能性がある。どちらかが来るのです。私はもう確信しています。これは近いうちに起こる。

葉さん:そのような確信を持っておられるなら最後に聞きたいのですが、現在他のまだ稼働してる原発はどうするべきですか?

広瀬さん:なぜ私がこの『原子炉時限爆弾』を書いたかと言うと、駿河湾には浜岡原発があるのです。今、3基あります。今回の福島がやられたのは津波です。今度は違います。揺れで壊れるのです。私は首をかけて100%と言いますが、絶対にもたないです。マグニチュード8.4が、今度は直下で起こるのです。直下ですよ。駿河湾で起こるのです。駿河湾は、下に入っているのですから、そのユーラシアプレートがぼんともちあがるんです。直接その上に原子炉が載っているのです。1〜2メートル隆起するんですよ、土地が。その上に建物があって、大丈夫と思いますか?

葉さん:その話をすると、原発を止めたら経済や国民生活が大打撃を受けて被害、パニックになる。3割が原子力に依存しているから止められない、と言われますが?

広瀬さん:それはぜんぜん嘘です。なぜかというと、今までずっと、発電量のピーク時は夏の午後2時から3時。真夏ですよ、そのごく短い時間帯なのです。その年間の最高使用量は、火力と水力だけで間に合うのです。今でもです。

葉さん:今夜停電が起こるかもしれないのは、福島の原発が止まったからでは?

広瀬さん:それは関係ありません。こういう場合のために、バックアップとして大量の火力を持っています。全部大丈夫なのです。ところが今回の場合は火力も止まっているのでしょう。その火力の状況は我々にはわからないのです。しかし東京電力が本当に電力が足りないというなら、こんな季節ですから、電力は余っているのです。だからたぶん、火力にいろんなトラブルが起こって、復旧に手間取っているだけなのです。こんなものは全然大丈夫です。なぜなら、東京電力が持っている原発は、福島と柏崎で17基あるのです。これが一回こんな季節に全部止まったことがあるのです。停電になりましたか? ないでしょう? それだけのバックアップを持っているのです。今回はたまたま地震の影響で火力などに問題があって、つまり燃料の補給か、輸送の問題ではないかと推測しますが、それで補給ができない。だから火力の問題なんです。でも火力の場合は、こういう事故は起こりません。トラブルで終わるのです。それは、完全に復旧できることです。

葉さん:ドイツ政府は80年代に作った7基をとりあえず止めることにしました。中国政府も国民緊急会議で、原発の計画中止を言いました。他の国もこれを見て、根本から国のエネルギー体制をあらためて考えなおすという意思表示がありました。いずれにしても、日本のエネルギー体制は、これをきっかけにして変わることになるでしょうか?

広瀬さん:私は、それは国民の問題だと思うんですよ。国民がこの危険性をどれだけ理解するかにかかっていると思っています。しかし悲しいかな、テレビをこの1週間見ていて、まともなことをしゃべる人が1人も出ていないのです。なぜかわからない。少なくとも15年前までならこんなことはなかった。私なんかでなくてもいいのです。京都大学の小林圭二さん、小出裕章さん、慶応大学の藤田祐幸さん、原子炉設計者の田中三彦さんなど、こういう方たちが出てしゃべってくれればいいのです。そうすれば国民はどんどん事実を分かっていくのです。一人も出ないじゃないですか!

葉さん:原発の設計者が反対する理由は? 考えが変わったんですか?

広瀬さん:田中さんは、元日立の、原子炉メーカーの設計主任だった方で、福島原発の敷地内にある1基を設計された方です。自分が会社にいたとき、原子炉の圧力容器を製造しているときに日立が不正をしたことを自分で見ているんですよ。それでたまらなくなってチェルノブイリの事故の後に内部告発をしてくださった。そして柏崎原発を全部止めたいと、身を粉にして走り回ってこられて、今回も柏崎から戻ってきたところでした。今回の話をしたら、「俺は柏崎から帰ってきたところなんだよ。全部吹き飛んだなあ」と言っていました。今そんな状況なんです。作った人が、早く止めてほしいと言っているんです。それは、日本中の54基の原発がそうなんです。今日は、ほんのちょっとしかお話していないのです。本当にもう1つ怖いことを言わせてもらうと、若狭湾には、もんじゅを含めて14基の原発がある。青森県六ケ所村には、日本中の死の灰を集めています。私は怖くてしょうがない。六ヶ所村が壊れたら、日本の終わりでは済まない。チェルノブイリの何百倍の話になるのです。

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