ノーニュークス・アジアフォーラム通信No.107より

第13回NNAF  タイ・カントリーレポート

   持続可能性のためのオルタナティブ・エネルギー・プロジェクト(AEPS)

1970年代初頭以来、タイ政府は原発を推進しようとしてきました。しかし、政府が原発建設計画を打ち出すたびに、タイの世論はただちに抗議の声を上げてきました。

現在タイは、バンコクに2千kWの研究炉を1基所有しています。この原子炉は、「核の平和利用」計画のもとでアメリカからタイに送られたものです。

1993年、政府はバンコクの北東60キロに位置するオンカラックに、1万kWの研究炉を擁する新しい原子力研究センターを建設するという計画に認可を与えました。

1998年から2002年にかけて、地元の人々がこの計画に対して激しい反対運動を展開しました。そして、汚職問題も絡んで、この計画は2003年に頓挫したのでした。

しかし、状況が変わってきたのです。

■ 2030年までに、原発で500万kWの発電をめざす

2007年、クーデター政権の下、今後15年間の電力開発計画(「電力開発計画2007」として知られる)が可決されました。2020年に200万kW、2021年にはさらに200万kW規模の発電能力をもつ原発の商業運転を開始するという内容は、原発導入に意欲を示す政策レベルでの明らかな兆候でした。

同時に、特別な政府機関「原子力開発計画局(NPDO)」が立ち上げられ、原子力開発の準備を担当することになりました。これには、10億8000万バーツ(約30億円)の予算が計上され、パブリック・アクセプタンス、法的支援、原発に関わる労働力、原子力の安全を担当する機関などを推進することとされています。

「電力開発計画2007」は、激しく批判されてきました。その理由は、投資が過剰であること、そして、タイには再生可能エネルギーの可能性が膨大に存在するにもかかわらず、それが軽視されていることなどです。

2010年3月にこの計画は改定されました。新しい「電力開発計画2010」では、原子力開発計画の期間が20年(2010〜2030)に延長されました。原発による総発電量は2030年までに500万kWまで拡大する計画で、天然ガスへの依存を減らすことで国のエネルギー安全保障を高めると主張しています。

「電力開発計画2010」における原発開発
  運転開始(年) 規模(万kW)
1号機    2020     100
2号機    2021     100
3号機    2024     100
4号機    2025     100
5号機    2028     100
 
大きな懸念は、すでに膨大な予算が政府の原発プロパガンダのために費やされていることです。原子力は安価で、クリーンで、温室効果ガスを出さず、再生可能で、持続可能だというものです。

2009年10月には、EGAT(タイ発電公社)が世論調査を完了し、タイ国民の64%が原発を支持しているという結果を公表しました。しかし、そのうち59%の人々が、自分たちの生活圏に原発を建設することには賛成できないと答えています。

2008年10月から、EGATはアメリカのコンサルタント会社であるバーンズ&ロウ・アジア社に委託して、タイの14の州で原発建設の立地可能性調査を実施しました。この会社は、フィリピンのバタアン原発に絡んで問題の多い歴史を持っています。

タイ政府とバーンズ&ロウ社が取り交わした契約によると、この調査は2010年5月に完了するはずでした。しかし立地点を発表するやいなや地元住民が立ち上がって抗議することを恐れてか、調査結果に関して何の公式発表もなされていません。

■ オンカラック研究炉の復活

オンカラック研究炉プロジェクトは、アメリカのジェネラル・アトミック社の研究炉を建設するというものです。地域コミュニティからの強い抗議のため、2003年に契約期間が完了したというのに、建設計画は遅延したままです。

なんの進展もなく、建設が全く進んでいないにもかかわらず、タイ政府はすでにジェネラル・アトミック社に対して10億バーツ以上を支払っているのです。タイ政府は今、今後の手続きについて司法長官に助言を求めているところです。

建設計画の遅れと汚職という解決困難な問題のさなかで、科学省は新たにオンカラック研究炉建設計画に着手しようと、政府に対して新規建設の入札を行う許可を求めている段階です。同省は、医療、農業、工業分野でのラジオアイソトープのために研究炉を所有することの必要性を主張しています。しかしこの計画の真の目的は、原子力分野での労働人口を発展させることも視野に入れていると思われます。だから、1万kWの研究炉が、将来的には3万kWにまで拡大されるのです。

私たちAEPSは、この建設計画の汚職と不法行為に対して声を上げてきました。しかし現在、ラジオアイソトープ利用の問題があります。現代の科学技術において、人間はラジオアイソトープを医療、農業、工業の分野で利用するという選択肢を持たされています。しかし残念なことにタイ社会ではそうした知識は不足しています。私たちは、反原発運動の長い歴史を持つ国々から先進的な情報の提供を受け、それによって私たちの戦略を強化していきたいと思います。

■ タイにおける反核運動

私たちは、タイ初の原発建設の予定地とされそうな地域のコミュニティと関係を作ってきました。国内外の友人たちの助けを借りて、私たちは原発について地域の人々への教育を行ってきました。原発とは何か、どういう仕組みなのか、過去にどのような不具合があったか、過去にどんな事故があったか、世界的な潮流はどのようなものか、というようなことについてです。

こうしたとりくみの結果、地域の人々の原発に対する反対は非常に高まり、EGATの職員や調査者たちを地域に立ち入らせることを阻止するまでになりました。科学省の代表者は記者会見において、厳しい反対運動が続いているため、それが予定地の選定に影響を与えたと認めました。

しかし、新しい建設予定地候補の中に、秘密裏の調査に関して全く地元住民が知らされていない地域があることもわかっています。

この2年間、私たちは議員や前衛的知識人たちの小さなグループとの連携を図り、情報を開示したり政府のプロパガンダを覆したりする一般に開かれた場所を作り出そうとしてきました。この運動はぐらつくことなく、地域社会の力を高めながら行っていかなければなりません。

■ 第14回NNAFについて

タイ政府は、タイで原発を推進するために、いつも日本と韓国を例に出します。

2日前、タイ上院のエネルギー委員会は会議を開き、原発を推進することを確認しました。そこには、駐タイ韓国大使も参加しており、次のように述べたそうです。「韓国では総電力の35%が原子力によってまかなわれており、電力価格が非常に安価なので工業セクターは非常に喜んでいる。韓国は、原子力の技術移転に関してタイを喜んで支援する」

私たちは、来年夏にタイでNNAFを開催し、タイの反原発運動をさらに強めたいと願っています。

タイ政府は来年7月までに、17ヶ所の候補地の中から3ヶ所を選定するといっています。

これら予定地を訪ね、地域のコミュニティと語り合い、反原発のアクションを行いたいと思います。

アジア各国から、地域で反原発運動を行ってきたグループのリーダーを招き、タイの地域コミュニティを訪ねることで、経験の共有を行うことが大きな意義を持つと思います。

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